ドーナツ化現象は、日本・世界の都市が抱える社会問題の一つだ。近年注目される逆ドーナツ化減少とともに、その意味を解説する。またコロナ禍において、新たな人の流れも生まれつつある。いまならではの動きや、課題解決に向けた対策を知ろう。
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ドーナツ化現象とは、人口集中によって栄えた都心部から、しだいにその周辺へと、人々が移り住んでいく様子を表す。都心部には、オフィスビルや商業ビルが立ち並ぶが、そこで暮らす人口は決して多くはない。その人口分布に注目してみると、真んなかが開いたドーナツのような形になるため、このように表現されている。
ドーナツ化現象は、日本の都市に潜む社会問題を示すための言葉だが、同様の減少は、歴史的に見ても世界各国の大都市にて報告されている。
ロンドンのドーナツ化現象は、19世紀後半から少しずつ進行してきた。ニューヨークにおいても、中心部の人口が横ばいであるにもかかわらず、郊外の人口は劇的に増加。これによって、
ドーナツ化現象が引き起こされている。日本以外にも、多くの国や都市が抱えている問題と言えるだろう。(※1)
ドーナツ化現象とセットで問題視されるケースも多いのが、スプロール現象である。スプロール現象とは、都心部から郊外への移転の流れにおいて、無計画・無秩序に開発が進められていく様子を示している。
スプロール現象が起きれば、計画的な都市計画は不可能になる。道路や水道、生活に欠かせない各種インフラの整備が遅れ、「暮らしにくい」「交通渋滞の発生」「環境破壊」「災害に弱い」といった問題が発生しがちだ。
ドーナツ化現象がきっかけとなり、スプロール現象が引き起こされるケースも多いため、両者をセットで説明される場面も多い。しかし問題の本質としては、全く別のものだという点を頭に入れておこう。
ドーナツ化現象の原因は、都心部への過度な人口集中による、土地の高騰や環境の悪化である。都心部に集中した人々が一斉に土地を求めれば、当然その価格は高騰していく。郊外に足を向ければ向けるほど、土地の価格は下落していくため、自然とドーナツ化現象が引き起こされる仕組みである。
土地を購入するだけの資金力がある人にとっても、人口が集中し過ぎたエリアは魅力を失う。人が増えれば環境は騒がしくなるだろう。土地を求める人が多ければ、開発は進み、自然はどんどん減少していく。それよりも「郊外で暮らし、必要なときに都心部へと出かける」生活スタイルのほうが、魅力的というわけだ。
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人々が「暮らしたい場所」を自由に選んだ結果、引き起こされたドーナツ化現象。「自然な成り行き」とも思われるが、放置すればさまざまな問題が表面化するだろう。ドーナツ化現象がもたらす問題を、都心・郊外のそれぞれについて解説する。
都心で起きるのは、主に人口減少による各種問題である。都心部には、郊外から多くの人がやってくる。とくに昼間人口は多く、人口減少を身近に感じる機会は少ないかもしれない。
しかし、昼間、別の場所からやってきた人々は、夜になるとそれぞれの地域へと帰っていく。都心部の夜間人口は非常に少なく、ゴーストタウン化する恐れがあるのだ。住人同士のコミュニティは崩壊し、小・中学校は廃止や統合を免れないだろう。都市としての魅力が薄れ、衰退の一途をたどる恐れがある。
郊外において引き起こされる問題は、急激な人口増加や無秩序な開発によってもたらされるものだ。消費者の興味・関心が都心部から郊外に移れば、そこに商機を見出す業者は多い。インフラ整備が不十分なまま虫食い状に開発が進めば、スプロール現象が引き起こされる。
各種問題を解決するためには、早急なインフラ整備が求められるが、広範囲で無秩序な開発が行われた地域においては、それもままならない。住環境の悪化や生活ストレスの増加、都市機能の低下といった問題が表面化するだろう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、我々の生活には大きな変化が生まれた。近年進行中の逆ドーナツ化現象と、コロナ禍における人々の流れについて解説する。
逆ドーナツ化現象とは、郊外へと流出した人々が都心部へと戻る現象を指し、「都心回帰」とも呼ばれる。
郊外の広い家はたしかに魅力的なもの。しかし都心部への通勤・通学には、やはり時間がかかってしまう。核家族化によって広い家が必要なくなり、豊かな自然よりも快適な通勤環境を重視した結果、「都心部に生活拠点を置いたほうが便利だ」と判断する人も増えてきている。
バブル期と比較すれば、都心部の物件は手ごろな価格で購入できるようになった。また手が届きやすい中古物件を購入し、リノベーションで理想の住まいを手に入れる人も多い。郊外から都心へ戻るのは、通勤・通学時間の短縮化を目指す若い世代だけではない。高齢者にとっても、都心部の利便性、公共交通網の発達は魅力あるポイントと言えるだろう。とはいえ、都心回帰できるのは、比較的裕福な高齢者のみである。
郊外に取り残された人々との間に格差が生まれ、日本全体の活力低下につながるのではと懸念されている。
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ドーナツ化現象や逆ドーナツ化現象を放置すれば、それに伴う社会問題は、ますます深刻化していくだろう。問題解決につながる対策を、いくつか紹介しよう。
ドーナツ化現象による問題を解決するための秘策として注目されるのが、コンパクトシティの実現である。都市に必要な機能を集約し、その周辺にコンパクトシティを展開。このような都市を多数展開することで、暮らしやすく維持しやすい都市を整備できるだろう。
コンパクトシティに向けた取り組みは、すでにスタートしているが、実現までにはまだまだ時間がかかる。また人々の流れを思い通りに動かせるかどうかも、非常に大きな課題である。
都市回帰を促す目的で実施する自治体も増えているのが、中心市街地への移住促進である。一定の基準を満たし、都市の中心部へと移り住む人に対して、補助金を支給する仕組みだ。
補助金支給の条件は自治体によって異なるため、自分たちで調査・申請する必要がある。また補助金の存在や魅力について、より幅広い人々に知ってもらうための取り組みも、各自治体に求められる。(※2)
ドーナツ化現象・逆ドーナツ化現象によって生まれるのが、空き家に関する各種問題である。空き家を有効活用し、地域活性化につなげることで、都市としての魅力を高めようとする動きも、各地で多く生まれている。
魅力ある空き家に定住する人が増えれば、居住人口の流出も抑制できるだろう。都心部の空き家、郊外の空き家、両方に対して実践できる対策である。
ドーナツ化現象は、世界の都市が直面してきた社会問題の一つである。都市回帰により逆ドーナツ化現象が進行しつつあったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、新しい形の郊外流出が増えてきている。新たな人の流れによって、これから先どのような変化が生まれるのかという点については、まだまだ未知数なところも多い。
ドーナツ化現象をすぐに食い止めるのは難しいが、問題の解決に向けて、すでにさまざまな取り組みがスタートしている。コンパクトシティの実現に向けた取り組みも、その一つだ。アフターコロナの人流の変化とともに、ドーナツ化現象の今後についても注目していこう。
※1 都心の過疎化とコミュニティの問題(2~3ページ目)
https://www.kwansei.ac.jp/s_sociology/kiyou/40/40_ch11.pdf
※2 まちなか居住支援事業(岐阜市中心市街地新築住宅取得助成事業)
https://www.city.gifu.lg.jp/33511.htm
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