「4パーミル・イニシアチブ」とは? 日本と世界の取り組みと環境への効果

木々に囲まれた山道

Photo by Rodion Kutsaev on Unsplash

「4パーミル・イニシアチブ」とは、具体的にどのような取り組みで、いつ頃から注目され始めたのか。日本の農業で注目されているこのキーワードについて、詳しく見ていこう。気候変動対策として注目される理由や、その仕組みについてもわかりやすく解説する。

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2022.01.31
SOCIETY
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4パーミル・イニシアチブとは

「4パーミル・イニシアチブ」とは、土壌中に含まれる炭素を増やすための取り組みだ。国際的に推進されている取り組みの一つで、温暖化対策の切り札としても注目されている。

読み方は「フォーパーミル」で「4/1000」という数字を表す。「全世界の土壌に含まれる炭素量を、毎年4/1000ずつ増やしていければ、大気中のCO2を相殺することになり、結果的にCO2増加量をゼロに抑えられる」という考えにもとづいている。

この取り組みがスタートしたきっかけは、2015年に開催された「気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」だ。パリで行われた同会議において、フランス政府が強いリーダーシップを発揮して国際社会へと働きかけた。2021年6月時点で、日本を含む623の国や国際機関がこの取り組みに参加している。

日本においては、山梨県がいち早く参加を表明。とくに農業界において、高く注目されている取り組みだ。(※1)

4パーミル・イニシアチブの仕組み

4パーミル・イニシアチブの取り組みを知るうえで、「なぜ土壌中の炭素量が、大気中のCO2と関連するのか?」という疑問を抱く人も多いのではないだろうか。その答えは、炭素の循環にある。「大気」「植生」「土壌」というサイクルで、炭素は巡っているのだ。

人間の経済活動によって排出された炭素の一部は、光合成によって植物に取り込まれる。その植物は枯れると、土壌中の生き物やバクテリアの働きによって、炭素を含む有機物へと変換。この有機物によって、土壌はより豊かなものになる。炭素は植物の成長や食料の確保に欠かせない存在と言えるだろう。

もともと土壌中には、大気の2〜3倍の炭素が含まれている。(※2) この炭素レベルをさらに増やせば、その分だけ大気中の炭素量を減らせる計算になり、温暖化対策につながるというわけだ。4パーミルという数字は、現在、人間が経済活動によって大気中に放出している炭素量から求められている。

4パーミル・イニシアチブに関する研究は、その取り組みに参加する国や機関によって進められている。山梨県では以前より続けてきた土壌炭素貯留法や炭の活用、草生栽培の推進など、さまざまな取り組みを実践している。

2021年5月には、4パーミル・イニシアチブの取り組みによって生産された果実等を認証するための、「やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証制度」を制定した。(※3)

環境問題への効果

4パーミル・イニシアチブの実用化によって期待される効果は、大気中の炭素量減少による気候変動の緩和である。地球温暖化が問題視され、各国がいかに温室効果ガスの排出量を削減するかに注目が集まっているいま、4パーミル・イニシアチブに期待を寄せる声は大きいと言えるだろう。

また、これ以外にも4パーミル・イニシアチブには「土壌の劣化予防」「安定した食料供給」「気候変動による災害への耐性向上」という3つの目的がある。

やせた土壌では、食物はうまく育たない。土壌の改良は必須だが、気候変動によって劣化スピードは加速している。4パーミル・イニシアチブの過程で土壌中の有機物が増えれば、それは安定した食料供給につながっていくだろう。また炭素が豊富で肥沃な大地は、災害時にも強い。干ばつや洪水によるダメージを軽減できる可能性もあるだろう。

現状では、土壌中の有機物を増やし、土壌の肥沃度を高めることが4パーミル・イニシアチブのメインの目的である。大気中の炭素量減少による気候変動の抑制効果については、あくまでも従属的にもたらされるメリットとして考えられている。(※4)

普及の現状

ここでは、4パーミル・イニシアチブの現状や課題について見ていこう。世界と日本の、それぞれの取り組みについても紹介する。

世界の取り組み

4パーミル・イニシアチブに参加する国は数多く、それぞれが独自の取り組みを行っている。たとえばベナンでは、作物の残りかすのすき込みを実践し、土壌炭素に6~8%/年の影響を与えていると言われている。

フランスにおいては、小麦・クルミのアグロフォレストリー提携を実施。これによって土壌炭素に影響が出る時期はまだ先ではあるものの、いい結果が期待されている。(※5)

日本における4パーミル・イニシアチブへの取り組み

日本においては、2021年2月に「4パーミル・イニシアチブ推進全国協議会」が発足。日本でいち早く取り組みをスタートした山梨県主導のもと、東京や神奈川など、全国13の都や県が参加した。山梨県においては、草生栽培や炭化の方法について試験研究を行うとともに、現地実証を行い、新たな付加価値によるブランド化を目指している。(※6)

課題と今後の展望

研究や実証がスタートしたばかりの4パーミル・イニシアチブ。今後を考えるうえで、もちろんさまざまな課題が指摘されている。4パーミルという数値の妥当性や、どのように実現していくのかは、とくに注目されている課題だと言えるだろう。

世界中でさまざまな対策がスタートしてはいるものの、その効果を正しく判定するまでには、ある程度の年月が必要である。また、そもそも「4パーミルずつ増加」という目標が実現可能なものなのかという議論にも、答えが出ていないのが現状だ。たとえ理論的に可能という結論が出たとしても、農業現場における負担が大きくなり過ぎれば、継続は難しいだろう。

とはいえ、気候変動の抑制はもちろん、土壌の劣化予防や食料の安定供給など、土壌の肥沃化にはさまざまなメリットが期待できる。4パーミル・イニシアチブが目指すべき方向性は、間違っていないと言えるだろう。

今後はさらに研究を進め、4パーミル・イニシアチブと気候変動について、また実現可能な対策について具体的な情報を得ていくべきだ。持続可能で、かつ人々が管理しやすい方法を模索していくことになるだろう。

未来の農業に向けた取り組みを

4パーミル・イニシアチブは、日本の農業においても、注目されているキーワードの一つである。とはいえ、まだその認知度は不十分で、今後より一層の推進が求められる。土壌内の炭素量を増やせれば、食料の安定供給や、災害に強い土壌づくり、地球温暖化の緩和など、さまざまなメリットが期待できる。4パーミル・イニシアチブという新しい取り組みに、ぜひ注目してみてほしい。

※掲載している情報は、2022年1月31日時点のものです。

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