大丸松坂屋百貨店は、百貨店の立場からさまざまな環境活動に力を入れてきた。全国展開の活動に加え、「Think LOCAL(シンクローカル)」という地域に寄り添う活動にも取り組んでいる。大丸心斎橋店では都会でミツバチを育てる都市養蜂「心斎橋はちみつプロジェクト」をスタート。2019年からのトライアルを経て、2021年いよいよ本格始動する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
2021年3月23日、大丸心斎橋店の本館屋上で「心斎橋はちみつプロジェクト」と題した都市養蜂がスタートした。2019年の本館建て替えを機に開始したプロジェクトだ。
「商業施設としてできる環境への取り組み」を経営指標とする大丸・松坂屋。ESG(Environment/Social/Governanse)を取り入れたフラッグシップストアを目指して取り組んだのが、屋上の緑化だった。
テナント誘致にあたり、大丸心斎橋の5つのフィロソフィのひとつである「地域とシビックプライドの向上・復権」を各ブランド企業に伝えていくなかで、はちみつ専門店「L’ABEILLE(ラベイユ)」から「緑化した屋上に巣箱を設置し、都市養蜂を行うのはどうか」と提案を受けたこと、両社のSDGsへの考え方の一致がプロジェクト始動のきっけかとなった。
都市養蜂というのは、都心のビルの屋上などを活用してミツバチを育成し、はちみつを採蜜すること。ラベイユは、銀座や渋谷といった大都会に位置する商業施設の屋上で、都市養蜂を行うプロジェクトを行ってきていた。
ここ数十年の間、ミツバチの数が減り続けていることはご存じだろうか。ミツバチは、花の蜜を集めるだけでなく、私たちの食事に欠かせない野菜や果物を実らせる手伝いをしてくれている。
国連環境計画(UNEP)が2011年に発表した数値は「世界の食料の9割を占める100種類の作目種のうち、7割はハチが受粉を媒介している」というもの。ハチがいなくなれば、人間だけでなく、他の動物たちの食料も危ぶまれるだろう。
こうしたミツバチにまつわる危機や守るべき生態系について考える動機付けを目的に、都市養蜂がいま注目を集めている。
ミツバチを増やし育てるには、生息に必要な蜜源を増やす必要がある。都会でミツバチを育てるということは、都会に花を咲かせる緑を増やす緑化活動へとつながっていく。緑が増えれば、CO2減少にも役立ち、地球温暖化対策にもつながる、というように循環した環境活動となることが「都市養蜂」の魅力だ。
「都市養蜂というもの自体を知らなかった我々が、実際に養蜂を始めるまでに1年ほどを費やしました。採蜜したはちみつを味わえたときの感動はいまでも覚えています」と語るのは、株式会社大丸松坂屋百貨店 心斎橋店 店舗開発担当(食品担当)の吉田真治さん。プロジェクトの中心メンバーとして、実際に養蜂作業に参加している。
都市養蜂を始めるにあたって、苦労したのは大丸側が無知であって、それに伴い府から許可をいただくこと、養蜂組合の方々の協力をいただくことなど養蜂についていろいろな知識を一から勉強したことです。
本館オープン前のタイミングだったため、条件をクリアするトライアルの場所として、旧北館(現心斎橋パルコ)の11階のベランダを選んだ。周辺の民家も一軒一軒回って、プロジェクトの説明をし無事許可を得て、2箱の巣箱を設置した。
「トライアルの場所は、日当たりが悪く、ある程度の温度が必要なミツバチにとってはコンディションがあまり良いとはいえない状況でした。どれだけ採れるか予測もできないままスタートし、最終的に集まったはちみつは約60kg。
これだけ蜜をしっかりと集めていただいたということは、周辺に十分な蜜源があることを含め、都市養蜂が可能であるということを示しました。この経験を踏まえ、本格始動となる今年3月には、本館屋上に5箱の巣箱を設置できました。
環境もトライアルの場所に比べていい状態で、ミツバチたちのご機嫌もいいように感じます。目標の200kgを早くもクリアできそうなほど順調です」
トライアル時に採蜜されたはちみつは、ラベイユで「心斎橋のはちみつ」「心斎橋のはちみつサブレ」として商品化。個数限定販売し、好評を得た。今年はラベイユにとどまらず、他のテナントとも商品化を企画している。
「香りは非常に濃厚でまろやか。スッキリと喉を通るような爽やかさも感じます。さまざまな春の花を蜜源に集められているので、春らしい華やかな風味を感じていただけると思います。今年は、カステラやパンなどとのコラボや、レストラン喫茶のイートインメニューへの導入も考えています。
はちみつを使った商品を味わっていただくことも、大切な認知の入り口と考えていますが、せっかくなら育てている場所を見てほしいんです。今後(来年は)お子さんに向けた体験イベントを行いたいと思っています。
『食べ物×昆虫』という組み合わせは、お子さんにとってはキャッチーですよね。なかなか機会のない養蜂体験を都会の真ん中でできる楽しさはもちろん、そこから自然の大切さや、食について考えるきっかけを子どもたちに届けたいと思っています」
「心斎橋はちみつプロジェクト」が目指すのは、SDGsの11番目のゴール「住み続けられるまちづくり」と、15番目のゴール「陸の豊かさも守ろう」の2点にあるという。誰もが知っているはちみつを起点に、都会で緑を増やす活動へ意識をつなげてきたいと吉田さんは青写真を描く。
「『心斎橋のはちみつ』は、香りやミツバチの飛行能力から算出し、大阪城や天王寺動物園、淀川河川敷などを蜜源としていると予想しています。ミツバチの行動をイメージできると、自ずと地域の緑化に目が向いていきます。
いまはまだ『心斎橋で採れるはちみつってこんな味なのね』という感想にとどまっていて、養蜂の風景までを伝えられていません。ここからは、都市養蜂の活動全体を知ってもらうための認知拡大に努めていきます。
養蜂と聞くと、初めは怖いと思う方も多いでしょう。でも蜂の成長や活動を日々見ていると、親近感が湧くものです。実際に、周辺民家の方からは『うちの庭にも蜜を集めに来ていたわよ』と一体感を感じてくださるお声もあがっています。
スプーン1杯のはちみつは、ミツバチ1匹が集める一生分。彼らが生きるのに必要な分を除いた、貴重な残りをおすそ分けしてもらっています。ミツバチたちの日々の行動がストーリー的に伝わり、地域を巻き込んだ緑化活動へ広げていくことを目指します」
インタビューの間、吉田さんは常にミツバチに「蜜を集めていただく」と話していて、ミツバチへのリスペクトを感じる言葉選びがとても印象的だった。今年は、養蜂に参加しているスタッフが、実際にはちみつ商品を販売するシーンも増えるという。
スタッフから消費者へ、そして商品から消費者へと伝わる。愛らしいミツバチたちの日々の活動が「はちみつから始まる自然循環を街全体へ」というメッセージの広がりを加速させる1年になりそうだ。
ELEMINIST Recommends