金沢で「SDGsツーリズム」が叶う理由 豊かな食文化を支える“もったいない”精神

国内でも有数の観光都市となった金沢は、なぜ今、観光とSDGsを共存させようとしているのか。今回は食のアクションから、その背景を探る。

2021.04.30
Promotion: IMAGINE KANAZAWA 2030 推進会議

SDGsツーリズムとは、市民の生活と調和した持続可能な観光を推し進める取り組み。責任のある旅行者を招き、市民生活との調和をはかりながら、双方の幸せを実現していこうというもの。国内でも有数の観光都市となった金沢は、なぜ今、観光とSDGsを共存させようとしているのか。今回は食のアクションから、その背景を探る。

美食の街に共存する伝統と革新

Ishikawa Prefectural Tourism Leagueの画像

Photo by Ishikawa Prefectural Tourism League

北陸新幹線開業から7年目を迎え、年間1000万人もの旅行者が訪れる街、金沢。その大きな目的となっているのは豊かな食文化だろう。金沢市観光調査結果報告書2019年によると「金沢に期待していたことは?」という問いに、世代を問わず80%以上の人が「食べること」と回答していたことでも明らかだ。人々を惹きつける食文化の豊かさをひもとくと、その歴史は江戸時代にまで遡る。初代加賀藩主、前田利家は茶の湯文化を根付かせ、三代の利常は武力の代わりに文化奨励策をとり、茶の湯に由来する懐石を広めた。

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フレンチレストラン「FIL D'OR(フィルドール)」によるクラフトチョコレート「FILFIL CACAO FACTORY(フィルフィル カカオ ファクトリー)」。

最近では伝統的な加賀料理、料亭文化に加えて、欧米で修行をしてきた若手シェフによるイノベーティブなレストランも盛況で、金沢=美食のイメージを新たな客層へも広げる役割も担っている。またその新進気鋭のシェフたちがつくるスイーツも評判を呼び、気の利いた手土産、自分へのご褒美として旅行者にも地元の人々にも人気となっている。

無農薬野菜で夢を叶える

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金沢は海も山も近いという好立地により新鮮食材が手に入りやすく、加賀野菜を筆頭に野菜のおいしさも知られるところ。新しい試みに挑戦する個性的な農家が多いとも聞くが、そのひとつが鍋嶋智彦さん、亜由美さん夫妻が無農薬野菜を生産する農園「メグリー」だ。今春オープンしたルイ・ヴィトン銀座並木通り店の須賀洋介シェフによる「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」で、サラダに名を冠して野菜が使われていることでも注目されている。

金沢メグリー農園の野菜サラダ

Photo by Louis Vuitton

「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」で提供されている金沢メグリー農園の野菜サラダ。

物心ついた頃から“自然ありきの自分”と自然への意識を強く持っていた亜由美さんが、収入が不安定な接客業に就いていたとき、将来への不安を軽減するために「自分で食べるものは自分でつくろう」と思い立ったのがきっかけで、夫の智彦さんとともに農業を始めた。それぞれ公共機関の農業研修で基礎を学んだ後、亜由美さんは独自の有機農法を行う石川県白山市のエコ・ファーム奥野で3年間修行をし、ノウハウを身につけた。そして遠縁の親戚から譲り受けた土地で栽培した無農薬野菜を顔見知りの飲食店に購入してもらううちに、口コミで料理人のコミュニティに受け入れられ、SNS発信も相まって順調に広がっていったという。

自分の専属農家を持つという贅沢

金沢メグリー農園で働いている人の様子

現在は15名ほどのスタッフとともに金沢春菊、源助大根といった加賀野菜を含む無農薬野菜を栽培。“ファームトゥテーブル”の発想で購入者の専属農家になりたいと考えており、オンライン販売では全国からの定期購入者も増えている。取引する販売店は地元への貢献度が高い店かどうかも加味して選んでいる。伝統あるひがし茶屋街近くで育った亜由美さんは、祖母から伝授された金沢に根付く“もったいない”という精神を意識し、野菜を無駄なく食べてもらうための方法として、現在の販売方法に至った。

そして週2回畑に通うことができる人限定で、講習付きのファーム体験もスタート。環境に負担をかけない農家を増やしたいと考え、子どもたちのなりたい職業、将来の夢に“農家”が上がるように、イメージの向上も目指している。「何かを決めて向かうから叶う。そうすれば失敗しても違う道が見えてくるはず」。自然との関わりを大切に、金沢に伝わる価値観を継承し、信念を持ってチャレンジするーー鍋嶋夫妻のポジティブで潔い姿勢も、メグリーが生み出す無農薬野菜のテロワールとなっているはずだ。

子どもも安心して食べられるフローズンフードを

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金沢の“もったいない”という精神を、食品ロスの画期的な解決方法で実践している店もある。それが昨年11月にオープンしたフローズンフード専門店「ニクオサーカス」だ。冷凍食品は比較的長期間保存ができるうえ、調理の手間も省けるため家事軽減にも役立つと、地元の忙しい女性たちを中心に話題を呼んでいる。

ニクオサーカスのオリジナル商品では加賀野菜の小坂レンコンしゅうまいや五郎島金時芋入りコロッケ、ロールキャベツといった気取らない家庭料理を販売。ほかにもフレンチ懐石「流寓 LUGU(ルグゥ)」の3日間煮込んだデミグラスソースや、イタリア料理のデリやお弁当を手がける「magazzino38(マガジーノ38)」のミートソース、「SALINA(サリーナ)」の本格的ナポリピッツアなど、市内の人気レストランのフローズンフードも取り扱っている。このようにオリジナル商品以外に複数のレストランによる手間のかかった冷凍食品が、ひとつの店舗で一度に手に入る利便性もこれまでにない試みだろう。

食の問題を解決し、地域に貢献

加賀野菜のひとつ小坂レンコンを使ったオリジナル商品

加賀野菜のひとつ、小坂レンコンを使ったオリジナル商品。

ニクオサーカスの商品開発を行い、代表を務める中谷恭子さんは徳島の漁師の家に生まれ、創業70年の老舗、中谷精肉店の三代目と結婚し金沢在住18年目。高校2年生と小学校6年生、二人の子どもを持つ。まず母親として、子どもに毎日安心安全な食品を食べさせたいという思いがあった。そこに食の仕事に関わるなかで目の当たりにしたフードロス、取引するホテルやレストランの料理人との対話で知った、つくり手の“捨てたくない”気持ち、飲食業界の人材不足、コロナ禍における余剰食材など、現在起こっている食を取り巻く多くの問題の解決を考えたとき、無添加、無化調を基本にした手作りのフローズンフードを提供するというアイデアが頭に浮かんだという。

中谷精肉店でオリジナル商品の生産を行い、つながりのある地元農家から規格外や未利用部分の野菜も入手。築110年の町家を改装した店舗にはドライフラワーをふんだんにあしらい、ドリンクやデザートを提供する裏庭での“サーカス小屋”スペースを、クラウドファンディングで資金を募りオープンするなど、地域貢献を含めたサステナブルへの意識の高さがうかがえる。

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取材のなかで、金沢で暮らす人々の食のレベルの高さを感じるエピソードを伺った。オリジナル商品を生産するなかでスタッフの負担を軽減しようと、一度だけ野菜のカットを業者に依頼したことがあったのだとか。そういった専門の加工工場では安全性は認められているものの洗浄なども行うため、それを使った商品を口にしたスタッフたちが「野菜の味が違う。やはり自分たちでカットしたい」と申し出てきたという。ふだんから地元野菜を食べ、酒やみりんも贔屓の専門店で購入することが定着している金沢。高級で華やかな美食のみならず、日々の暮らしでも地産地消、安心安全を意識しているからこそ、舌が肥え、食文化が豊かに花開いているのだと実感した。

これからは訪れる街への認識を深め、食文化を味わう

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Photo by Ishikawa Prefectural Tourism League

冒頭の旅行者の期待とは逆方向の市民目線からも、この街で楽しんでほしいこととしてやはり多くが食をあげている。なぜ金沢の食文化が多くの人々を惹きつけるのか。五感を刺激する美食のプレゼンテーションの根底に流れているのは、街を愛し、人を愛する利他の精神、金沢の暮らしを豊かに楽しもうとする市民の姿勢でもある。今後金沢を訪れる機会があったなら、そんな背景に心を巡らせてみると、美食旅にもこれまでと違う深みや彩りがもたらされることだろう。

お問い合わせ先:
金沢SDGsツーリズム
https://kanazawa-sdgs.jp/kanazawa-sdgs-tourism/

メグリー
https://megliy.jp

ニクオサーカス
076-256-0014

Top Photo by Ishikawa Prefectural Tourism League

※掲載している情報は、2021年4月30日時点のものです。

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