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ウィーン条約とは、オゾン層を保護するための国際的な枠組みを定めたもの。どのような背景で採択されたのか、モントリオール議定書との関連性とあわせて、わかりやすく解説する。さらに日本や世界の取り組み、オゾン層破壊の現状とウィーン条約による効果について紹介する。
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ウィーン条約とは、オゾン層保護のための国際的な枠組みを定めた条約のこと。正式名称は「オゾン層の保護のためのウィーン条約」で、1985年3月22日に採択された。(※1)
1900年代、世界経済が急激に発展するとともに、徐々に議論されるようになっていったのが、各種の環境問題だ。
1970年代から1980年代にかけて、とくに問題視されるようになったのが、オゾン層破壊について。オゾン層保護に向けた取り組みは、世界各国が協力して行うべきものだ。そこで国際協力を実現するために制定された基本的枠組みが、ウィーン条約である。
オゾン層やオゾン層を破壊する物質は、人間の目に見えるものではない。だがウィーン条約が策定されたことで、人々がオゾン層破壊のリスクを共有し、解決に向けた協力体制を敷きやすくなったと言えるだろう。ウィーン条約は、オゾン層保護のために非常に重要な役割を担っている国際条約である。
ウィーン条約が採択された背景には、1970年代から問題提起されるようになったオゾン層破壊がある。
1974年、のちにノーベル化学賞を受賞したアメリカのローランド博士が、フロンとオゾンに関する研究結果を発表。フロンが大気中に放出されると成層圏まで上がり、化学反応によってオゾン層が破壊されることが明らかになったのだ。(※2)
フロン類は1928年に、アメリカの科学者トーマス・ミッジリーによって開発された。自然界には存在しない物質で、化学的に安定しており人体に無害であることから、「夢の物質」ともてはやされ、エアコン、冷蔵庫、自動車、スプレーなど、さまざまなモノに活用された。(※3)
そして、オゾン層への影響が指摘されたときには、すでに世界中の人々の生活に、欠かせない存在となっていたのだ。
そこで脱フロンに向けた取り組みをできる限り早急に行うためには、国という枠組みを超えたルールが必要となった。こうして誕生したのが、ウィーン条約だ。ウィーン条約にもとづき、各国が具体的に行うべき取り組みは、1987年に採択された「モントリオール議定書」に記載されている。
ウィーン条約の意味を理解するためには、オゾン層破壊による問題点を把握する必要があるだろう。
オゾンとは、酸素原子3つで構成される物質だ。地上10~50㎞にはオゾンが多くある層ができており、これをオゾン層と呼ぶ。太陽から届く紫外線は人や生物に有害だが、地球の上空にあるオゾン層が、波長280~315nmの有害な紫外線(UV-B)を吸収する役割がある。(※2)
だがオゾン層が破壊されると、地表に降り注ぐ有害な紫外線量が増え、皮膚がんや白内障、免疫機能の低下といった問題を引き起こす。人間以外にも、動植物の遺伝子を傷つけるなど、生態系にも大きな影響を及ぼすと言われている。(※2)
「モントリオール議定書」で規制対象となったオゾン層破壊物質は以下の8つだ。(※4)
・CFC(クロロフロオルカーボン)
・HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)
・ハロン
・四塩化炭素
・1,1,1-トリクロロエタン
・HBFC(ハイドロブロモフルオロカーボン)
・ブロモクロロメタン
・臭化メチル
外務省のホームページでは、ウィーン条約の概要について、以下のように記載している。(※1)
・オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康および環境を保護するために適当な措置をとること
・研究および組織的観測等に協力すること
・法律、科学、技術等に関する情報を交換すること
ここから読み取れるのは、オゾン層保護に向けて各国が協力体制を敷くこと。そして、それぞれの国が適切な措置をとることの重要性だ。ウィーン条約の締結により、世界が協力し、オゾン層を守るための対策が進んでいくことになった。
モントリオール議定書は、ウィーン条約のもとで採択された国際条約だ。ウィーン条約が全体的な枠組みを定めているのに対して、モントリオール議定書には、以下のような内容が含まれている。
・オゾン層を破壊するおそれのある物質名
・その物質の生産と消費および貿易を規制するための措置やスケジュール
ウィーン条約による総合的な枠組みだけではなく、モントリオール議定書で詳細の目標が示されたことで、各国はより具体的な取り組みを求められるようになった。
モントリオール議定書はこれまでに7回改訂され、規制物質の追加や削減に向けたスケジュールの前倒しなど、規制が強化されてきた。(※5)
ウィーン条約の締約国は、198か国(2021年9月現在、※6)。日本では1988年に発効した。日本以外の主な国としては、アメリカ、中国、EUなどが挙げられる。締約国は、条約内容にもとづいた行動が求められる。
日本では、ウィーン条約とモントリオール議定書の採択を受けて、1988年にオゾン層保護法を制定した。これはオゾン層破壊物質の製造や輸出入等を規制するものだ。(※7)
これまでに行われたモントリオール議定書の改定で、世界各国に大きな影響を与えたのが、「キガリ改正」と呼ばれるもの。
これは、オゾン層を破壊することからフロンに代わって世界中で利用されてきた「代替フロン(HFC、ハイドロフルオロカーボン)」を規制対象に追加するもの。代替フロンはオゾン層への影響は小さいが、温室効果が高いことから、規制されることとなった。
日本ではキガリ改正にもとづき、2018年にオゾン層保護法を改正。代替フロンの生産量・消費量の限度が公表され、代替フロン製造業者には許可制度を設けるなどの対策が行われている。(※8)
ロシアでは2019年9月より、ウィーン条約およびモントリオール議定書の内容にもとづき、オゾン層破壊物質の時限的な輸入規制をスタートした。期間を区切った措置であるが、ロシア国内における気候変動や大気汚染に対する意識は向上していると報じられている。(※9)
環境省が2019年に発表した内容によると、1980年代から1990年代前半にかけて、地球全体のオゾンの量は、大きく減少した。この期間はウィーン条約が採択された直後のため、それ以前の影響が大きいものと予測できる。(※10)
しかしその後、オゾン量減少傾向は緩和。1990年代後半になると、条約によって各国の取り組みの効果が表れてきたためか、わずかながらもオゾン量に増加するようになってきた。オゾンホールについても、1990年代前半にあったような急激な拡大は見られなくなった。
ウィーン条約とモントリオール議定書によって各国がオゾン層破壊物質の規制を行ったことで、オゾン層の急激な破壊はある程度食い止められていると言えるだろう。
とはいえ、1970年代当時のオゾン量より少ない状態が続いている。人為的なオゾン層破壊が起こる前の1960年レベルまでオゾン量が回復するのは、北半球の中・高緯度域では2030年頃、南半球中緯度では2055年頃。南極地域では、2000年代終わり頃までかかると予測されている。
オゾン層保護を目的としたウィーン条約の採択から、30年以上が経過したいま、その効果はある程度表れていると言えるだろう。
しかし現在は、2016年のモントリオール議定書のキガリ改正で触れられたように、代替フロンによる地球温暖化が大きな問題となっている。今後はオゾン層保護と温室効果ガスの削減は、セットで考えるべき重要課題と言えるだろう。
※1 オゾン層保護|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/ozone.html
※2 オゾン層破壊問題の出現|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/outline_hakai.html
※3 フロン類と地球環境問題|経済産業省
https://www.jason-web.org/ozonelayer_fgas/fgas/
※4 オゾン層破壊物質の種類と特性|環境省
http://www.env.go.jp/earth/ozone/qa/H19_report/part2_chapter1.pdf
※5 オゾン層破壊物質の規制に関する国際枠組み|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/law_ozone_outline.html
※6 All ratifications|UN Environment Programme
https://ozone.unep.org/all-ratifications
※7 オゾン層保護法の概要|環境省
https://www.env.go.jp/press/cfc_conf01/ref02.pdf
※8 代替フロンに関する状況と現行の取組について|経済産業省・環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kagaku_busshitsu/flon_godo/pdf/010_01_00.pdf
※9 オゾン層破壊物質の輸入規制、9月から時限的に割り当て制度を導入|JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/0a7cbfbc5bc7ae37.html
※10 平成30年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書について|環境省
https://www.env.go.jp/press/107152.html
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