近年耳にする機会が増えている「VUCA」。現代社会を示すキーワードのひとつでもある。VUCAを構成する4つの単語から、その意味を探っていこう。VUCAの時代に潜むリスクや可能性、生き残るために必要なOODAループについても解説する。
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VUCA(ブーカ)とは、環境や状況が目まぐるしく変化するなかで、将来の予測が立てられない状態を指す言葉だ。それぞれのアルファベットは、「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の単語の頭文字を表している。
VUCAという言葉は、もともと1990年代に使われていた軍事用語のひとつであった。冷戦終了後、国際情勢は一変し、より複雑で不確実なものへと変貌した。このような状況を示す言葉として、新たに誕生したのがVUCAである。
2010年代に入ると、VUCAという言葉はビジネスシーンで新たに用いられるようになった。急速に進むグローバル化や技術革新、さまざまな問題の顕在化など、将来は曖昧で予測が難しい状況にある。これこそが、いま我々が生きる時代を「VUCAの時代」と呼ぶ理由である(※1)。
先ほど説明したとおり、VUCAという言葉は4つの単語を組み合わせてつくられている。4つの単語の意味について、より深く掘り下げてみよう。
物事が容易に変化し、またそのスピードも速いことを示すのがVolatilityという言葉である。IT技術の革新が進むいま、顧客ニーズは容易に移り変わる時代が到来している。現代社会においては、求められる商品や販売戦略だけでなく、人々の意識や価値観までもが容易に変動。ヒット商品が生まれても、それを維持していくのが難しくなっている。
地球温暖化に少子高齢化、さらには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大など、現代社会には「これから先どうなるかわからない不確実な要因」が山積している。不確実性が高くなればなるほど、経営の見通しを立てたり、詳細な将来設計をしたりすることは難しくなるだろう。さまざまなリスクへの自己対処を求められる。
グローバル化が進むいま、お金・モノ・人の流れは複雑化している。何か問題が起きた場合でも、自国のみで解決できないケースも増えてきている。また国だけではなく、ビジネスにおいても複雑性の影響は顕著に表れている。関わる人や国、企業が増えれば増えるほど、問題解決は難しくなる。
変動的で不確実かつ複雑な問題が増加するいま、具体的な解決策を見出そうとしても、曖昧な結果にならざるを得ない。問題解決に向けた取り組みがはっきりしないなかで、長期的な予測はもちろん、短期的な予測さえも困難な事例が増加している。
VUCAの時代に想定するべきリスクとは、「近い将来でさえ、何が起きるかわからない」という点にある。国・経済・病気・環境……さまざまな事象が不透明ないま、「過去に積み重ねてきた経験」が役立つとは限らない。これまで順調に歩んできた企業・個人であっても、ささいなきっかけで困難な状況に追い込まれる可能性があるだろう。
新たな考えが次々と生まれていくなか、我々はそれに適応し、さらなる革新を遂げていくことを求められる。素早く対応できなければ、あっという間に時代に取り残されてしまうだろう。
このような流れのなか、これまでに当たり前であったことがそうではなくなり、「企業」という枠組みそのものが負債になる可能性も。生き残りが難しくなってきている。
先行き不透明なVUCAの時代。ネガティブな側面に注目するケースも多いが、実は多くのメリットや可能性を秘めている時代でもある。
あらゆる物事が素早く変動していくいま、今日なかった技術が明日誕生しているかもしれない。将来の見通しが不確実だからこそ、想定以上の成長を可能にする企業・個人もいるだろう。異業種間同士の関わり合いが複雑化すれば、世の中の流れを変えるゲームチェンジャーは生まれる可能性も高くなるはずだ。
予測不可能なVUCAの時代で生き延びるため、さまざまな知恵や工夫が生まれつつある。複雑化した世界のなかでも活躍できるような、新たな人材育成に役立つ可能性も充分にある。
VUCAの時代を迎えたいま、注目されているのがOODAループである。詳しくみていこう。
OODAループは、「Observe(観察する)」「Orient(仮説を立てる・状況理解する)」「Decide(決定する)」「Act(行動する)」の4つの言葉を組み合わせた言葉だ。読み方は「ウーダループ」である。もともとは軍事用語のひとつであったが、VUCAとともにビジネスにおいても注目されるようになった。
OODAループがVUCAの時代に注目されるのは、従来のPDCAサイクルに限界があるためだ。将来予測が不可能な状況では、「Plan(計画)」を立てることさえ難しい。それに代わって求められるのが、観察と理解である。現状確認と現状理解がしっかりできれば、不確実な状況においても、より確実な選択をしやすくなる。
OODAループは、その頭文字が示すとおり「観察」「仮説・状況理解」「決定」「行動」の4つのステップを繰り返すことを示す。
1.【観察】市場や現場の状況など、生きたデータを収集する
2.【仮説・状況理解】データをもとに仮説を立て、正しく理解する
3.【決定】現状をもとに、問題解決のための行動指針を決定する
4.【行動】実践する
実践した結果、成果が出ても出なくても、また「観察」に戻って4つのステップを繰り返していく。常に変化し続ける状況を見据え、素早く対応できるというメリットがある。
OODAループについてより深く理解するため、2つの成功事例を紹介しよう。
製造業を営むA社では、受注が増えている一方で生産量が伸びないという課題を抱えていた。現場調査の結果(観察)、「部品調達が間に合っていないこと」「部品調達のルートがひとつしかない」という事実が発覚した。
社内会議で「このままでは欠品が生じる恐れがある」「部品の調達ルートが限られていることへのリスク」が指摘(仮説・状況理解)され、新しい部品調達ルートの開拓を決めた(決定)。部品の仕入れ先を新たに開拓し、受注量に見合った量での生産をスタート(行動)した。
自社製品販売のため、営業活動に力を入れたいB社。とくに注力したいエリアを調査(観察)したところ、「ライバル会社が力を持っていること」「そのライバル会社が他エリアに新店舗を出店すること」がわかった。
「ライバル会社が新エリアに注力することで、既存エリアへのフォローは手薄になる」という考え(仮説・状況理解)のもと、「ライバル会社よりも手厚いフォロー」を売りにした販売戦略を決定した。戦略を営業スタッフと共有し、実際に営業活動を行った(行動)。
どちらの事例においても、最初に「観察」を行うことで、未来を見通すことが難しいなかでも、いま必要な対処法を見つけている。PCDAサイクルでは、最初に「計画」を立てていたが、観察と状況理解からスタートする点が、OODAループの特徴である。正確かつ迅速な意思決定が可能になれば、先々の見通しが立ちにくい世のなかでも、対処しやすくなるだろう。
世の中全体が大きく変化するとともに、成長の可能性も秘めているVUCA時代。すべてが目まぐるしく変化していくいまだからこそ、ビジネスで生き残るための工夫も、時代に合わせて変えていくべきだろう。
VUCA時代の特徴を理解した上で、時代の流れに対応できるOODAループを取り入れていこう。これまで以上に迅速な意思決定・柔軟な対応力を身につけることが、時代を切り開く鍵となるだろう。
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