環境意識の高まりとともに、注目されているのがストックホルム条約である。条約の内容や発効に至る背景、プラスチック問題との関連性までを、わかりやすく解説する。ストックホルム条約の詳細を知り、我々の健康と環境保護のために役立てよう。
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ストックホルム条約とは、人体や環境に悪影響を与える残留性有機汚染物質の製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理について、明確なルールを定めた条約だ。正式名称は「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」と言う。
ストックホルム条約は、「POPs条約」と表記されるケースも多い。このPOPsとは、「Persistent Organic Pollutants」の頭文字を取ったもの。つまり残留性有機汚染物質を示している。(※1)
条約が採択されたのは2001年5月のこと。当初の対象物質は12の残留性有機汚染物質であったが、その後複数回の改定が行われ、規制対象物質の数は増加している。
近年、とくに注目されているのは、プラスチック製造のために使われる添加剤が規制対象に加えられているという点である。2019年時点で、対象物質は計30物質群に上っており、それぞれのリスクに応じて、製造・使用・排出などに関するルールが定められている。(※2)
条約締結国に対しては、ルールを順守するとともに、廃棄物の適正処理や具体的な計画の策定・予防措置の実施などが求められる。日本においても例外ではなく、条約のもとで法律が制定され、我々国民に一定のルールを課しているのだ。
ストックホルム条約採択に至るまでには、我々の生活を取り巻く合成有機化合物に対する世界的な懸念の高まりがあった。
1992年6月に行われた国連環境開発会議で、合成有機化合物が海洋汚染物質であると問題提起がなされた。1993年の国連環境計画では、この問題に対して具体的な会合が行われることが定められた。
1995年にはワシントンで約100ヵ国の政府代表団、国際機関、非政府機関などが参加する会合を実施。ワシントン宣言の採択とともに、「とくに早急な対応が必要であると考えられる12の残留性有機汚染物質」を挙げ、各国に対して削減に向けた取り組みを求めた。こうした流れのなかで、より具体的かつ法的拘束力のあるルールとして採択されたのが、ストックホルム条約である。(※3)
ストックホルム条約の対象となっている残留性有機物質には、以下の4つの問題点が指摘されている。
・毒性がある
・分解されにくい
・生物中に蓄積される
・長距離を移動する
人体や環境への影響は極めて大きいうえに、国境さえも容易に飛び越えてしまうのが、残留性有機物質の特徴だ。国際的な枠組みがなければ、適正な管理は難しいと判断されたことも、ストックホルム条約採択の背景と言えるだろう。
ストックホルム条約の目的は、「リオ宣言第15原則に掲げられた予防的アプローチに留意し、残留性有機汚染物質から、人の健康の保護および環境の保全を図る」という点にある。具体的な物質名とルール内容は以下のとおりである。
製造・使用の原則禁止
アルドリン、エンドスルファン類、エンドリン、クロルデコン、クロルデン、短鎖塩素化パラフィン、ディルドリン、ヘキサクロロシクロヘキサン類、ヘキサクロロブタジエン、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサブロモビフェニル、ヘプタクロル、ペンタクロロフェノールまたはその塩若しくはエステル、ペンタクロロベンゼン、ポリ塩化ナフタレン類、ポリブロモジフェニルエーテル類、マイレックス、トキサフェン、PCB、ヘキサブロモシクロドデカン
製造・使用の原則制限
DDT、PFOSおよびその塩・PFOSF
非意図的生成物質の排出の削減
ダイオキシン、ジベンゾフラン、ヘキサクロロブタジエン、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、PCB、ポリ塩化ナフタレン
近年ストックホルム条約は、「有害な化学物質や廃棄物を規制し、これらが環境および人の健康に与える影響を防ぐ」という目的を共有する、バーゼル条約およびロッテルダム条約との連携が進められている。より包括的に、有害物質の削減・撲滅を進めていくことが、条約の最終目的と言えるだろう。(※4)
2001年に採択されたストックホルム条約が発効されたのは、2004年のことだった。発効までの経緯を簡単にまとめよう。
2001年5月:ストックホルムにて条約採択
2002年8月:日本がストックホルム条約の締結
2004年2月:条約締結国が50に達する
2004年5月:ストックホルム条約の発効
ストックホルム条約をもっとも早く締結した国はカナダで、50ヵ国目となったのはフランスであった。(※5)
2020年3月時点で、加盟国は181ヵ国およびEU、パレスチナ自治区である。締結国に対しては、規制対象となっている物質に対して、適切な取り扱いをするよう求められている。(※6)
違反した国については、「締約国会議は、この条約に対する違反の認定および当該認定をされた締約国の処遇に関する手続および制度をできる限り速やかに定めおよび承認する」と定められている。(※7)
締結国では、ストックホルム条約に基づき、さまざまな規制・法整備を行っている。日本においても例外ではない。ストックホルム条約締結を受けて、POPs条約に基づく改定国内実施計画を策定・実施。法律によって、規制対象物質を厳しく管理している。とくに最近では、プラスチック製品に使われる添加剤への規制が注目されている。
2018年のストックホルム条約第8回締約国会議で、廃絶対象となったDecaBDE。日本国内においても規制が進み、2017年4月までに、DecaBDEの製造・輸入は終了している。関連業界では、代替物質への転換に向けた取り組みが進められている。(※8)
DecaBDEと同じタイミングで規制対象に加えられたSCCPも、プラスチック製剤に欠かせない添加剤の一つである。日本ではSCCPについて適用除外を設けず、すべての用途において、製造・輸入および使用が禁止された。(※9)
ストックホルム条約が発効されてから、15年以上が経過している。プラスチックごみに対する環境意識が高まるにつれて、条約が持つ意味合いも新たな局面を迎えていると言えるだろう。人体および環境に悪影響を与え得る化学物質に対して、どう向き合っていくのかは、今後の大きな課題となる。
近年になって規制対象に加えられた物質のなかには、「含有されているのか外見からはわかりづらい」というものも多い。過去に製造された製品をリサイクルすれば、規制物質を撲滅できないという問題も指摘されている。今後も、各国が足並みをそろえて、より積極的な取り組みを行っていく必要があるだろう。
※1 保健・化学物質対策|環境省
※2 「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」とプラスチック|国立環境研究所
※3 ストックホルム条約|外務省
※4 ストックホルム条約、バーゼル条約及びロッテルダム条約締約国会議の開催について|環境省
※5 POPs条約|経済産業省
POPs 条約の発効について(お知らせ)|環境省
※6 ODAと地球規模の課題 ストックホルム条約|外務省
※7 ストックホルム条約(POPs条約)の概要(17ページ目)|外務省
※8 第一種特定化学物質に指定することが適当とされたデカブロモジフェニルエーテル及び短鎖塩素化パラフィンの個別の適用除外の取扱い及びこれらの物質群が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について|厚生労働省
※9 POPs廃棄物に係る国際動向について(3ページ目)|環境省
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