日本も関係している飢餓輸出 自由貿易が生んだ世界の飢餓の現状と各国の事例

穀物の収穫の様子

飢餓輸出という言葉をご存知だろうか?私たち日本人にとって、飢餓は昔のもの、あるいは遠い世界のことのように感じられるかもしれない。しかし、現代の飢餓は昔のそれとは異なる原因から生じている。日本も飢餓とは無関係ではないのだ。世界の現状をふまえながら日本も他人事ではない理由を解説する。

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2021.06.30
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飢餓輸出とは

落ち穂拾い

Photo by Coralie Meurice on Unsplash

飢餓輸出とは外貨を獲得するために、国内で必要な物資を犠牲にして輸出を強行すること。1932〜1933年にソビエト時代のロシアで起きたホロドモールは代表的な飢餓輸出の事例だ。

飢餓が起こるのは、内戦や食糧不足のためではないかと思うかもしれない。しかし原因は別のところにある。

それは途上国の政府が国を豊かにするために、または借金を返済するために作物を輸出して外貨を稼ごうとした結果だ。このような外貨を稼ぐために栽培される作物を換金作物と呼ぶ。

国内で換金作物の栽培を優先すると、人々の生活のために必要な作物が不足する。そのため、食糧は換金作物の輸出で得た収入で輸入せざるを得ず、常に貿易赤字が発生している状態になる。国内の人は輸入作物を買うことになるが、貧しい人々は作物が高くて買えない。その結果、飢餓や貧困につながるのだ。

飢餓輸出の代表的な例「ホロドモール」

ウクライナは古くから豊かな土壌のある穀倉地帯として知られている。ソビエト・ロシアにとってウクライナで収穫される小麦の輸出は貴重な外貨の獲得手段だった。

飢餓が発生してもウクライナの小麦は徴発され、輸出に回され続けたため、それがさらなる食糧不足を招いた。ウクライナ人は強制移住により家畜や農地を奪われたため、400〜1450万人が死亡し600万人以上の出生の抑制があったと伝えられている。

ホロドモールはホロコーストや中国共産党による文化大革命などと並ぶ20世紀の悲劇のひとつに数えられている。

その他の飢餓輸出の事例

ホロドモール以外にも、飢餓輸出は起こっている。いまも起きている世界の飢餓輸出の例を見てみよう。

セネガル

セネガルは人口1200万人のうち70%近くが農業に従事している。つくっているのは、落花生、綿花、アラビアゴムなどの換金作物が中心だ。換金作物づくりと、食糧輸入は植民地時代にはじまる。

もともとセネガルの伝統的な食糧はキビなど同地で採れるものだったが、植民地時代の宗主国のフランスが東南アジアから持ち込んだ米の影響で味覚が変わった。その結果、主食を米に頼るようになったが、生産は輸入に頼っている。

独立後も一次産品の生産は先進国に輸出できるからと換金作物に力を入れたが、自国民の食糧を安定して確保する政策をアフリカの指導者はとってこなかった。そのため、1993年に日本で米不足が起き日本が米を緊急に大量輸入した際、国際市場のコメ価格は暴騰し、セネガルは米を買うことができなかった。

ウガンダ

2000年初頭にウガンダでは作物の生産をバニラに切り替える農家が続出した。世界のバニラの約半分を生産していたマダガスカルがハリケーンの被害に遭ったため、国際的なバニラの価格が一気に高騰したからだ。

輸入業者は世界各地の農家にバニラの生産を促し利益を上げた。しかし、しだいに生産が過剰になり5年ほどで価格は低迷した。その結果、バニラに切り替えたウガンダの農家は厳しい生活に追い込まれることとなった。

インド

14億人の人口を抱えるインドは大規模に農作物を生産している。本来は自国で国民に食糧をまかなえるだけの生産規模を持っている。

しかし、農作物の不当な廃棄や一部の富裕層の独占、生産性の低さなどから2億人が栄養不足の状態にある。根本的な原因は、貧富の格差拡大に伴って起こる食糧需給のアンバランスだ。

インドはITCサービス産業の輸出割合が50%を超えその発展ぶりが突出している。高い経済成長率とともに食糧需要は増えているが、それに見合うような食糧生産の増大にはつながっていない。そのため富裕層の食べ残しがある一方で、労働者階級の一般市民は日常生活に必要な食糧が高くて買えないという状況が生まれている。

インドの飢餓には特徴がある。それは飢餓が発生しているのに貧しい人の間で肥満も同時に生まれていることだ。一般的には、食べているから太ると考えがちだが、近年、こうした現象は開発途上国では同時に起こる現象として知られる。

カロリーがある炭水化物は、空腹を満たすことはできる。しかし、健康な体をつくるための栄養素が不足している。安定して食糧が入らない状況では、食べられるときに限界まで食べることも、肥満状態がつくられやすい状況を生み出しているのだ。

飢餓輸出は日本も他人事ではない

飢餓輸出は先進国がつくり出している現代の飢餓だ。一次産品の売買で利益が出る仕組みは、基本的に経済的な格差を前提としている。一次産品は加工品や工業製品よりも価格が安いことがほとんどであり、一次産品の輸出国は外国から加工品や工業製品を輸入するたびに貿易赤字が膨らむ。

日本は大豆やとうもろこし、小麦のほとんどを海外から輸入に頼っている。そのほかにも多くの食糧を輸入に頼っているのが現状だ。海外産の一次産品は国内産よりも安いことが多いが、それが何を示すのかを知っておく必要があるだろう。

いまのところ、日本は国民を養えるだけの食糧を輸入できる国力を持っている。しかし、経済成長の伸び悩みが続くこの状態が続けば、そう遠くないうちに食糧を輸入できなくなるときがやってくるだろう。そのとき国内で食糧の供給体制をつくっておかなかったことを悔やむことになるかもしれない。飢餓輸出の問題は日本にとっても他人事ではないのだ。

身近な食の問題点編 「世界の飢餓と自由貿易と日本」
http://www.aseed.org/agriculture/organic/syoku_3.html
第55回全国JA青年大会特集 青年大会特集 食料安保への挑戦 (5) 増える世界の飢餓人口(2)
https://www.jacom.or.jp/archive03/tokusyu/2009/tokusyu090305-873.html
貿易で豊かになれるはずなのに? 貿易が作り出す貧困問題
https://www.hungerfree.net/hunger/background/special12_2/
世界の食糧・飢餓・水問題 日本の食料自給率
https://food.uchida-it.co.jp/seminarreport/20180215/
なぜ飢餓が起こるのか?(5〜7ページ目)
https://jifh.org/pdf/joinus_plan/plan07.pdf

※掲載している情報は、2021年6月30日時点のものです。

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