Photo by Seb Creativo on Unsplash
SDGsの観点からも注目されるモーダルシフト。言葉の意味や日本の現状・課題を知りたい方に向け、詳しく解説する。モーダルシフトは、なぜいま注目され、どのような効果が期待されるのだろうか。普及に向けた取り組みにも注目してみよう。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
知識をもって体験することで地球を変える|ELEMINIST Followersのビーチクリーンレポート
Photo by Nick Fewings on Unsplash
モーダルシフトとは、現在自動車を中心に行われている輸送方法を、鉄道や船舶へと切り替えようとする動きを指す。その目的は、環境負荷の低減である。鉄道や船舶は、一度に多くの荷物を運べる輸送手段だ。トラックで各自が輸送するよりも、二酸化炭素排出量を低下させる効果が期待できる。
これまで、目的地から到着地点まですべてトラックで運送していた事例がモーダルシフトした場合、出発地点の運転手が荷物を運ぶのは、駅や港など、最寄りの転換拠点までとなる。そこで荷物の積み替えが行われ、鉄道や船舶によって、到着地点付近の転換拠点まで運ばれていく。そこでまたトラックに荷物を積みかえて、目的地まで運ばれる仕組みだ。
1トンの貨物をトラックで1キロ運ぶ場合、排出される二酸化炭素量は225グラム。一方で鉄道の場合は同条件で18グラム、船舶では41グラムである。モーダルシフトが進んだ場合、トラックで荷物を運ぶ距離が大幅に削減されるため、二酸化炭素の排出量低下につなげられる。(※1)
モーダルシフトという言葉が初めて使われたのは、1981年のことだったと言われている。省エネルギー対策として注目され、その後1990年代には、物流業界の労働力不足を解決するための対策としても関心を向けられた。
モーダルシフトが一般にも注目されるようになったきっかけは、1997年に行われた京都会議である。二酸化炭素排出量の削減について具体的な提言がなされたことにより、モーダルシフトのより一層の推進が図られた。(※2)
モーダルシフトの意味や特徴をより深く理解するため、輸送方法の特徴についてチェックしてみよう。現在日本で多く使われている輸送手段について、それぞれの現状を解説する。
モーダルシフトが進められているものの、日本の輸送方法として、非常に多く選ばれているのがトラック輸送を始めとする道路運送である。経済産業省が発表する「2017年暫定の運送運搬手段別の構成比」によると、その割合は63%にもおよぶ。(※3)
トラック輸送のメリット・デメリットは以下のとおりである。
メリット
・機動力が高い
・少量の荷物を低コストで運搬できる
・商品の破損リスクが低い
・柔軟な時間調整が可能
デメリット
・環境への負荷が大きい
・ドライバーへの負担や労働力不足
・事故のリスクや遅配の可能性
・大量の荷物を運搬する場合コストが高くなる
機動力の高さや柔軟にスケジュールが組める点が魅力である一方、デメリットも少なくない。とくに「遠方までの大量運搬」では、メリットを実感しにくくなるだろう。
船を使って荷物を運ぶ船舶輸送。「2017年暫定の運送運搬手段別の構成比」によると、水運業が全体に占める割合はわずか4%だ。船舶で荷物を運ぶメリット・デメリットは以下を参考にしてみてほしい。(※3)
メリット
・大量輸送が可能・長距離でも低コストで運搬できる
・環境への負荷が少ない
デメリット
・配送に時間がかかる
・海の天候に影響される
時間に余裕がある場合、船舶輸送のメリットは非常に大きい。ただし素早さを求める顧客も多いいま、利用するためには、顧客側の理解が必要不可欠と言えるだろう。
「2017年暫定の運送運搬手段別の構成比」において、道路運送に次ぐ結果となったのが、鉄道運送である。その割合は全体の25%であった。鉄道輸送のメリット・デメリットは、どのような点にあるのだろうか。(※3)
メリット
・気候による影響を受けづらい
・環境にやさしい
デメリット
・あらかじめ定められたスケジュールに合わせる必要がある
・リードタイムが長い
船舶輸送ほどではないが、トラック輸送と比較すると、やはり輸送に時間がかかってしまうのが鉄道輸送の特徴である。ただし天候や事故のリスクは低く、「決められた時間までに荷物を届ける」という側面においては、非常に優れた輸送手段だ。
Photo by Rodrigo Abreu on Unsplash
これまで主流であったトラック輸送に船舶輸送や鉄道輸送を組み合わせることで期待されるのは、環境負荷の低減である。SDGsの一つである「気候変動に具体的な対策を」を実現するため、モーダルシフトを積極的に推進する企業も増えてきている。
またモーダルシフトを進めていけば、ドライバーが長距離移動をする必要はない。それぞれの転換拠点にトラック運転手を配備すれば、近距離エリア内での移動に集中できるだろう。身体的負担が軽減され、人材不足の解消にもつながるのではと期待されている。
先ほど紹介した「2017年暫定の運送運搬手段別の構成比」からもわかるとおり、日本のモーダルシフトは、まだまだ進んでいないのが現状だ。運送手段の6割以上が「道路運送」であり、トラックによる運送から脱却しきれていない様子を示している。
ではなぜ、モーダルシフトは進まないのだろうか。そこには、以下のような問題との関連性が指摘されている。
・コンテナサイズに合わせて、荷物のサイズや量の調整が必要である
・リードタイムが長くなる
・転換拠点での積み替えによる破損リスクの上昇・天候不良やダイヤの乱れによる影響を受けると、影響が長期化しやすい
・コンテナ積み付け負担の発生
これまで日本の各種産業は、トラック輸送をベースに進化を遂げてきた。トラック輸送によって得られるメリットは「当たり前」のものであり、完全な脱却は容易ではない。とくに配送スピードについては、非常に大きな課題である。「できるだけ早く届けてほしい」という顧客側の願いが、モーダルシフトを阻む要因の一つと言えるだろう。
環境負荷低減策として期待されるモーダルシフト。より一層推進するため、さまざまな対策が行われている。導入事例とともに紹介しよう。
各工場での生産ラインの集中生産化を進めていた大和ハウス工業株式会社。高騰する輸送費を削減し、環境負荷を低減するためにモーダルシフトを進めた。
JRコンテナ貨物輸送を活用した輸送システムを構築。さらに、モーダルシフトのデメリットであるリードタイム問題は、生産計画と工程の調整を厳格に管理することで解決した。コンテナ駅での1週間の滞留期限を活用し、外部倉庫を利用することなく、現場に直接運び込める仕組みを構築している。(※4)
佐川急便株式会社では、電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」による荷物の輸送を実施中だ。この列車は日本貨物鉄道と共同開発したもので、1便に積載できる荷物の量は、10トントラック56台分に相当。2016年度には、10トントラックで92,549台分、129,742トンもの二酸化炭素排出量の削減を実現している。(※5)
国土交通省はモーダルシフト推進のため、2つの補助金制度を用意。「計画策定経費補助」では、物流効率化に向けた計画策定に関わる経費を補助する目的で、上限200万円が支払われる。「運行経費補助」では、計画に基づいて実施されたモーダルシフトの運行がスタートした場合、初年度運行経費の一部(補助率2分の1以内、上限500万円)が支給される仕組みだ。(※6)
Photo by Markus Winkler on Unsplash
モーダルシフトが本格化すれば、物流において排出される二酸化炭素量を大幅に削減できるだろう。政府も積極的に推進しており、今後も注目される取り組みの一つだ。うまく進めば、物流業界の人手不足解消にも、つなげていけるだろう。
しかし、物流のメイン運搬手段とするためには、物流に関わるすべての人々の理解と協力が不可欠だ。我々の手元に届く「荷物」から、環境のために何ができるのか、考えていこう。
※1 モーダルシフトとは
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html
※2 モーダルシフトの今後の動向を占う(1ページ目)
https://www.sompo-japan.co.jp/~/media/SJNK/files/hinsurance/logistics/news/2013/b-news104.pdf
※3 道路、鉄道、航空、水運など運送手段のボリュームの変遷;2008年と2017年暫定値との比較https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20180109hitokoto.html
※4 モーダルシフト事例
https://www.daiwabutsuryu.co.jp/useful/case/6
※5 2 モーダルシフトの推進
https://www.sagawa-exp.co.jp/csr/SDGs/pdf/modal-shift.pdf
※6 モーダルシフト等推進事業
https://www.mlit.go.jp/common/001403314.pdf
ELEMINIST Recommends