地域や企業において注目される「ソーシャルキャピタル」。具体的な意味やメリット、必要性を解説する。より快適な暮らしを実現し、企業活動のより一層の活性化のため、ソーシャルキャピタルは必要不可欠である。これを機に、正しい知識を身につけておこう。
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ソーシャルキャピタルとは日本語で、「社会的資本」もしくは「社会関係資本」と訳される。社会的資本という言葉から、道路や橋など、人が生活を送る上で必要不可欠な社会的インフラを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
しかし、ここ数年で注目されているソーシャルキャピタルは、全く別の概念を示している。ソーシャルキャピタルのソーシャルとは、社会・地域における人々の信頼関係・ネットワークを示すものだ。
これまで、会社経営や地域の発展で注目されてきた概念には、以下の2つがある。
・フィジカルキャピタル(物的資本)
・ヒューマンキャピタル(人的資本)
ビジネスの場における、フィジカルキャピタル・ヒューマンキャピタルについて、具体的にイメージできる方は多いだろう。しかし、それだけで会社をうまく回せるわけではない。
新たに必要な資本として加わったのがソーシャルキャピタルであり、「物的・人的資本と同様に、社会における人間関係や信頼関係が資源になり得る」という考えを示している。
厚生労働省では、ソーシャルキャピタルについて以下のように説明している。
・人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴
・物的資本(PhysicalCapital)や人的資本(HumanCapital)などと並ぶ新しい概念
(※厚生労働省発表資料「ソーシャルキャピタル」より)(※1)
地域や会社など、特定の社会に属する人々が、協調行動(付き合いや助け合いなど)を行う頻度が高くなれば、新たな活動・ネットワークが生まれる。そしてそうした活動やネットワークの中で、ソーシャルキャピタルはさらに高まっていくだろう。
新たな活動を立ち上げたり、ネットワークを構築したりと、「仕組み」をつくるのはそれほど難しくない。しかし、それを活性化させるためには、人同士のつながりが必須である。これこそが、ソーシャルキャピタルの基本的な概念だ。
ソーシャルキャピタルを定義したのは、アメリカの政治学者、ロバート・パットナムである。彼は1993年に出版した自著「Making Democracy Work( 哲学する民主主義)」の中で、イタリアにおける地方政府のパフォーマンスの差を生み出した要因の一つとして、ソーシャルキャピタルを挙げた。(※2)
イタリアにあった20の地方都市のなかには、大きく発展したところもあれば、そうではないところもあった。成功している地域に共通していたのは、「地域活動への積極的な参加」や「地域クラブ・サークルへの所属」など、豊かなソーシャルキャピタルである。その後パットナムは、「アメリカにおけるソーシャルキャピタルの低下とその影響」について考察し、大きな話題となった。
ソーシャルキャピタルの重要性は世界中で注目されるようになり、日本においても例外ではない。地域再生や出生率の向上にも役立つ理論として、さまざまな地域・企業において、積極的な導入がスタートしている。
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ソーシャルキャピタルが豊かになると、いったいどのようなメリットが生まれるのだろうか。地域・企業それぞれについて、具体的なメリットをまとめてみよう。
ソーシャルキャピタルが豊かな地域においては、以下のようなメリットを実感しやすいと言われている。
・地域活性化
・暮らしやすい環境の実現
・出生率の向上
・犯罪発生率の低下
・災害からの早期復旧
住民同士の関係が良好で、ふだんから積極的にコミュニケーションがとれていれば、地域は自然と活性化していく。住民同士の助け合いや見守り活動が活性化すれば、赤ちゃんからお年寄りまで、すべての住民にとって暮らしやすい環境を実現できるだろう。
また、住民同士の関係性が密な地域においては、不審人物やふだん見かけない人が認識されやすい。大災害が発生した場合でも、「いま自分たちにとって何が必要なのか?」を、地域全体で考えられる土壌がある。平常時から災害時まで、ソーシャルキャピタルがもたらすメリットは、非常に大きいと言えるだろう。
ソーシャルキャピタルは、ビジネスの現場においても、さまざまなメリットが期待されている。近年、さまざまな企業がソーシャルキャピタルを豊かにするための取り組みを行っているのは、このためだ。具体的には、どのようなメリットがあるのだろうか。
・従業員同士の連携強化
・組織運営が円滑になる
・離職率の低下
従業員同士の関係が良好になれば、自然とパフォーマンスは向上していく。コミュニケーション不足によるミスの発生も、予防できるだろう。何らかの変革が必要な場合でも、すみやかに意思疎通を図っていける。
また、「職場の人間関係」を理由に、退職する人は少なくない。ソーシャルキャピタルが高ければ、こうした退職も食い止めやすくなるはずだ。
「企業内」だけではなく、「企業×地域」のソーシャルキャピタルを高めようとする動きも、近年活発になってきている。企業と地域が積極的に関わることで、企業の知名度や好感度をアップできれば、地域に根付いた事業展開も円滑に進めやすくなるだろう。
ソーシャルキャピタルの必要性が注目されるようになったきっかけは、「衰退による悪影響」が、社会の随所で認識され始めたためである。世界ではいま、貧富の格差の拡大や経済政策の限界などが、非常に大きな問題となっている。
これらの問題を解決するための基盤となるのが、「人同士の信頼」であり「ソーシャルキャピタル」なのだ。
日本国内においても、地方経済の衰退や介護問題、環境問題に失業者の増加など、さまざまな課題が指摘されている。社会が不安定化しているいまだからこそ、ソーシャルキャピタルの必要性が高まっているのだろう。
日本では、まだまだ一般的ではないソーシャルキャピタル。企業において積極的に取り入れているのは、人事部門である。オフィス内をフリーアドレスにして、異なる部署間のコミュニケーションを促進させたり、多くの社員が参加できるような社内イベントを立ち上げたりすることも、ソーシャルキャピタルを高めるための取り組みである。
また、子どもの教育面においても、ソーシャルキャピタルは高く注目されている。社会全体での児童育成を通じ、コミュニケーション能力や基礎学力を向上させていけるだろう。母親の負担軽減や虐待の防止・早期発見、子どもたちのスムーズな社会への移行においても、効果が期待できる。(※3)
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ソーシャルキャピタルのメリットをより深く知るため、ソーシャルキャピタルの醸成によって具体的なメリットが得られた事例に注目してみよう。
乳幼児や小学生などの児童を養育する家庭に向けて、地域の方々との相互援助活動を可能にしたのが、各自治体が行っている子育て援助活動支援事業である。
地域の中の「援助を受けたい会員」と「援助したい会員」が、それぞれ制度登録を行い、両者を結び付ける仕組みだ。地域の中で子育ての相互扶助を行うことで、女性の社会進出が進んだ。(※4)
アメリカ産牛肉のBSE発覚により、2003年12月、米国産牛肉の輸入禁止措置が取られた。同業他社が牛丼提供を中止し、別メニューへの刷新を進める中、すき家はオーストラリア産牛肉への切り替えで、牛丼販売の継続という経営方針を取った。
すみやかな路線変更を可能にした要因の一つが、ソーシャルキャピタルだと言われている。すき家には食の安全性を最優先させる企業文化が根付いており、消費者と企業とのきずなや信頼、ネットワークも醸成されていた。突然訪れた危機に対しても、会社が一丸となって取り組むことで、業績アップにつなげていった。(※5)
人同士のつながりを資本として捉える、ソーシャルキャピタル。社会のつながりが薄れているいまだからこそ、その必要性や意味が注目されているのだろう。
地域においても企業においても、ソーシャルキャピタルが高ければ、危機的状況にも対応しやすくなる。またふだんから、そこで生活する人にとって、居心地のいい環境を提供できるはずだ。社会・企業にとってプラスとなるソーシャルキャピタルに注目し、取り入れてみてはどうだろうか。
※1 ソーシャル・キャピタル(2ページ目)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011w0l-att/2r98520000011w95.pdf
※2 ソーシャル・キャピタルって何だ?? その1|日本総研
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=13231
※3 日本のソーシャル・キャピタルと政策(12ページ目)|日本総研
https://www.jipps.org/scarchive/sc/file/report01.pdf
※4 子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/ikuji-kaigo01/
※5 子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)について(7~10ページ目)
https://www.senshu-u.ac.jp/scapital/pdf/2ueda,jscs1.pdf
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