ライトを売らない発想でマネタイズと環境配慮を両立 フィリップスの取り組み

ELEMINISTでは全5回にわけて、『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』に書かれている内容について紹介。第1回目は「製品を売らない“照明器具メーカー”」について。

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2021.04.26

「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」──行政や企業を中心に浸透してきた概念ではあるが、いま個人でも正しい知識を身につけ、一刻も早くその実現を達成できるようアクションを起こしていく必要がある。

使い終わったらモノを廃棄する「リニアエコノミー(直線型経済)」や、まだ使える廃棄物を循環資源として再利用する「リサイクリングエコノミー」など、私たちが経済成長の過程で取り組んできた生産や消費のあり方は、いずれにせよ廃棄物が生まれてしまう方法だった。それらに対して、まずは廃棄物と汚染を発生させないことを前提とするのが「サーキュラーエコノミー」の考え方だ。

紹介するのは『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(中石和良)。タイトルからビジネスパーソンひいては企業向けと捉えてしまう人もいるかもしれないが、内容は予備知識が少なくても問題なく読み進められるようになっている。

また、サーキュラーエコノミーの実現に向けて取り組みをおこなっている先進企業の事例も紹介されているので、ひとりの消費者として商品やサービスを購入する際の企業やブランドを選ぶ基準も得られるはずだ。

ELEMINISTでは全5回にわけて、『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』に書かれている内容について紹介。第1回目は「製品を売らない“照明器具メーカー”」について。

『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』とは?

『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』の表紙

日本では、ある誤解が生じているというサーキュラーエコノミー。本書ではGAFAMをはじめ先進的な考え方で取り組みをおこなっている企業の実例をとりあげながら、詳しくわかりやすく、そして正しくその仕組みやシステムを紹介。“サステナブルやエシカルといった社会貢献にはコストがつきもの”という誤解を紐解いている。

欧米企業ではSDGsの17の目標を達成するための具体的な方法論として注目を集めるサーキュラーエコノミーについて、ビジネスパーソンだけでなく一個人として具体的なアクションを起こすきっかけとなり得る1冊だ。

もはや「サステナブル=難しい」とは言えない

「環境や社会課題の解決を考えると、身を切る自己犠牲を覚悟しないといけない」──。

日本ではこのようにサステナビリティについて、ネガティブな捉え方をされることが多い。そんな状況に対して、筆者はサーキュラーエコノミーこそが環境問題や社会課題の解決と経済成長を両立させる経済システムだと主張している。

本章では、製品をつくって売るまでのリニアエコノミーから、製品ではなくユーザーが求める明るさを提供する「サービスとしての製品」という新しい発想でビジネスを展開した電機メーカー「フィリップス」の事例を紹介。

彼らはメンテナンスなどのサービスをビジネスモデルとして確立したことで、製品においては製造工程からリサイクルを想定した長く使える製品づくりにシフト。

結果としてコストや資源の無駄づかいを抑え、さらにはこの取り組みが事業の柱となるまでに大きく成長したというのは、課題解決と経済成長の両立について考えるきっかけを与えてくれるだろう。

「サステナビリティの実現は難しい」という考えも変わるはずだ。

ユーザーファーストの考えで環境配慮も実現(*本文から引用)

駐車場の画像

Photo by Egor Myznik on Unsplash

照明器具メーカーが、照明器具を売らずに「明るさ」を売る。オランダ・アムステルダムに本拠を構える電機メーカー、フィリップスが法人顧客に向けて始めたサービス「サービスとしての照明」は、そんなビジネスです。

米国ワシントンDCの駐車場を手掛けたときの話です。フィリップスはそこに設置された1万3000カ所以上の照明を、すべて無料でLEDライトに交換し、10年間にわたるメンテナンス契約を結びました。これは、電力消費量が少なくて済むLEDライトに替え、削減できた電気料金の額に応じて報酬を得る仕組みです。

駐車場の管理サイドにしてみると、使用電力量がこれまでより少なくなるので日常的なコストが下がります。そして、電力のために排出していたCO2も抑えられる。環境への負荷を軽減できると企業的にもイメージが良くなり、一挙両得です。また、新たに照明器具を一式購入するという初期コストが発生しないし、おまけに、照明が切れたときにいちいち取り換える手間も要らなくなりました。

このビジネスはここで終わりません。フィリップスは、交換したLEDライトにインテリジェント・センサーを取り付けました。こうすることで、照明器具のメンテナンスに関するデータを把握するだけでなく、全照明の使用状況が逐次、データで拾えるようになったのです。

季節ごとに太陽の角度や日照時間が変わってきますし、取り付けた場所ごとに照明を点ける必要のある時間帯も異なります。以前は決まった時間に一斉に点灯させていたものを、季節や時間ごとに個別に適切な照明へと切り替えることができるようになったのです。

このビジネスの根本にあるのは、フィリップスが照明を器具ではなく、サービスとして顧客に販売している、いわば「サービスとしての製品」の発想です——。

フィリップスは、LED照明のサービスを現在は「シグニファイ(Signify)」という別会社にして世界70カ国以上のオフィスビルなどで展開しています。2019年には62億ユーロ(約7502億円)の売り上げを記録し、グループの大きな柱に成長しています。

ポプラ社

サーキュラー・エコノミー

946円

※2021.03.04現在の価格です。

文/松本唯人 編集/小嶋正太郎

※掲載している情報は、2021年4月26日時点のものです。

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