Photo by 空撮された住宅街の一角
スプロール現象は、多くの都市で発生している社会問題である。スプロール現象の詳細や原因、日本の現状について知ろう。一緒に語られることも多いドーナツ化現象との違いも解説するので、ぜひ参考に比較してみてほしい。そこから問題解決への一歩を踏み出そう。
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スプロール現象とは、都心部から郊外に向けて、無秩序かつ無計画に開発が進められる状態を示す言葉だ。スプロール現象のスプロールとは、英単語の「sprawl」から名付けられている。sprawlの意味は「無計画に広がる」「ぶざまに広がる」などだ。
本来であれば、都市開発は段階的かつ計画的に行われることが理想である。そのように行われれば、都市開発によって起こり得る各種社会問題をコントロールできるだろう。しかし現実には、スプロール現象の発生を食い止めるのは難しい。なぜならスプロール現象は、ドーナツ化現象とセットで引き起こされるケースが多いからだ。
ドーナツ化現象とは、大都市の中心部に人口が集中した結果、そこの地価が高騰し、中心部の周辺地域へと人が移動することを言う。ドーナツ化現象が発生している地域一帯の人口分布図をチェックしてみると、大都市の中心部には穴が開いていることがわかる。その様子が「まるでドーナツのように見える」ことから、ドーナツ化現象と名付けられた。
スプロール現象が引き起こされる背景には、ドーナツ化現象も起きているケースが多い。都心部から流出した人々の流れは、郊外へと向かっていく。そこには新たなニーズが生まれ、それを満たそうと考える業者の進出も増えるからだ。
都心部から適度に離れた郊外には、農地や林地も多くみられる。ある程度開発が進んだ都市部とは異なり、開発の自由度が高いという特徴を備えているのだ。こうした状況のなか、人々のニーズを満たすために、開発業者が注目するのは「少しでも利便性の高い場所」である。
・幹線道路からほど近いエリア
・街道沿いの土地
・郊外の駅周辺
・スーパーや学校から近い場所
このような場所に対して、小規模な開発が無計画に進められるのが、スプロール現象の特徴である。
スプロール現象とドーナツ化現象は同一ではないが、スプロール現象の背景には、ドーナツ化現象があると考えられるだろう。スプロール現象を「高度経済成長期に日本が抱えていた問題」と認識している人もいるのではないだろうか。しかし現代においても、「車社会の発達」や「郊外型ショッピングモールの増加」によって、スプロール化の進行が問題視されるケースが少なくない。
車があれば、我々は自由にどこへでも移動できる。これまで「住宅地」と認識されていた場所から少し離れていても、「マイカーがあるから」という理由で購入を決断する人が多いのではないだろうか。
また、大型ショッピングモールの登場によって、もはや「郊外での生活=不便」とは言えない。自分の好きな場所で快適な生活を送れる条件が整っている点も、スプロール化が進む要因の一つとなっている。
スプロール現象が注視されるのは、そこに数多くの問題点が潜んでいるためである。「郊外のできるだけ条件のいい場所で暮らしたい」と思うのは、人として当然の感情だ。しかし無計画な小規模開発の裏には、以下のような問題点がある。
・インフラ整備が間に合わない
・自然環境の無計画な破壊
・都市機能の低下
・自治体の負担の増加
人々が快適に生活していくためには、さまざまなインフラが必要となる。上下水道や道路が整っていなければ、日々の生活を営むのは難しいだろう。
通常であれば、人々の流れに沿ってインフラ整備も進められていく。しかしスプロール現象が起きた場合、小さな開発が同時多発的に一挙に進行していくのだ。自治体側の対応スピードには限界があり、解決されない問題は、そのまま放置されてしまう。その結果、「人口は増えているにもかかわらず、道路の整備が進んでいないため、日常的に渋滞が発生している」ということにもなりかねないのだ。
小規模開発の流れにインフラ整備が追い付かなければ、学校や病院など、生活の質に関わる各種施設も足りなくなってくるだろう。歩道の整備が追い付かなければ事故は増え、街灯が整備されていなければ、夜間の犯罪発生率が上昇する可能性もある。
また、きちんとした都市計画に基づいた開発であれば、「街全体の景観」や「自然環境とのバランス」を意識して全体の調整が行われるだろう。しかしスプロール現象が発生した場合、こうした調整も不可能となる。そのため都市としての魅力が低下するだけではなく、自然環境とのバランスが崩れることで、災害に弱い都市になってしまう可能性も否定できない。
されどスプロール現象にも、いい点はある。土地の区画や住宅の種類が多く、多様性を楽しめるのは、自由に開発が進められてきた住宅地ならではの魅力と言えるだろう。大規模開発によって生まれた住宅街とは、全く異なる雰囲気を持ち、それが多くの人々を惹きつけるのかもしれない。
とはいえ、インフラ整備の遅れや都市機能の低下、自治体の負担増加は、無視できない問題である。これからの時代に合っていて、我々にとって好ましい居住環境となる都市をどのように整備していくのか、より広い視点で判断することが重要と言えるだろう。
Photo by van Bandura on Unsplash
大都市で発生しやすいスプロール現象。日本の大都市といえば、東京や大阪を思い浮かべる方が多いだろうが、スプロール現象はより多くの都市で発生している。地方都市においても、その中核をなすエリアへの人口集中が進めば、その周辺でスプロール現象が発生するだろう。
こうした状況のなか、スプロール現象を防ぐための取り組みが各地で積極的に行われている。街の中心部を再開発し、人の流れを呼び戻そうとするのも、そうした取り組みの一つである。また無秩序な居住エリア拡散を防ぐための、コンパクトシティの推進も注目を集めている。ただし残念ながら、スプロール現象を完全に抑え込めているわけではない。
日本のスプロール現象の事例を、以下に3つ紹介しよう。
山梨県甲府市は、県内で唯一の人口20万人都市である。中心市街地からは人口が減少し、東側、南側、西側のそれぞれのエリアにおいては上昇した。東側・南側・西側エリアでは、国道20号線のバイパス沿いに開発が進み、スプロール現象が発生。
これらの開発はバイパス沿いだけにとどまらず、さらにその外側へと広がっていった。広範囲におよぶ開発の結果、住宅街のエリアも徐々に拡大していった。(※1)
兵庫県神戸市の東部・西部エリアも、戦後にスプロール化が進んだ地域である。無秩序かつ無計画に木造住宅の建築が進められ、長らくその状態を保っていた。しかし阪神・淡路大震災の発生によって、その建物の多くが失われてしまった。復興とともに再開発が行われ、高層マンションを建築。人口上昇につながった。(※2)
横浜市北西部は、高度成長期の急激な人口増加に伴い、スプロール化が進んだ地域である。もともとは農業エリアであったが、無秩序な開発によって田畑は徐々に減少していった。その範囲が急速に広がっていくことを問題視した自治体により、港北ニュータウンの開発がスタート。
自然環境との共生や安心・安全な街づくり、快適な都市サービスを受けられるエリアづくりなどの、計画的な都市開発を進めることで、無秩序な開発を食い止めた。(※3)
スプロール現象は、現在進行形の社会問題の一つである。人口減少時代を迎えた日本で、さらにスプロール化が進んでいけば、各種インフラやサービスを維持するのは不可能になるだろう。
無秩序かつ小規模な開発が、継続的に行われるスプロール現象。スプロール化によって少しずつ開発が進んできたために「スラム化抑止効果があった」「都市の多様化につながった」とみる向きもある。
とはいえ人口減少の局面を迎えている日本にとって、「広がり過ぎた住宅地の維持や適正な管理」にかかる負担は、非常に大きい。適切な対策を行ってスプロール化を食い止めることが、重要だと言えるだろう。
スプロール現象を食い止めるための対策としては「中心部の魅力再生」や「コンパクトシティ実現に向けた取り組み」「空き家対策」など、さまざまな事案が挙げられている。我々住民の一人ひとりが、スプロール現象に潜む問題点を認識することも、非常に重要なポイントと言えそうだ。
※1 平成を振り返る:効果が見えない地方活性化策(5~6ページ目)
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/11041.pdf
※2 住まいのあるべき姿(2~3ページ目)
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/26856/2710052.pdf
※3 開発までの道のり https://www.city.yokohama.lg.jp/tsuzuki/kurashi/machizukuri_kankyo/machizukuri/naritachi/nt-1.html
港北ニュータウンの計画と実現
https://www.city.yokohama.lg.jp/tsuzuki/kurashi/machizukuri_kankyo/machizukuri/naritachi/nt-2.html
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