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世界人口の26%の人々はいまだに不便なトイレ環境にある。そのようなトイレ問題の啓発のため、「世界トイレの日」が2013年に国連によって制定された。トイレの環境は健康、生命や人間の尊厳にも関わる、公衆衛生に欠かせない環境問題として改めて考えてみよう。
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2013年7月の国連総会で、「毎年11月19日を『世界トイレの日(World Toilet Day)」とする」ことが定められた。世界の公衆衛生を意識し、その改善に注力するよう呼びかけるのが目的である。
先進国では清潔で便利なトイレが当然のように利用されているが、すべての国でトイレの衛生的な環境が整えられているとは言いがたい。いまだ約20億人が基本的なトイレを使用できない状況にある。(※1)
世界トイレの日の制定にあたり、国連では以下の目標が掲げられた。
・2030年までにすべての人々が安全な水とトイレを使える環境を実現する
・野外での排泄をなくす
・女性や女子、脆弱な立場にある人々のニーズに注意を払う
世界トイレの日が制定される以前から、2001年に設立されたNGO「世界トイレ機関」はこの問題に注力していた。
彼らはタブー視されがちだった排泄問題に一石を投じた。そして、彼らがトイレ環境改善のための活動を続けた結果、世界各地でトイレへの関心が高まり、世界トイレの日の制定につながったのである。
現在はSDGs(持続可能な開発目標)のひと一つとして認識され、世界トイレ機関のほか、ユニセフ、WHO(世界保健機関)が積極的に関わっている。
世界では、およそ20億人がトイレが使えない暮らしを送っている(2017年時点)。世界の総人口の約26%に相当する数字だ。屋外での排泄は珍しいことではなく、排泄物の処理が不適切であることも多い。衛生環境への不安が著しい状況だ。
不衛生な環境は、生命に関わる健康被害を招く恐れがある。適切なトイレの普及は、人々の健康を守るために非常に重要なファクターだと言えるだろう。
適切なトイレが普及している国と、していない国では、それぞれに大きな違いがある。
一つ目の違いは経済力の差だ。いまだ野外での排泄が一般的な国では、適切なトイレを普及させる資金の確保が難しい。トイレは便器さえあればいいわけではなく、安全な排泄物処理に必須の設備も必要だ。これに想像以上の予算が必要となる。このトイレ設備資金の確保ができるかどうかという経済力の違いは、公衆衛生環境の向上に関して非常に大きな差になっているだろう。
二つ目の違いは排泄物に対する考え方だ。そもそも排泄物を処理する必要性、つまりはトイレの必要性を認識しない文化を持つ国や、排泄物を不浄とする宗教観を持つ国がある。このような文化や宗教観があれば、どうしても適切なトイレ環境は整わない。
たとえ一つ目の違いである経済力の差が埋まったとしても、考え方の違いが適切なトイレ普及の壁になる可能性は十分に考えられる。SDGsとして世界的に取り組む以上、避けては通れない一面だと言えるだろう。
適切なトイレが普及していない地域ではさまざまな問題が起きている。最大の問題は衛生面だ。常に弱者が生命に関わる危機に直面している。
適切なトイレがないために、屋外で排泄せざるをえない地域がある。そのような地域に住む人は6億7,300万人にものぼると言われている。(※2)
排泄物には病原菌が含まれている。排泄物に触れた人間や害虫を介してこの病原菌が広がり、風邪や下痢などの疾病を招いてしまう。実際、毎年52万5,000人もの5歳未満の子どもが下痢性疾患で命を落としているのだ。(※3)
深刻な健康被害は子どもにだけ起きているのではない。排泄物に汚染された飲み水による健康被害や、汲み取り式のトイレの清掃作業中に起こりうる感染症や怪我など、大人も重大な問題にさらされ続けている。
トイレ普及率の低い地域は、公衆衛生面だけではなく人権面においても重大な問題を抱えている。
このような地域の女性は、自宅や学校でも適切なトイレを利用できず、野外で排泄するか、男性と共用のトイレを使わなければならない。健康上の不安に加え、不快感や恥ずかしさを覚えることもあるだろう。なかには性被害を受けた女性もいる。
学校にトイレがないため月経中は登校できないばかりか、中退を選ばざるをえなくなって教育の機会を逃す女性もいるという。(※4)
適切なトイレがないばかりに尊厳を踏みにじられる事態は、あまりにも重大な人権侵害だ。
世界トイレの日が意識されるにつれ、11月19日には適切なトイレの必要性を啓発する活動やイベントが行われるようになった。
世界トイレの日制定のきっかけをつくったNGOや世界トイレ機関では、毎年11月19日に「世界トイレサミット」を開催している。適切なトイレの重要性や、トイレと公衆衛生との関わりについて知見を得られるだろう。
日本では日本ユニセフが国営昭和記念公園(東京都立川市)に「見えないトイレ」を設置した。ドアを開けても通常の便器は見えず、土の地面に便器が埋められていた。屋外で用を足す人の環境を表現したものである。(※5)
このイベントは報道機関に取材され、広く知られることとなった。日本ユニセフではさらにアニメーションやショートムービーを制作し、適切なトイレの重要性や、その普及の必要性についての理解を広める活動を進めている。
2000年のトイレ普及率が約16%だったインドでは、政府が普及活動に注力したことにより、2017年には約60%にまで普及率を向上させた。JICA(独立行政法人国際協力機構)の協力により公衆衛生意識の啓発も行われている。
また、下水道整備が追いつかない地域でも普及が進むよう、日本の民間企業LIXILが環境配慮型のトイレをインドに導入した。適切なトイレの普及率向上に大きく貢献していると言えるだろう。(※6)
※1 世界トイレの日プロジェクト
※2 日本ユニセフ協会からのお知らせ|unicef
※3 下痢症について|厚生労働省検疫所 FORTH
※4 安全なトイレはどこに 2017年世界のトイレの状況
※5 日本ユニセフ協会からのお知らせ|unicef
※6 【11月19日は世界トイレの日】途上国でトイレ革命を進める!:トイレの大切|道立行政法人 国際協力機構
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