抽象的であいまいな「トランジションタウン」という言葉。「いったいどういう意味なの?」「具体的にはどういう活動なの?」と思う方も多いかもしれない。本記事では、トランジションタウンの意味や事例を解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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「エネルギーや食料」「心や身体の健康」「気候変動や環境の変化」「格差社会や社会に参加できない人の増加」など、地球環境や社会に関するさまざまな課題。トランジションタウンとは、深刻化するそれらの問題に対して、「地域住民自らが課題解決に向けて考え、協力し、行動する市民運動」のことである。
具体的には、どのような活動なのだろうか。たとえば、日本におけるトランジションタウンの情報サイト「トランジション・ジャパン」では、以下のような活動の例を挙げている。(※1)
・地域の仲間といっしょに
・地元の資源を使って、エネルギーをつくり出すこと
・地域の人々が集まって、菜園や田んぼをつくること
・勉強会や上映会を開いて、私たちの住む社会の問題意識を共有すること
・昔から伝わっていて、途切れてしまった技術を蘇らせること
・お年寄りから昔の知恵を学ぶこと
・いまとは違う暮らし方を見つけ出すこと
・日々の暮らし方をほんの少し変えるだけで、楽しくて豊かに、そして自由になれること
トランジションタウンの活動は、コミュニティの中で上記のような変化をつくり出し、実践し、共有する。そして、「いま暮らしている地域を、より暮らしやすく、災害に強く、誰もが参加できる場所に変えていく」ことを目指す市民の活動である。
その目標は大きく2つあり、1つ目は、市民が自らの創造力を発揮しながら「エネルギーを多量に消費する脆弱な社会から持続可能な社会へ」移行すること。2つ目は「地域の底力を高めるための社会」へ移行すること。
トランジション(Transition)とは「移行」を意味する言葉であり、この2つの移行を目指すまちづくりがトランジションタウンと呼ばれている。
世界のトランジションタウンの情報をまとめ、発信している「Transition Network」では、世界各地の活動や取り組みが紹介されている。(※2)
その活動の目的を一言で表すならば、「持続可能な社会」を目指し、各地に存在するさまざまな問題に対して、「地域や自治体、あらゆる公共の団体や組織が協力してプロジェクトを計画・展開」していくことである。
炭素排出量の削減、気候変動の緩和と適応、食料、エネルギー、廃棄物、輸送、避難所・災害援助、生物の生息地保護、健全な生態系、相互援助、コミュニティの構築・回復、経済的不平等・分裂、消費主義など、地球規模の問題に対して「市民による現地での行動」を核に、以下の4点のアプローチが掲げられている。
・実践的な行動
・福祉・経済への貢献
・参加者の拡大と深化
・相互ネットワーク活性化
トランジションタウンは、2005年秋、イギリス南部の小さな町トットネスで、パーマカルチャーの講師、ロブ・ホプキンスを中心に活動が開始。前述した考えや行動に賛同する市民が参画し、関連団体、企業、行政などとも協働関係を築きながら、トランジションタウン運動は瞬く間に世界各国の地域に広がりをみせた。(※1)
日本では2008年にトランジション・ジャパンが発足。日本向け説明資料の作成、説明会の開催、トランジションに向けたトレーニングの開催、ガイドラインの翻訳、ウェブサイトでの情報発信など、日本におけるトランジションタウンの土台づくりが進められてきた。2009年6月にはNPO法人の認証を受け、現在は13人のディレクターで運営されている。(※1)
その結果、2009年に藤野、葉山、小金井の3地域からトランジションタウンが立ち上がり、2010年には総数は15地域へと拡大。現在、日本全国で50以上のグループでトランジションタウンに関わる人たちへのサポートや、普及・啓発をさらに推進するための活動が行われている。(※1)
以下に、3つの事例をご紹介する。
2009年2月にコアメンバーによって活動がスタート。住民の拠り所である、トランジションBarからはじまり、地域通貨よろづ屋、医療と健康、森部、藤野電力、お百姓くらぶ、仕事と経済など、さまざまなワーキンググループが誕生した。
藤野は、集落ごとの自治会や、自然と暮らしに関わる市民団体活動もさかんで、自然志向が高い人や、新しい暮らし方を模索する人々など、多様な横のつながりが強い地域。トランジションタウンの活動以外にも、地球や社会の循環・地域資源を考える、サステナブルな活動が市民主体で行われている。(※3)
2019年3月にはじまったトランジションタウン。市民による定期ミーティング、映画の上映会&対話会、さまざまなワークショップなどのイベント開催、安全な食べ物の共同購入、不用品交換会などの活動を通して、自然環境、食、農など持続可能な暮らしを目指す。
ワークショップは、味噌づくり、たい肥づくり、太陽光発電、意識を変える教育プログラムから、気候変動や温暖化のための学び&アクションのプロジェクトまで、多様な企画が行われている。(※4)
2014年 8月に設立。持続可能な島暮らしを目指し、石垣島キエーロプロジェクト、coral collabo(八重山諸島の自然をまもるローカル認証)、MMO(マイボトルで水おかわり)石垣島、石垣市住民投票を求める会などの活動が行われている(※5)。
農・飲食・宿のメンバーが集まって、環境にやさしい事業を行うためのガイドラインを自分たちで作成したり、協働の方法を検討したりする試みと活動、勉強会などが市民によって開かれている(※6)。
市民が創造力を発揮しながら、「持続可能な社会」と「地域の底力を高めるための社会」を目指して行動を起こし、地域で協力しながら、課題の解決を目指す「トランジションタウン」。
一つ一つの小さな活動が、ムーブメントとなって世界各地の地域へ派生し、世界をよりよい方向へ変える大きなチカラとなる。トランジションタウンに参加したいと思っている方や、立ち上げたいと思っている方はさっそく行動を開始してみてほしい。
※1 トランジション・ジャパン
※2 A movement of communities coming together to reimagine and rebuild our world|Transition Networkd.org
※3 トランジション・タウン|Fujino
※4 持続可能な暮らしへ移行するトランジション・タウン|トランジション・タウン文京
※5 トランジション石垣島|トランジション・イニシアチブ
※6 コラコラとは
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