違いを認め合う「インクルーシブ保育」のメリット 普及への課題とサポートの現状とは

芝生の上で手を繋ぐ三人の子ども

日本でも徐々に導入されている「インクルーシブ保育」。みんなが同じ場所で保育されることで、さまざまなメリットが生まれる。インクルーシブ保育の具体的な内容とともに、これまでの保育との違いを学ぼう。インクルーシブ保育に特徴的な場面も紹介する。

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2021.04.20
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インクルーシブ保育とは

お絵描きをする子供と鉛筆立て

Photo by Markus Spiske on Unsplash

インクルーシブ保育とは、子どもの年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、すべての子どもたちを同じ場所で受け入れる保育を指す。子どもたちそれぞれが、異なる支援を必要とするのは当然のこと。支援が必要だからと排除せず、多様性を認める保育手法が「インクルーシブ保育」である。

インクルーシブ(inclusive)という単語には、「包括的な」「すべてを含んだ」という意味がある。文部科学省は、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の共生社会を目指し、幼児期からのインクルーシブ教育の拡充を推進している。

インクルーシブ保育は、インクルーシブ教育システムを構築するために欠かせない要素の一つと言えるだろう。

海外でも、インクルーシブ保育は積極的に取り入れられている。福祉大国としても名高いスウェーデンでは、就学前の幼児教育を行う機関はインクルーシブ教育が基本だ。人種や障害の有無にかかわらず、同じ場所で教育を受けている(※1)。

保育という生活の場で学べるメリット

インクルーシブ保育のメリットは、インクルーシブな環境を幼い頃からごく自然に体験できる点にある。世のなかにはいろいろな人がいて、ともに暮らし活躍していくためには、お互いの違いを認め合う必要がある。違いを踏まえた上で、どのような関わり方をするのが望ましいのか、「保育」という生活の場で学んでいけるだろう。

インクルーシブ保育の現場では、違いゆえにさまざまなすれ違いやトラブルが発生することも。子どもたち自身が、状況に応じた対応力を身につけていける点も非常に大きなメリットである。

グローバル化が進み、共生社会の実現を目指すいま、インクルーシブ教育によって得られる「認め合い」や「場面に応じた対応力」は、社会を生き抜く上で必須の力と言えるだろう。幼い時期からインクルーシブな環境のなかで自ら学べるインクルーシブ教育。その必要性は、今後もますます高まっていくと予想される。

従来の日本の保育(教育)との違い

従来型の日本の教育では、障害の有無によって教室や学校を分ける方式が一般的であった。障害を持つ子どもに対しては特別な配慮が必要であり、そのためには、特別な施設・教室・支援が必要だと捉えられていたためである。

しかしそれは、通常学級からの隔離を意味していた。1981年には、「すべての子どもを通常学級へ」というメッセージが発信。これにより、新たな教育方針が打ち出される。

この時代以降、障害の有無にかかわらず同じ教室で学ぶインテグレーション教育がスタート。ただしこれは、サポートが必要な子どもたちへの支援体制が不十分で、自然な形での「共生」を実現するのは難しかった。

こうした流れのなかで、2013年には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が成立。その3年後から施行された。これにより、インクルーシブ教育の導入が推し進められる。これまでの教育との違いは、「みんな同じ教室で学ぶこと」と「一人ひとりに必要なサポートを丁寧に行うこと」の両立を目指した点である(※2)。

具体例からみるインクルーシブ保育

子どもたちの「参加」行動

インクルーシブ保育で特徴的な場面が、子どもたちによる参加行動である。インクルーシブ保育では、発達障害のため、「他の子がやっている活動を一緒にできない子どもがいる」という場面も少なくない。こうした状況のなかで、子どもたちは各々の参加行動を見せ始める。

実際にやってみる子もいれば様子をうかがう子、「参加しない」と決める子もいるだろう。こうした状況で、活動に加わる子どもから加わらない子どもに対して、参加を促すような行動がみられるようになる。子どもたち一人ひとりが自分の参加行動を決定し、状況に応じた対応力を身につけることで、成長につながっていく。

縦割り保育の実践

インクルーシブ教育で定義される「違い」とは、障害の有無や人種だけではない。これまでの保育現場では、年齢による区別も一般的に行われてきた。インクルーシブ保育に取り組む園では、縦割り保育を積極的に取り入れるところも多い。異年齢同士の関わり合いのなかから、他者との違いを受け入れる意識や状況に応じた対応力を育んでいける。

保育士による子どもたちへのサポート

インクルーシブ教育でサポートを受けるのは、障害を持つ子どもや異なる人種の子どもだけではない。これらはすべて「違い」の一つであり、個性がある限り、「違い」のない子どもはどこにも存在していないのだ。

インクルーシブ保育では、保育士がすべての子どもに対して、それぞれに必要なサポートを行う。子どもに伝わる形で、困りごとを解決するための声かけやケアが実践されている。

インクルーシブ保育実践への課題

コップを使って砂遊びをする子ども

Photo by Markus Spiske on Unsplash

インクルーシブ保育を実践している園の数は、まだまだ多くはない。総合保育サービスを提供する株式会社明日香が2020年に実施したアンケートによると、回答した保育士103名中、インクルーシブ保育を知っている保育士はわずか37.9%に留まることがわかった(※3)。

社会全体に浸透しない理由は、インクルーシブ保育が抱える課題にあると言っても過言ではない。具体的には以下のような点が挙げられる。

・違いを受け入れるまでに時間がかかる
・正しい援助が受けられなければ、「できない子ども」の劣等感が助長される
・活動内容に対して、「簡単過ぎてつまらない」と感じる子どもが出てくる
・保育士側に高い専門知識が求められる
・他の専門職(医師や看護師)との連携が必要
・危険やトラブルへの事前対応
・保護者対応

国がインクルーシブ教育を推し進めるようになったのは、ごく最近のこと。子どもたちへの十分なサポートが必須であるにもかかわらず、専門知識やスキルを有する保育士の数は、まだまだ十分ではない。

インクルーシブ保育においては、それぞれの違いを受け入れる意識を幼少期から育てられるというメリットがある。ただし子どもたちが幼い分、トラブルに発展してしまう可能性も充分にある。こうした課題をいかに解決していくかが、今後の日本で、さらにインクルーシブ保育を広げる鍵となるだろう。

※1 スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線「インクルーシブ教育」
https://www.parasapo.tokyo/topics/22365
※2 子どもの日に インクルーシブな教育|三郷小学校
http://www.ena-gif.ed.jp/misato-e/news/news2018/5.5/
※3 インクルーシブ保育を知っている保育士は37.9%|株式会社明日香
https://www.g-asuka.co.jp/topics/1002.html

※掲載している情報は、2021年4月20日時点のものです。

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