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グローバリズムとは、経済や貿易における規制を排除し、世界の一体化を目指す思想のこと。グローバリズムの意味や関連語・対義語、グローバリズムの具体例や始まり、メリットとデメリットなどを解説する。さらに反グローバリズムの台頭や、日本におけるグローバリズムへの姿勢についても紹介する。
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グローバリズムとは、地球を一つの共同体と捉え、世界の一体化を図ろうという思想のこと。一般的に、国境という物理的な垣根を越えて、経済、政治、文化などを地球規模で拡大させる考え方や姿勢のことを指す。
グローバリズムは、英語で地球を意味する「グローブ(globe)」が元になっており、日本語で「地球主義」と訳される。
グローバリズムは歴史的に見れば何度も見られた思想ではあるが、言葉自体が使われるようになったのは、冷戦が終結した1992年以後と言われる。ソビエト連邦が崩壊し、アメリカを中心とする資本主義や自由主義が広がり、世界を一つの市場とする動きが加速していった。
グローバリズムと似た言葉には、「グローバリゼーション」や「グローバル化」があるが、これらは世界が一体化していく様子や現象のこと。それに対して、グローバリズムはグローバリゼーションを推進する理念や考え方、姿勢のことを指している。
また対義語として、グローバリズムに反対する思想のことを「反グローバリズム」や「ナショナリズム」という。
国境という制約をなくすことで、具体的にはどのようなことが起こるのだろう。グローバリズムが世のなかに与えた変化には、以下のような事例がある。
・共通通貨でお金の動きが自由になる
・パスポートなしで国境を行き来できる
・多国籍企業が増え、生産拠点や販売ルートの制限がなくなる
・SNSなどの通信技術の発達により、世界とのやりとりが簡易的になる
・関税や輸入制限などの規制が緩和され、自由貿易が拡大する
共通通貨の代表的な例が、ヨーロッパの「EU」だ。欧州連合(EU)加盟国は、単一通貨の「ユーロ」を導入し、経済的な国境を撤廃。自由貿易を進めたほか、人々はパスポートがなくても国境をまたぐことができるようになった。
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グローバリゼーションの歴史は、産業革命以降の19世紀頃までさかのぼる。(※1)
グローバリゼーションの最初の大きな流れとなったのが、18世紀後半から19世紀前半に起きた産業革命。さまざまな技術が発達し、蒸気船、鉄道、電信などの技術が生まれたことで、グローバル化が加速した。
第一次世界大戦、第二次世界大戦で、世界経済や貿易は打撃を受けることとなる。また1930年代の世界恐慌で、世界的に景気が後退。これらによってグローバリゼーションは弱まることとなった。
1991年にソ連が崩壊し、冷戦が終結。これによって国際機関の協力が拡大されることとなった。また、この頃から、インターネットによる情報通信や、鉄道・飛行機をはじめとする輸送手段などの技術が発展。コストをかけずに国や地域をまたぐことができるようになり、グローバル化が本格的に始まるきっかけとなった。
この頃から「グローバリズム」という考え方や言葉が、使われるようになったと言われている。
また、アメリカを中心に世界各国が「新自由主義(政府による市場の介入や規制を最小限にし、自由競争を重んじる考え方)」を取り入れ、経済活動や貿易でさまざまな規制を排除したこともグローバル化を加速させた。
こうした動きにより、生産拠点や販売ルートへの規制がなくなった世界市場では、多国籍企業が増加。企業は利益を追求するために、国境を越えてもっとも安い労働賃金を探し回るようになり、グローバル化がますます進み、グローバリズムの思想も広く定着していったとみられる。
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資源や資金の不足している新興国・発展途上国にとって、自国のみで産業を発展させることは難しく、雇用の不足や貧困が生まれている。
しかし国境という垣根がなくなれば、移民労働者として他国で働き、母国の家族へ簡単に送金ができるようになる。また、他国の産業や文化を学習することで、自国の発展に活用できるというメリットもある。
グローバル化のもう一つのメリットとしては、世界経済の発展が挙げられる。これは、グローバル化が進むことによって国際的な「分業」が進展し、最適な国や地域で効率的な生産活動がおこなえるようになるためだ。
また、世界のさまざまな技術や知識を共有できるようになるため、自国の技術発展も期待できるだろう。
2019年の世界全体のGDPは85.9兆ドルで、これは1960年のGDPの約60倍にあたる。(※1)グローバリズムが進んだことで、世界経済が大きく成長したことがよくわかるだろう。
グローバリズムにおけるもっとも大きなデメリットは、市場競争の加速による貧富の差の拡大だろう。
規制なき自由貿易によってグローバル化した市場は、競争が激しくなる。企業はコストを抑えるために、より低賃金な労働力を求めて海外へ雇用を広げようとするため、自国の産業は衰退して失業者が増える。
海外からは、雇用を求める移民労働者が流入するため、移民を受け入れた国の雇用が奪われる上に、労働者全体の賃金はますます切り下げられる。このような悪循環が、自国民の雇用機会の喪失や所得格差、貧困を生んでいる。
また、資金力のある国がグローバル市場を独占するようになるため、資金や資源、有力な産業を持たない国は競争に参入することができず、これも経済格差を生む原因となっている。
実際に、EUで自由貿易を進めた結果、輸出産業の強いドイツが市場を独占。その他の国々の産業は衰退し、現在はドイツ国内でも格差が生まれ始めている。
近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行でも、グローバル化による不安定な世界経済が明るみになった。パンデミックがもたらした経済の停滞によって、あらゆる物資の不足が問題となったが、これはグローバル化によって輸入が活発化し、自国の産業が衰退していたことが要因の一つだろう。
マスクの生産など、現在はあらゆる市場を中国が独占しており、このことが他国の産業や経済体質を弱くしている。
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経済のグローバル化によって自国産業が衰退し、移民が増加して雇用が減少した国では、反グローバリズムの動きが広がっている。
反グローバリズムとは、経済のグローバル化が貧富の格差や経済危機をもたらすとし、グローバリズムを反対する考え方や運動のこと。運動に参加しているのは、グローバル化によって移民や他国に仕事を奪われた非正規労働者や失業者などが中心だ。
これまでに、サミットやAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、WTO(世界貿易機関)の国際会議などで、大規模な抗議集会やデモといった反グローバリズム運動が勃発。彼らは、生活困窮の改善や国際貿易の規制強化などを訴えてきた。
こうした反発の声が広がったことにより、イギリスは2020年1月31日、47年間加盟していたEUを離脱。現在は、移民流入の制限などが行われている。
アメリカでは、高所得層の収入は増加する一方で、中間層以下の収入の増加率は低く、経済格差が広がっている。このような中間層の不満から、ナショナリズム(国家主義)が高まった。トランプ前大統領が、国民の支持を得て大統領の座についたのは、このことが一因と言われている。
また、トランプ前大統領が2期目を狙ったアメリカ大統領選挙では、トランプとバイデンの対決を「ナショナリズム対グローバリズム」と表現した人もいた。
第二次世界大戦後、日本も各国同様に貿易量を増加させ、輸出を通じて経済水準を上げてきた。ここ30年間では、日本の主な貿易国がアメリカから東アジア地域に変化。それとともに、日本企業の海外展開も東アジア地域を中心に変化してきている。(※2)
しかし日本は島国という特性もあり、欧州諸国と比べるとグローバル化の進展はゆるやか。移民の受け入れの少なさなどから、他国から閉鎖的だと言われることが少なくない。
さらに近年では、国内の少子化や新興国市場の拡大に伴って、世界経済における日本の市場規模は縮小。新興国市場への日本企業の対応も、他の東アジア諸国や欧州の企業に比べると出遅れている。
とくに携帯電話などのエレクトロニクス分野では、日本企業のシェアが低下していることから、グローバル化への対応が急がれている。
これらに加え、日本では少子高齢化に伴って労働力が低下しており、外国人労働者の受け入れ拡充が必要とされている。その一方で、欧米諸国と同じようにグローバル化の拡大を受け入れることで、貧困や格差が広がるといった反対の声もある。
グローバル化は自国の産業を衰退させ、雇用の減少や格差の拡大をもたらすリスクがある。その結果、イギリスのEU離脱、アメリカの前トランプ政権誕生など、主要国のなかでは近年、反グローバリズムの姿勢を見せる国がある。
さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大による経済衰退の影響もあり、今後も各国で自国優先の考え方が強まる可能性があるだろう。
しかし、グローバリズムは世界経済や技術を発展させ、長年にわたって主要国の物価を安定させてきた。そのため、反グローバリズムが広がることで、物価の上昇や供給不足を招く恐れがある。
今後も世界では、情報通信技術、AI、ロボティクス産業の発展が続くことが予想されている。そのため、反グローバリズムの考え方はある一方で、グローバリズムが終わりを迎えるとは考えにくいだろう。
グローバリゼーションの恩恵を受けつつ、経済格差や自国産業の衰退を防ぐには、競争のなかで他国を蹴落とすような、世界経済のあり方を変えなければならない。
そのためにも、貿易規制や国際協議を増やしながら、国際協力を強めていくことが不可欠だ。このことが、各国の経済や労働力を守りながら、世界が成長していくことにつながるだろう。
参考
※1 グローバリゼーションの 過去・現在・未来|経済産業省
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/pdf/02-02-01.pdf
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/pdf/02-02-02.pdf
※2 日本経済とグローバル化|内閣府
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je04/04-00301.html
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