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モントリオール議定書とは、オゾン層保護を目的とした環境条約だ。オゾン層を破壊するおそれのある物質の生産・消費を削減する目標と、削減スケジュールなどが定められている。この議定書の内容と7回行われた改正、ウィーン条約との違いなどをわかりやすく解説する。
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モントリオール議定書とは、オゾン層を保護するための国際環境条約のひとつ。正式名称は「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」。オゾン層の保護を目的とするウィーン条約にもとづいて、1987年に採択、1989年に発効された。(※1)
オゾン層とは、オゾンが多く存在する大気中の層のこと。オゾンは人や生物を紫外線から守るために欠かせない物質だ。しかし、特定の物質が世界規模で放出されると、オゾン層が破壊され、人や生物の健康、地球環境に害を与えることがわかっている。
そこで策定されたのがモントリオール議定書だ。オゾン層を破壊するおそれのある物質ごとに、生産量と消費量を段階的に削減・全廃していき、非締結国と規制物質を輸出入することを制限・禁止している。
国連環境計画によると、モントリオール議定書の締約国は、先進国・途上国を含め、現在198か国。(2021年9月現在、※2)日本は1988年9月に加入した。議定書事務局は、国連環境計画(UNEP)が務め、ケニアの首都ナイロビにある。
モントリオール議定書とセットで語られる機会が多いのが、ウィーン条約だ。
ウィーン条約とは、オゾン層の保護を目的とする国際協力のための基本的枠組みを設定した条約で、1985年に採択された。正式名称は「オゾン層の保護のためのウィーン条約」である。(※3)
モントリオール議定書は、この条約にもとづき採択された。ウィーン条約では、オゾン層保護のために各国が適切な措置を取ることなど、オゾン層保護のための大きな枠組みが定められている。一方、オゾン層を破壊する物質の削減スケジュールなど、具体的な規制について提示しているのが、モントリオール議定書だ。
オゾン層保護を目的としている点は、両者の共通点だが、より具体的な行動を提示しているのが、モントリオール議定書であり、そこが大きな違いと言えるだろう。
モントリオール議定書の特徴は、先進国だけでなく、途上国も含めた規制を行っている点だ。さらに、途上国が対応できるよう、先進国による基金など途上国支援の仕組みも取り入れている。こうした点が高く評価され、モントリオール議定書は「世界でもっとも成功している環境条約」と言われている。(※4)
モントリオール議定書の大きな目的は、以下の2つである。
・オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定すること
・その物質の生産、消費、貿易を規制すること
これにより、オゾン層や人を保護する狙いがある。
例えば、冷蔵庫の内部を冷やすため、また電子機器の洗浄などに、CFC(クロロフルオロカーボン)という物質が使われてきた。CFCは非常に便利な物質ではあるものの、その後の研究で、大気中に放出されるとオゾン層の破壊につながることがわかった。
CFCなどの物質を削減する取り組みは、世界中で足並みをそろえて実践されていくべきだ。そのための規定として、モントリオール議定書が策定された。
モントリオール議定書を知る上で、基本となるのが「そもそも、なぜオゾン層の保護が必要なのか?」という疑問だ。オゾンは、酸素原子3個からなる気体のこと。地上から約10~50キロメートル上空に、オゾンが多く存在する層があり、これをオゾン層という。
太陽から降り注ぐ紫外線は、地球上の生物に有害な影響を与えるものだ。しかし地球を覆うように存在するオゾン層が、有害な紫外線の大部分を吸収する。それによって、我々にとって暮らしやすい環境がつくられている。
だが、フロン、ハロン、臭化メチルなどの物質が大気に放出されてオゾン層破壊が進めば、人体に有害な紫外線がそのまま地表に降り注ぐ。すると、以下のようなトラブルが増加する。(※3)
・視覚障害
・皮膚ガン
・穀物の収穫量の減少
・プランクトンの減少による魚介類の減少
健康面で悪影響を受けるリスクがあるだけではなく、世界の食糧事情にも、深刻な影響を与える可能性があるのだ。
近年、南極上空では、9月から11月頃にかけてオゾン量が著しく少なくなる現象が発生している。オゾン層に穴が空いたような状態は、「オゾンホール」と呼ばれるものだ。オゾンホールの拡大や進行を防ぐことが、環境面での非常に大きな課題のひとつとなっている。(※5)
モントリオール議定書は、オゾン層破壊の状況に合わせ、過去に7回もの大きな改定が行われている。(※4)
過去の改正の流れを見ると、規制の強化、そしてスケジュールの前倒しが進められていることがわかる。環境問題への意識の向上、そして危機感の向上がもたらした結果だと言えるだろう。
・CFCs*、四塩化炭素、1・1・1-トリクロロエタンの規制追加
・CFCs*、ハロンの削減スケジュール前倒し
・HCFCs*、HBFCs*、臭化メチルの規制追加
・CFCs*、ハロン、四塩化炭素、1・1・1-トリクロロエタンの削減スケジュール前倒し
・HCFCs*、臭化メチルの削減スケジュール前倒し
・貿易規制の強化
・臭化メチルの削減スケジュール前倒し
・HCFCs*、ブロモクロロメタンの規制追加
・HCFCs*の削減スケジュール前倒し
・HFC*全17種類の規制追加
・HFC-23の生産・消費規制および排出の破壊の追加
近年、もっとも大きな話題となったのは、2016年のキガリ改正である。これによって、これまで「代替フロン」として活用されてきた、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などの物質に規制が加えられた。
HFCは、オゾン層を破壊しない一方で、高い温室効果を有するとわかったためだ。
先進国には、2036年までにHFCの生産・消費量を、2011~2013年を基準として85%まで削減する目標が立てられている。(※6)キガリ改正によって、世界中の国やメーカーは、新たな対応を迫られている。
*略語
・CFCs:フロン類
・HCFCs:ハイドロクロロフルオロカーボン
・HBFCs:ハイドロブロモフルオロカーボン
・HFC :ハイドロフルオロカーボン
日本では、モントリオール議定書とウィーン条約の締結をふまえて、オゾン層を破壊するおそれのある物質の各種規制を行う「オゾン層保護法」が1988年に制定された。
もともとCFC(クロロフルオロカーボン)は冷凍空調機器用の冷媒としてが広く使われていたが、オゾン層を破壊することから、代替フロンとしてHFCへの転換が進められていた。
しかしキガリ改正でHFCが規制対象となったことで、オゾン層保護法もそれに沿ってそ改定。さらに、グリーン冷媒への転換に向けた取り組みが進められている。グリーン冷媒とは、ノンフロン冷媒など、地球温暖化への影響を大幅に低減した次世代冷媒だ。
日本では、キガリ改正の内容にもとづき、HFCの生産・消費量を2029年までに70%削減、2036年までに85%削減する目標が立てられている。(※7)
EUでは、独自の欧州Fガス規制のもと、HFCなどの温室効果ガスを削減するための取り組みが行われている。EUで販売されるすべての商品は、この規制を満たしたものに限定されている。
先進国では、2036年までにHFCを85%削減することが求められている。一方で途上国は、インド・パキスタン・イラン・イラク・湾岸諸国と、東南アジア、中南米、アフリカなどの2グループに分けられ、先進国よりも緩やかなスケジュールで、削減していくように目標設定されている。(※6)
モントリオール議定書は、2016年のギカリ改定によって、脱代替フロンに向けた新たな1歩を踏み出した。アップデートされた目標を達成するために、世界各国でさまざまな動きが活発化すると予想される。今後も新たな改定が行われる可能性があり、目標達成に向けて、その動きを注視していこう。
※1 オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書|環境省
https://www.env.go.jp/earth/ozone/montreal/Montreal_protocol.pdf(1ページ)
※2 All ratifications|UN Environment Programme
https://ozone.unep.org/all-ratifications
※3 オゾン層保護|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/ozone.html
※4 オゾン層破壊物質の規制に関する国際枠組み|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/law_ozone_outline.html
※5 どのようなことが起きるか:オゾン層の破壊|環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kids/aozora/dono_01.html
※6 モントリオール議定書の改定について|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kagaku_busshitsu/pdf/004_02_00.pdf
※7 次世代冷媒(グリーン冷媒)とその適用機器の開発に着手|NEDO
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101109.html
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