常識にとらわれない売り方でファンを獲得 NYのアパレルブランド「Another Tomorrow」が切り拓く未来

ニューヨーク発の「Another Tomorrow」はサステナブルアパレルブランドのお手本的存在だ。そんな彼らの特徴について、同ブランドでサプライチェーン&カルチャー部門でバイスプレジデント・オブ・サステナビリティをつとめるTara St Jamesさんに聞いてみた。

田原美穂 (タバルミホ)

サステナビリティコンサルタント / クロスボーダーマーケター

NY在住。Sustainable Journey 代表。 大学卒業後、投資アナリストとしてロンドンで勤務後、日本にて外資系ファッションブランドでマーケティングやEcommerceに15年…

2021.11.19

私たちの明日をつくる「Another Tomorrow」

Another Tommorowの店舗画像

Photo by Another Tommorow

2020年1月、ニューヨークで「Another Tomorrow(アナザー・トゥモロー)」というブランドが生まれた。

彼らは「みんなとともに迎える明日のために、ラグジュアリーを再構築する」というミッションのもと、トレンドに左右されず長く使い続けられるビジネスアタイアを提供している。注目すべき点は、ブランドの大切にしている考えだ。

「私たちは『生産者に対して生活に必要な賃金を正当に支払う』『ものづくりにおいて人道的観点を忘れずに動物に配慮する』『科学的根拠に基づいて環境への影響を考える』ということを大切にし、既存のラグジュアリーブランドのあり方をサステナブルに再構築しています」

これはすべてファッション業界が環境に及ぼしている悪影響を少しでも軽減するためだと、同ブランドでサプライチェーン&カルチャー部門でバイスプレジデント・オブ・サステナビリティをつとめるTara St Jamesさんは語る。

Another Tomorrowは、自分たちの商品を人から人へと受け渡される資産のようにとらえ、サービスを提供している。生活者にはしっかりと納得したうえで購買してもらえるよう、使用しない素材についても説明。そして、ブランドを教育のプラットフォームとしても考えており、多くのアドボカシー活動をおこなっている。

そんなAnother Tomorrowというブランドを深く知るため、Jamesさんの言葉を借りながら、4つの特徴を詳しくみていこう。

1.「洋服はオーナーが変わりながら何度も利用される自動車と同じ」

Another Tomorrowのコレクション画像

Photo by Another Tomorrow

じつはAnother Tomorrowがおこなっている施策のなかにユニークなものがある。洋服を購入してから1年間は、体形変化などを理由としたサイズ変更に対応しているのだ。

「他ブランドでは、通常そのような返品依頼は受けつけていないですよね。しかし、どのような理由であっても洋服を着ることができなくなったのであれば、その責任は私たちにあると考えています。せっかく買ってくださったにもかかわらず、お客さまは『着られない』という罰を受けるべきではありません」

言われてみれば、その通りだ。体形が変わる要因は多くあり、自分の意思ではないことがほとんどだろう。しかし、ブランドとしては損失を生みかねないサービスだと感じてしまうが……。

「私たちの商品は耐久性が高く、トレンドに左右されないデザインを採用しています。オーナーが変わりながら何度も利用される自動車と同じように、洋服を何度も繰り返し利用できる資産としてとらえているのです。さらに、返却されたとしても、それが再販されて必要な人の手に渡るのであれば、ブランドとしての売り上げにもなります」

Another Tomorrowは、最初から生産した洋服を1回限りで販売するとは考えていないのだ。ちなみに、創業者のVanessa Barboni Hallikさんはあるポッドキャスト番組で「耐久性のない洋服を購入するのは、お金をドブに捨てるようなものだ」と発言している。

2.「特定の素材を使わない理由までも伝える」

Another Tomorrowの製造過程の様子

Photo by Another Tomorrow

最近、日本でも使用する素材を公開するブランドが増えてきた。生活者にとっては非常に嬉しいことだが、Another Tomorrowは一歩先を歩んでいることを紹介したい。

ブランドとして大切にしている動物愛護の観点から、社会的にはポジティブなイメージのある素材だとしても、理念に反すると判断したらその理由を説明しているのだ。

「私たちはシルクを使用しないと決めています。自然のサイクルでは蚕が繭をつくり、そのなかでさなぎになって、繭をやぶって成虫となります。しかし、商業化のために繭糸が切れないよう、さなぎを熱で窒息させている場合もあるのです」

彼らはカシミアも使用しない。なぜなら安価なカシミアの需要が増えていることによって、モンゴルでカシミア山羊の過放牧が問題となっており、砂漠化が進んでしまっているからだという。

当たり前のように目に触れる素材だと生産過程を調べることを忘れがちだが、このようにブランドが判断基準を伝えてくれることで、私たちも洋服を購入する際の見方が変わってくるだろう。

3.「実際に足を運んでから契約をする」

Another Tomorrowに関わっている従業員

Photo by Another Tomorrow

Another Tomorrowが優れているのは考え方だけではない。サプライチェーンに関わるすべてのことを追跡できるようになっているのだ。

多くのブランドは他の企業に業務を委託している部分が大きいため、生産者の一人ひとりの状況を知ることは非常に難しい。

「私たちは実際に足を運んでから契約をしています。すべての工程を追跡できるからこそ、QRコードで『お洋服ができるまでの旅』というコンテンツを公開できています」

QRコードをスキャンすると素材の説明をしてくれるのはもちろんのこと、工場のオーナーについてまで知れるのだ。「このワンピースが縫製された工場は2人の娘がいる女性オーナーが管理していて、商品のデザインから生産までの過程で関わってくれました」といった具合に。そして、Another Tomorrowが足を運んで労働環境や賃金についても確認したというレポートもチェックできる。

4.「ブランドは知識を得て、コミュニティが活動するためのプラットフォームだ」

Another Tomorrowが公開している画像

Photo by Another Tomorrow

最後の特徴は、Another Tomorrowがブランドを教育のプラットフォームだとも考えていること。非常に多くのアドボカシー活動を実施しており、ウェブサイトから署名できる請願書は年に4回発行している。

「本当の意味でアパレル産業がサステナブルになるには、政府や企業が責任をもって改善に取り組むべきだし、生活者に対しても正しい知識を伝える必要があります」

業界に関わるものであれば、カリフォルニア州でのSB62法案に対する請願書が話題となった。彼らは衣料品労働者の出来高制の給料払いをなくし、公正な賃金の設定を求めたのだ。

自然と寄り添った暮らしを維持するため、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の原生林の皆伐を止める請願書も作成している。

常識にとらわれない、生活者に寄り添ったブランド

Another Tomorrowのコレクション画像

Photo by Another Tomorrow

Another Tomorrowのコレクション画像

Photo by Another Tomorrow

Another Tomorrowのコレクション画像

Photo by Another Tomorrow

4つの特徴を知ったいま、Another Tomorrowに対する親近感や愛着心が湧いているだろう。ビジネスシーンをはじめ人前で話す際などにも、彼らの服を身に着けることによって、エレガントに自らの環境や社会に対しての意見を表明できるのも嬉しい点だ。

これまでの常識にとらわれない斬新なアイデアを考え、しっかりと生産に関わるすべての人に責任のある行動をとり、生活者が暮らす環境についても考えているこそ、彼らと一緒に未来を切り拓いていきたい。

そう思わせてくれるブランドだ。

Another Tomorrow
https://anothertomorrow.co/

※掲載している情報は、2021年11月19日時点のものです。

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