学生の熱意が業界のルールに風穴 大丸京都店と京都外大生が二人三脚で挑んだ食品ロス削減の物語

テーブルに乗った野菜

SDGs(持続可能な開発目標)のターゲットのひとつとして掲げられる「フードロス」。大丸京都店は地元の大学生からの打診を受け、若者たちと協力してフードロスアクションに取り組む。各テナントから定価販売ができなくなった商品を集めて販売する「食品ロス削減イベント」を開催した。

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2021.07.27
Promotion: 大丸松坂屋百貨店

「小売りの現場からフードロスアクションを」 学生たちの熱き思い

プロジェクトのはじまりは2020年10月。京都外国語大学 国際貢献学部グローバル観光学科の学生たちから「小売店の食品ロス削減について、私たちにできることはないか?」という相談が大丸京都店に寄せられた。大丸京都店と同大学とは、特別講座を通じて2年ほどのつながりがあった。この打診は食品ロスの研究を行う6名のゼミメンバーによるものだった。

営業推進部の中川真言さんは、当時をこう振り返る。「『フードロスは小売りの現場から変えなければいけないのでは?』という、学生ならではの率直な意見にドキッとさせられましたね。SDGsの認知が広がり、フードロスへの注目が集まるなか、百貨店はどのような取り組みをしているのかと、具体的事例を聞かれました。

大丸松坂屋百貨店全体としては、フードロスについて各地の店舗でさまざまに取り組みを行ってきています。京都店も2年ほど前には、食品ロス削減ショップ『ecoeat(エコイート)』との協業により、家庭で眠っている食品を引き取って金券と交換するイベントを行ったこともありました。

そのほかにも生ゴミの端材を肥料にしたり、売れ残った商品を大丸京都店の従業員が安く購入できるようにしたりと、フードロス削減の一助となるアクションは実施しています。

しかし学生たちが目指していたのは、フードロスの現状を小売の現場から変えたいという抜本的な解決案でした。そこに取り組むには、百貨店だからこそ避けられないハードルがあります。正直なところ、『そんなに簡単なことではないよ』という印象でしたね」

ディスカッションに臨む大丸京都店の担当者と京都外国語大学の学生たち

学生たちからは参考例として、スーパーマーケットのように賞味期限の近い商品をレジ前に並べてみてはどうかと提案された。しかしすべての商品を自前で仕入れるスーパーマーケットと異なり、複数のテナントを集約している百貨店で同じことを実施するのは容易ではない。

それでも中川さんは学生たちの熱意に惹かれた。コロナ禍のなか、対面では会えない。メールを使って、毎日のようにディスカッションを重ねた。百貨店という立場で何ができるのか。模索する期間は数ヶ月に及んだ。

立ちはだかる商慣習の壁「3分の1ルール」

日本国内のフードロスは年間600万tを超えるといわれる。その約半分は、規格外品や売れ残りなど流通のなかで生まれる事業系フードロスだ。

流通ルールの改正が叫ばれるなか、「小売り」と「フードロス解決」の間に立ちはだかっている大きな壁が「3分の1ルール」という商慣習だ。

「3分の1ルール」とは、賞味期限をある一定期間確保した状態で食品を店頭に並べることを目的に、製造日から賞味期限までを3分割し、製造日から3分の1の時点までに店舗に納品し、3分の2の時点を販売期間の限度とするものだ。

缶詰やお菓子など、長期間の賞味期限がある食品もこれに該当することから、まだ十分に食べられる期間があるのに店頭から排除され、食品廃棄につながってしまうことが問題視されている。

このルールは法律ではなく、あくまで慣習だ。破っても罰せられることはないが、食品の流通業界に根強く残っている。

「これは僕らも入社したときから刷り込まれているもので、小売り業界の常識的な部分。『そのルールを変えたらどうか?』という学生からの提案は、考えもしないアプローチでした。一足飛びにルールを全面的に変更するというのは難しいけれども、なにか今回の企画に盛り込めればという思いからイベントの形がつくられていきました」

学生たちの意欲が成功へと導いた「食品ロス削減イベント」

2021年4月18日、ついに食品ロス削減イベントの開催に漕ぎつけた。協力テナントから商品として集めたのは、賞味期限切れまで残り3分の1を切ってしまったもの。これらをイベント会場に集約して並べ、学生たちが自ら販売スタッフを担当した。現場運営の中心的役割を担った食品担当の竹内悠起さんは、イベント当時の様子をこう振り返る。

「タイミングとしてはホワイトデーが終わった頃でお菓子を中心に商品が集まりました。各テナントのみなさんは、我々が伝える学生の思いに共感、ご理解くださり、価格設定含め大変ご協力をいただいたことがイベントの成功につながりました」

3分の1を切った商品を店頭で販売するのは、百貨店業界を見渡しても珍しい取り組みだ。大々的な告知はしなかったものの、結果としては予想以上の集客を果たす。チョコレートのほかに、漬物の売り上げが大きかったことから、大丸京都店を日頃利用している顧客層が立ち寄ったことがうかがえた。

そしてなにより大きな発見だったのは、イベント会場で実施したお客さまアンケートにあった。多くのお客さまが「値下げされていること」に加え、「環境への配慮」を理由にこのイベントで買い物をしていたのだ。

「不用となった服を回収する『ECOFF(エコフ) リサイクルキャンペーン』を同じフロアで開催していたこともあり、環境課題への意識が高いお客様が集まっていたことが影響しているとは思います。でも、思っていた以上にフードロスに対するお客さまの意識の高さを感じました。

学生たちの意欲的な姿がお客さまにも伝わったことも、イベント成功の理由のひとつでしょう。事前に自分たちでポスターを制作したり、当日は臨機応変なレイアウト変更を行ったりと、百貨店スタッフさながらの動きに驚かされました」

若い世代の熱意と、老舗百貨店の信頼が開く新たな扉

当日は、参加したテナントのスタッフも会場に足を運び、学生たちと触れ合った。学生たちの思い描くストーリーを聞き、「こうした取り組みであれば今後もぜひ前向きに参加したい」という声を届けてくれた店舗もあったという。

「今回の取り組みはすべて、学生たちが思いを貫いて行動してくれた結果。我々はあくまでサポートをしただけです。参加してくれた6名は4回生で、来年卒業してしまいますが、ゼミのなかでは後輩たちがフードロスの研究は継続していくつもりだと聞いています。

今回の取り組みは『廃棄につながるものを食い止めよう』という、いわばフードロス削減のファーストステップ。より課題解決の根幹につなげるには、他団体や地域を巻き込んだアクションの枝葉を広げていく必要があります。

我々がサステナブルの追求を続ける姿勢は変わらない。今回の取り組みを機に産学連携のアクションとして育てていけたらと思っています」

今回の会場アンケートでもうひとつわかったことは、お客様の「食料品を選ぶ基準」だ。食品の種類ごとにヒヤリングした結果、どの食品においても上位にあがっていたのは「安全性」だった。

賞味期限はあくまでも安全性を示す目安の一つに過ぎない。今回のように別なかたちでそれを表現できれば、食品ロス削減への一歩を後押しできるはずだ。この点においては、老舗百貨店がもつ顧客からの信頼は、アクションの追い風になるに違いない。

Z世代の若者たちの熱意と、歴史ある老舗百貨店の共感が掛け合わされた今回のイベントは、小売業界のサステナブルアクションに新しい扉を開いたのかもしれない。

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プロジェクトに参加した京都外国語大学の学生(敬称略):左から順に、安井文音、野口穂乃佳、赤峯竜馬、丹治由佳、木戸沙也佳、田島舞

関連リンク

https://www.daimaru.co.jp/kyoto/shimatsu_kokoro/
大丸京都店のサステナブルアクションを紹介するサイト「しまつのこころ」

https://www.instagram.com/think_green_dm_official/?hl=ja
お買い物を通して社会貢献ができる仕組みを目指す大丸松坂屋百貨店の「Think GREEN」Instagramアカウント。環境を想うアイテムや取り組みを紹介している。

https://www.instagram.com/think_local_dm_official/?hl=ja
まちの魅力や、そこに暮らす人々の思いを伝える「Think LOCAL」Instagramアカウント。その土地で育まれる食品や工芸品などを紹介している。

※掲載している情報は、2021年7月27日時点のものです。

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