カルタヘナ議定書とは 目的・締結国・遺伝子組換えをわかりやすく解説

生物多様性を守るための「カルタヘナ議定書」

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「カルタヘナ議定書」とは、生物の多様性を保全するための国際的なルールのこと。とくに遺伝子組換え生物の輸出入などに関して定めている。遺伝子組換えの問題点から、カルタヘナ議定書が締結された背景、目的、締結国、日本の「カルタヘナ法」まで、わかりやすく解説する。

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2021.09.27
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目次

カルタヘナ議定書とは

生物多様性を守るための「カルタヘナ議定書」

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「カルタヘナ議定書」とは、生物の多様性の保全と、持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響を防止するために定められた国際ルールだ。

生物の多様性を保全するための国際条約「生物多様性条約」のもと、遺伝子組換え生物(Living Modified Organism)の国境を越えた移動に関する詳細ルールを定めている。正式名称は「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」だ。

1995年11月に、議定書策定のための作業部会の設置が決定。その後数年にわたって交渉が繰り返され、2000年1月開催の生物多様性条約特別締約国会議再開会合で採択された。日本がカルタヘナ議定書を締結したのは、2003年11月21日だ。(※1)

生物多様性条約を締結している国は196か国に対して、カルタヘナ議定書を締結しているのは173か国(※2)だ。

遺伝子組換えとは

カルタヘナ議定書の主テーマは、「遺伝子組換え生物」。遺伝子組換えとは、ある生物が持つDNAの一部を別の生物に組み込み、その遺伝子を発現させることを言う。

植物に遺伝子組換えを行えば、病気や寒さに強くして生産性を上げたり、有用成分を増加させて食用部分の品質を向上させたりできる。食料不足や特定生物の激減など、我々が直面する問題の解決策にもなり得るだろう。

例えば「害虫に強いトウモロコシ」は、遺伝子組換えによって実用化されている作物の一つである。害虫によって作物が枯死するのを防ぎ、これまでよりも安定した収穫量を確保できるようになった。(※3)

一方で、遺伝子組換え生物は、自然界の生態系に多大な影響を及ぼしかねない。生物の多様性を脅かすリスクが指摘されている。

カルタヘナ議定書の背景・目的

カルタヘナ議定書の背景にあるのは、1992年に採択された生物多様性条約だ。この条約では、生物の多様性を守るための取り組みを、各国が責任を持って行い、また国同士が協力し合うことが定められている。

生物多様性を守るためには、さまざまな方面から努力する必要がある。その一つが、遺伝子組換え生物に関するルールの明確化であった。こうした背景のもとで生まれたのが、カルタヘナ議定書である。

遺伝子組換え生物には、生態系への影響などリスクがある。しかし我々にもたらすメリットも大きい。遺伝子組換え生物の活用を禁止するのではなく、生態系保全のために、どういった取り扱いをするべきなのかを示したのが、この議定書の目的だ。

ちなみに、一般的な遺伝子組換え生物は「Genetically Modified Organism」という言葉からGMOと訳される。一方でカルタヘナ議定書が対象としているのは「Living Modified Organism(LMO)」だ。

LMOの意味は、「科を超える細胞融合も含め、現代のバイオテクノロジーの利用によってつくり出された、生きている改変生物」。GMOと大きく異なるのは、LMOは「生きている」という部分で、これがカルタヘナ議定書の大きなポイントである。(※4)

カルタヘナ議定書発効までの経緯

1992年に採択された生物多様性条約は、1993年に発効されている。バイオテクノロジーによって改変された生物、つまり遺伝子組み換え生物を生態系に放出することへの懸念は、生物多様性条約に関する話し合いの場で、すでに指摘されていた。

しかし、カルタヘナ議定書が実際に採択されたのは、2000年のこと。発効に至ったのは、2003年9月だった。なぜこれほどまでに長い時間がかかったのか、その経緯を見ていこう。

・1993年12月 生物多様性条約の発効
・1995年11月 生物多様性条約第2回締約国会議開催(議定書作成のための作業部会を設置することが決定)
・1996年~1998年 作業部会を計6回開催
・1999年2月 生物多様性条約特別締約国会議(カルタヘナ/コロンビア)での採択見送り
・2000年1月 生物多様性条約特別締約国会議再開会合(モントリオール/カナダ)で採択
・2000年5月 各国による署名の開始
・2003年6月 締結国の数が50か国を超え、議定書の第37条にもとづき発効が決定
・2003年9月 カルタヘナ議定書の発効
・2003年11月 日本がカルタヘナ議定書を締結
・2004年2月 日本が国内でカルタヘナ議定書を発効

カルタヘナ議定書が発効されるまでには、複雑な流れがあった。その原因は、主にLMOを輸出する側(アメリカ、カナダ、オーストラリアなど)と、規制を求める側(EUや開発途上国など)の間における交渉の決裂にあったと言われている。(※1)

カルタヘナ議定書で定められている内容

カルタヘナ議定書では、LMOの輸出手続きについて、以下のようなルールが定められている。(※4)

・LMOの輸出国または輸出者は、相手国に対して事前に通告する
・輸入国は生物多様性影響評価を実施し、輸入の可否を決定する(AIA手続き)
・一定のルールを守った表示を行う
・AIA手続きを要しない遺伝子組み換え作物(飼料として用いられる遺伝子組換え穀物など)は、国内利用が決定した場合に情報公開し共有する

締結国は、これらのルールを守った上で、輸出入を行うように義務付けられている。

カルタヘナ法とは 日本国内での動き

日本は、2003年にカルタヘナ議定書を締結。この議定書にもとづいて各種規制を日本で実施するために、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称、カルタヘナ法)」を公布した。そして2004年のカルタヘナ議定書発効と同時に、カルタヘナ法を施行した。(※5)

カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物を使用するあらゆる行為について、生物多様性への影響を防止するため、とるべき措置を定めている。遺伝子組換え生物の使用形態に応じて、「第一種使用等」と「第二種使用等」の2つに分け、それぞれで明確なルールを制定。使用者は、遺伝子組換え生物が環境へ放出されないよう措置を講じる必要がある。

また日本で遺伝子組換え生物を輸入したり栽培したりする場合、カルタヘナ法にもとづいた科学的審査が行われる。ここで「問題がない」と評価されて、初めて実施できる仕組みになっている。

カルタヘナ法改正(名古屋議定書)とは

2010年10月に開催されたカルタヘナ議定書第5回締約国会合で、「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任および救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(補足議定書)」が採択された。

これは、遺伝子組換え生物等の国境を越える移動により損害が生じた場合、その損害を救済する内容を定めたものだ。損害が生じた場合は、生物多様性の復元のため、適切な対応措置を取るよう、締約国に求めている。

それまでのカルタヘナ法では、そのような生物多様性への悪影響の防止に関しては、措置が定められていなかった。そのため、悪影響が出た場合の回復の措置を命ずる規定を追加。改正されたカルタヘナ法が、2017年に公布され、2018年に施行された。(※5、6)

技術と自然の両立を目指すカルタヘナ議定書

遺伝子組換え生物の登場によって、我々の生活にはさまざまなメリットがもたらされている。一方で、生態系や生物多様性という側面から見ると、リスクがあることは事実だ。そのため、国際的なルールを定めたカルタヘナ議定書が果たす役割は、非常に大きいと言えるだろう。

※1 カルタヘナ議定書|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/cartagena.html
※2 a Cartagena Protocol on Biosafety to the Convention on Biological Diversity|UN
https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=XXVII-8-a&chapter=27&clang=_en
※3 遺伝子組換え農作物の現状について|農林水産省
https://www.maff.go.jp/kanto/syo_an/seikatsu/iken/pdf/h250805hamamatsusiryou.pdf
※4 生物の多様性を確保するための“国際ルール” カルタヘナ議定書とは|環境省
https://www.biodic.go.jp/bch/cartagena/s_02.html
※5 カルタヘナ法とは|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/about/
※6 カルタヘナ法の改正について|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/about/kaisei.html

※掲載している情報は、2021年9月27日時点のものです。

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