日本で出生率の低下が問題視されている。2021年に公開された最新ランキングから、日本の出生率の現状を学ぼう。都道府県別の出生率ランキングから、地域差が生じる理由、出生率低下によって起こりうる、将来的なリスクについて解説する。
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出生率とは、人口1,000人に対する出生数の割合を示すための数値である。この場合の人口には、男性や子ども、高齢者も含まれている。このため出生率からは、「1人の女性が生涯で何人の子どもを産むのか?」を読み解くことはできない。
ここで使われるのが、合計特殊出生率という考え方である。合計出生率を求めるためには、まず女性の年齢別出生率(各年齢ごとの出生数を、その年齢の女性の人口で割ったもの)を求める。出産可能年齢とされる15~49歳の年齢別出生率を、すべて合計したものが合計特殊出生率だ。
厚生労働省が発表する「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2020年の日本の出生数は840,832人であった。出生率は6.8だ。合計特殊出生率は1.34である。(※1)
2019年の世界の合計特殊出生率ランキングにおいて、日本の順位は191位であった。世界においても、特に出生率の低い国の一つと言っていいだろう。(※2)
近年、日本の出生率は低下傾向にある。ここ数年は特にその傾向が顕著で、2017年には946,146人であった出生数は、わずか4年で100,000人以上も減少。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延による経済不安も影響し、過去最低を記録した。
日本の合計特殊出生率が最低を記録したのは、2005年のことである。この年の数値は1.26。だが、政府の少子高齢化対策が充実し、その後はやや上昇傾向に転じた。ただ、ここ数年はまた下降に転じており、社会の実情に合った対策が求められると言えるだろう。
近代日本の歩みを見てみると、出生数が大幅に増えたのは1940年代後半と1970年代前半である。いわゆるベビーブームと呼ばれる時期であり、出生数は2,000,000人を超えていた。1940年代後半の合計特殊出生率は4を超えていたが、その後経済発展が進むとともに、急激に低下している。(※3)
ではここからは、都道府県別の合計特殊出生率の現状について確認していこう。2020年の都道府県別出生率ランキングは以下のとおりだ。
順位 | 都道府県名 | 出生率 |
1位 | 沖縄 | 1.86 |
2位 | 島根 | 1.69 |
3位 | 宮崎 | 1.68 |
4位 | 長崎 | 1.64 |
5位 | 鹿児島 | 1.63 |
6位 | 福井 | 1.61 |
7位 | 佐賀 | 1.61 |
8位 | 熊本 | 1.6 |
9位 | 鳥取 | 1.59 |
10位 | 大分 | 1.57 |
11位 | 長野 | 1.53 |
12位 | 香川 | 1.51 |
13位 | 山梨 | 1.5 |
14位 | 山口 | 1.5 |
15位 | 和歌山 | 1.49 |
16位 | 広島 | 1.49 |
17位 | 福島 | 1.48 |
18位 | 富山 | 1.48 |
19位 | 石川 | 1.48 |
20位 | 高知 | 1.48 |
21位 | 滋賀 | 1.47 |
22位 | 岡山 | 1.47 |
23位 | 三重 | 1.45 |
24位 | 徳島 | 1.45 |
25位 | 愛媛 | 1.45 |
26位 | 静岡 | 1.43 |
27位 | 愛知 | 1.43 |
28位 | 福岡 | 1.43 |
29位 | 岐阜 | 1.42 |
30位 | 山形 | 1.41 |
31位 | 群馬 | 1.41 |
32位 | 兵庫 | 1.4 |
33位 | 茨城 | 1.38 |
34位 | 新潟 | 1.35 |
35位 | 栃木 | 1.34 |
36位 | 青森 | 1.33 |
37位 | 岩手 | 1.33 |
38位 | 秋田 | 1.32 |
39位 | 大阪 | 1.3 |
40位 | 千葉 | 1.28 |
41位 | 埼玉 | 1.26 |
42位 | 奈良 | 1.26 |
43位 | 神奈川 | 1.25 |
44位 | 京都 | 1.22 |
45位 | 北海道 | 1.21 |
46位 | 宮城 | 1.21 |
47位 | 東京 | 1.13 |
合計特殊出生率がもっとも高いのは沖縄県で、もっとも低いのは東京都である。2019年のデータを見ても、1位は沖縄(1.82)、そして47位は東京(1.15)である。ランキング上位の県には、沖縄以外にも九州地方の県が多く見られる。一方で、下位に目立つのは関東・近畿の大都市圏だ。(※4)
出生率が高い地域の特徴としては、以下のような点が挙げられる。
・持ち家率が高い
・地域の結びつきが強く、子育てがしやすい
・親との同居率が比較的高い
・雇用が安定している
子育て支援のための各種ネットワークが強い地域ほど、出生率が高いと言えるだろう。(※5)
世界的に見ても、先進国は出生率が低い傾向にある。2019年の出生率ランキングで、先進国中もっとも順位が高かったのは、133位のフランスであった。合計特殊出生率は1.9である。
日本と同程度の先進国としては、ポーランドやポルトガル、フィンランドやギリシャが挙げられる。出生率の低下は、多くの先進国が抱える共通の課題と言えるだろう。
こうした状況の中、いったん下降に転じた出生率を、再上昇させた国として注目されるのがフランスである。1964年には2.91であった合計特殊出生率が、1994年には1.66にまで低下。その後、「家族給付による両立支援」や「育休制度の拡充」、「父親休暇の拡大」など、さまざまな出産・育児支援策を講じた。この結果、2007年には合計特殊出生率が1.98にまで上昇した。
近年日本でも、さまざまな支援策が講じられている。とはいえ、「育休」や「両立支援」など、まだまだ「認められて当たり前」とは感じられない風潮がある。こうした環境の違いが、出生率にも表れているのかもしれない。(※6)
出生率低下が問題視される機会も多いが、具体的にどのような影響が起こると考えられるのか、3つの事例を紹介しよう。
出生率が低下すれば、当然日本国内の人口も減少。2024年には労働人口が減少に転じ、2030年には600万人以上が不足するという予測もある。労働力が不足すれば、現場を担う働き手の負担が大きくなる。また、経済の発展も妨げられるだろう。(※7)
若年者層が減り、高齢者層が増えれば、多くの高齢者を少ない人数で支える社会構造ができあがる。現役世代の税金や社会保険料負担が上昇するだろう。このままのペースで少子高齢化が進んだ場合、「2060年、2110年時点では高齢者1人に対して現役世代が約1人」という割合で、高齢者世代を支えることになる。(※8)
出生率が低下し、人口が減少することによって、発生するメリットもある。人の数が減って経済活動が落ち着けば、エネルギー消費量も低下するだろう。環境への負荷を軽減できる可能性がある。また食料自給率が低い日本にとって、食料需要の減少もメリットの一つと言えるだろう。各家庭レベルで見ても、住居や教育費の負担は軽減。生活レベル全体を向上させられる。
今後日本の出生率は、どうなっていくのか、予測するのは簡単ではない。政府は出生率向上に向けて育休制度の拡充や出産・育児費用負担の軽減、子育てしやすい環境の整備など、さまざまな対策を行っている。とはいえ、すぐに成果が出る可能性は低いだろう。
人口減を防ぐためには合計特殊出生率が2.07を超えて推移する必要がある。しかし、現在の日本の状況を考えると、この数値を達成するのは極めて難しいと言わざるを得ない。出生率を少しでも上昇させ、少子高齢化のスピードを遅らせ、社会全体を変革していく必要がある。
※1 結果の概要|厚生労働省
※2 Fertility rate, total (births per woman)|THE WORLD BANK
※3 結果の概要(3ページ目)
※4 結果の概要(6ページ目)※5 第5章 総括(3~6ページ目)|内閣府
※6 第5章 総括(1ページ目)|内閣府
※7 労働市場の未来推計 2030|パーソル総合研究所
※8 第2章 人口・経済・地域社会の将来|内閣府
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