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「ASC認証」とは、水産物の持続可能性や環境問題の解決を目指す認証制度である。制度の仕組みや認証の基準、認証を受けるメリット・デメリットについて確認しよう。また、サーモンなど日本における具体的な事例や、2022年に発効する新たな飼料基準についても解説する。
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エレミニスト編集部
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ASCは、Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)の略称で、国際的な非営利団体だ。ASCは、養殖水産物を守るために、WWF(世界自然保護基金)とIDH (オランダの持続可能な貿易を推進する団体)の支援を受けて2010年に設立。責任ある養殖漁業の実現のため、ASC認証制度を運営している。
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ASC認証制度とは、養殖水産物に関する世界的な基準を設け、それが守られるように管理していくための制度である。具体的には、以下のような取り組みを行っている。
• ASC養殖認証制度と水産物認証ラベルを通じて、責任ある養殖を認定し、その実施を支えること
• 水産物の購入時に環境的・社会的にベストな選択をするよう奨励すること
• 水産物市場の持続可能性に向けての変革に寄与すること
ASC認証は国際規格であり、認証を受けて流通する養殖水産物には、ASCマークが付けられている。ASCマークが貼られた水産物を選ぶことで、環境問題や労働問題に配慮した商品を購入できる仕組みだ。
ASC認証が誕生した背景には、養殖生産量の急増がある。我々人間が豊かな食生活を送るために、水産資源は欠かせないものだ。しかし、天然の水産資源には限りがあり、すでに枯渇のリスクが指摘されている。こうした状況で、急激に伸びているのが水産養殖業である。
「自分たちが食べる水産物を効率良くつくる」という考えのもとで行われる養殖業は、非常に効率的なものだ。しかしその一方で、急成長する水産養殖業によって、新たな問題が生まれているのも事実である。
利益だけを追求するずさんな運営では、水質汚染や海洋汚染といった環境問題が生じやすい。また、無計画かつ不適正な管理のもとでは、生態系のバランスが崩れかねない。さらに、劣悪な労働条件のもとで働かされるなど、人権問題もある。
これらの問題は、養殖産業が急速に発展してきたからこそ、生じたものである。環境や地元コミュニティへの影響も非常に大きい問題だからこそ、できるだけ早期に、適切な対策を取る必要があった。こうした流れの中で生まれたのがASC認証であり、各種問題の解決策として注目されているのだ。
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以下の7つの基本原則は、養殖対象となる種の生物学的特性や課題に合わせ、さらに詳細な判定基準が策定されている。
・国および地域の法律および規制への準拠
・自然生息地、地域の生物多様性および生態系の保全
・野生個体群の多様性の維持
・水資源および水質の保全
・飼料およびその他の資源の責任ある利用
・適切な魚病管理、抗生物質や化学物質の管理と責任ある使用
・地域社会に対する責任と適切な労働環境
ASC認証の対象は、以下の12種類の魚介類である。
・サケ
・ブリ、スギ
・淡水マス
・シーバス、タイ、オオニベ
・ティラピア
・パンガシウス
・二枚貝(カキ、ムール貝、アサリ、ホタテ)
・アワビ
・エビ
・ヒラメ
・熱帯魚類
・海藻
今後、市場の要望に合わせて拡大することが決定されている。養殖業の発展に伴い、対象魚介類も増えていくとみられる。
養殖場で欠かせない水産原料、つまり養殖水産物に与える飼料についても、多くの議論がなされている。大豆、小麦、米などの農作物を際限なく使っていけば、いずれ森林破壊や土地転換といった悪影響を避けられなくなるだろう。持続可能な養殖水産業のためには、持続可能な飼料調達が不可欠だ。
そこでASCは2021年6月、環境や持続可能性に配慮した新たな飼料基準を発表。これにより、養殖水産業者は社会的責任のあるサプライヤーから環境に配慮した原料を調達し、使用するよう求められる。
リリースから14か月間は準備期間となり、2022年9月1日に発効する。関連業者は、発効時期までに責任ある対処を求められている。(※1)
消費者にとってのメリットは、ふだんの買い物でASC認証マークを目印にして、責任ある養殖の水産物を購入できることだ。ASC認証を受けた商品を購入する消費者が増えれば、認証に向けた動きも活発になるだろう。持続可能性や環境に配慮した養殖業が盛んになれば、業界全体を盛り上げることにもつながっていくはずだ。
養殖業者、加工業者、小売業者などにとっては、ASC認証を受けると商品に専用のラベルを貼れるようになる。認証を受けることで、環境に配慮した企業であるとアピールできる。
消費者にとって、ASC認証のデメリットはないだろう。一方で、生産業者にとってデメリットとなるのが、認証取得時のコストである。審査費用は、海域・位置・魚種などによって細かく分けられている。認証の有効期間が切れたあとは、更新審査を受ける必要がある。
日本で初めてASC認証商品が販売されたのは、2014年のことだった。その後、さまざまな認証商品が登場している。具体的な販売事例を紹介しよう。
2014年に、日本で初めてASC認証商品を販売したのは、大手スーパーのイオンだ。「トップバリュ 生アトランティックサーモン」3品目が、その対象だ。
2021年現在、「骨取り鮭の塩焼き」や「えびフライ」、「バナメイえび」など、認証商品は増加。生の魚介類はもちろん、加工商品にも積極的に採用し、一般消費者の手が届きやすい販売体制を実現している。(※2)
イトーヨーカドーでは、2017年に日本で初めてASC認証を受けたカキを発売した。東北大震災で被害を受けた宮城県南三陸町戸倉地域における、漁業復興という目的もあった。該当商品は「戸倉っこカキ」と名付けられ、人気を博している。(※3)
日本生協連(コープ)では、持続可能な社会の実現のため、「コープ商品の2030年目標」を設定。水産物については、ASCおよびMSC認証商品の拡大を目指している。基準をクリアした認証品の供給額構成比が50%以上になるよう、各種取り組みを進めている。(※4)
家電メーカーのパナソニックは2021年3月より、2拠点の社員食堂でASC、MSC認証を受けた水産物の提供をスタートした。これにより、同社の国内食堂のうち過半数を超える食堂でサステナブル・シーフードを提供。累計導入拠点数は51となった。(※5)
ASC認証とセットで覚えておきたい認証に、「MSC認証」がある。ASCが養殖業を対象にしているのに対して、MSC認証では天然の漁業を対象にしている。MSC認証に関する詳細情報は、以下の記事でチェックしてみよう。
養殖される各種水産物は、我々人間の食生活を支える要の一つだ。とはいえ、養殖業が盛んになればなるほど、さまざまな問題も指摘される。こうした問題を解決するために注目されているのが、ASC認証だ。ASC認証マークがついた水産物を選ぶことも、SDGs達成に向けた一歩と言えるだろう。ぜひ注目してみてはどうだろうか。
記事監修:ASC Japan
※1 新しい飼料基準で養殖業界の抱える重要な課題に取り組む|ASC Japan
https://jp.asc-aqua.org/news/latest-news/ascs-new-feed-standard-will-tackle-one-of-biggest-threats-to-aquacultures-reputation/
※2 アジア初!環境に配慮した養殖魚「ASC」認証「トップバリュ 生アトランティックサーモン」発売|イオン
https://www.aeon.info/news/2013_2/pdf/140228R_1.pdf
https://www.topvalu.net/brand/kodawari/csr/mscasc/
※3 持続可能な資源の調達と東北復興支援 ASC認証の「戸倉っこカキ」を販売|イトーヨーカドー
https://www.itoyokado.co.jp/__resources__/79505863-ef59-4772-b310-7d5028db8897.pdf
※4 日本生協連、「生協の2030環境・サステナビリティ政策」策定に合わせ
「コープ商品の2030年目標」を設定|日本生活協同組合連合会
https://jccu.coop/info/newsrelease/2021/20210519_02.html
※5 社員食堂へのサステナブル・シーフード導入 50拠点突破|パナソニック
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004140.000003442.html
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