導入が進む「デマンド交通」の現状 導入自治体の成功と失敗の具体例を知る

過疎地を走る路線バス

地方自治体で導入が進むデマンド交通。利用者のニーズに柔軟に対応できる一方で、デメリットや課題もある。デマンド交通とはどのような交通システムで、今後の需要はどうなっていくと予想されているのか。注目の輸送サービスの基本を解説する。

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2021.04.20

デマンド交通とは? 路線定期型交通との違い

停車中の車の列

Photo by Nabeel Syed on Unsplash

デマンド交通とは、路線定期型交通とは違い、利用者のニーズに対して柔軟に運行する公共交通システムである。路線バスをはじめとする公共交通では、「決められた場所を決められた時間に走行し、利用者がそれに合わせる」というスタイルが一般的であった。

これに対してデマンド交通では、利用者があらかじめ予約した上で利用することになる。指定された場所から目的地まで、利用者のニーズに沿った交通サービスを提供してもらえる点が特徴的である。デマンド交通の種類は以下のとおりだ。

【定路線型】
路線定期型交通と同様に決められたルートで、予約が入ったときのみ運行する方式。

【迂回ルート・エリアデマンド型】
あらかじめ決められたルートをベースに、予約に応じてその都度変更。所定のバス停まで回り道し、サービス空白地帯を埋める運行方式。

【自由経路ミーティングポイント型】
運行ルートは定めず、予約状況に応じて柔軟に対応。予約が入ったバス停・ポイントだけを結び、最短ルートで目的地へと運ぶ方式。

【自由経路ドアツードア型】
運行ルートもバス停もない。利用者の指定場所を巡る運行方式。

またデマンド交通の種類は、ダイヤが固定されているかどうかでも分類される。あらかじめ運行ダイヤが決められている場合もあれば、予約状況により柔軟に対応できる非固定型も存在する。一言で「デマンド交通」と言っても、各地域によって導入実態はさまざまである(※1)。

デマンド交通の現状 導入数は増加中

デマンド交通は、公共交通にまつわる課題を解決するための方法として注目を集めている。2013年度には311市町村であった導入自治体数は、2020年3月末時点で566市町村にまで増加した(※2)。

海外に目を向けてみると、日本よりもさらにデマンド交通が発展している国も多い。利用人数や状況に応じて運賃が決まる、ダイナミックプライシングも一般的だ。

需要が高い地域の2つの特徴

日本におけるデマンド交通は、以下のような地域で導入されている。

・少子高齢化が進む地域
・マイカー普及率が高く、路線バス利用者数が少ない地域

高齢化が進む過疎地域では、住人の足をどう確保するのかが重大な課題の一つである。バス停があっても、自宅から離れ過ぎていれば利用するのは難しいだろう。また、ニーズに合ったバスが、確実に走っているとは限らない。

そして、もう一つ無視できないのが、路線バスの運行が難しくなっている地域が少なくないという事実だ。人口減少・マイカー保有率上昇のため、とくに地方部では「路線バスを維持するのが難しい」という状況に直面しているケースもある。このような場面で求められるのが、デマンド交通である。

日本では今後、さらに少子高齢化が進むと予測されている。免許返納したあとの生活の足としても、デマンド交通のニーズはさらに高まっていくだろう。

導入によって得られるメリット

デマンド交通を導入するメリットは以下のとおりだ。

・利用者のニーズに対して柔軟に対応できる
・路線バス維持のために必要な、財政負担を軽減できる
・路線バスやタクシーの運行ルートから外れている人にとっても、生活の足を確保できる

路線バスの代わりにデマンド交通を導入すれば、「利用者ゼロでもバスを走らせなければならない」という状況は改善できる。路線バスを維持するのが難しい地方自治体にとっても、導入しやすい新サービスだ。また、「ドアツードアでの利用」や「目的地の自由な設定」など、利用する側にとってのメリットも多い。

デマンド交通が抱えるデメリットと課題

立体交差を行き交う膨大な車両

Photo by Denys Nevozhai on Unsplash

一方で、デマンド交通にはデメリットもある。デメリットを課題と捉え、解決のための工夫が求められる。

・1人あたりの輸送費は、路線定期型交通よりも上昇する
・予約が面倒で、結局利用されない
・利用者が多くなれば、対応できない可能性がある

必要な分だけ運行できるデマンド交通だが、一度に多数の客を乗せるバスと比較すると、コストは確実に上昇する。また利用実態に即したサービスを提供するのが難しい点も、デマンド交通が抱える課題と言えるだろう。

2011年から国土交通省による補助対象に

デマンド交通導入に注目が集まるようになったきっかけは、国から交付される補助金である。2011年より、「地域の特性に応じた生活交通の確保維持」に対して、国土交通省から補助金が交付されるようになった。

補助金事業の目的は「地域特性や実情に応じた最適な生活交通ネットワークを確保・維持するため、地域間交通ネットワークを形成する地域間幹線系統の運行について支援」である。対象となるのは、予測費用(補助対象経常費用見込額)から予測収益(経常収益見込額)を控除した額だ。補助率は2分の1(事実上、予測費用の40分の9が上限)である。(※3)

導入自治体の成功事例と失敗事例

成功事例「滋賀県米原市のまいちゃん号」

2017年10月1日から運行している滋賀県米原市のデマンド交通が、「まいちゃん号」である。このエリアには、もともと2つのデマンド交通が機能していたが、利便性向上のため「まいちゃん号」に統一された。統一を機に、それまでの登録制を廃止。誰でも気軽に利用できる環境を整えたことで、利用者増につながった。

失敗事例「芦刈町コミュニティタクシー」

2005年に、佐賀県内の4つの町が合併して誕生した小城市。2009年からは巡回バスと乗り合いタクシーの運行がスタートした。「芦刈町コミュニティタクシー」は、事前登録制かつ予約式のセミデマンド(時間帯を限定)により運行。合併前の1つの町内でしか利用できなかった。事前登録のわずらわしさや、使い勝手の悪さから敬遠され、運行方法の再検討へ。住人のニーズに合う路線定期運行へと方針転換された。

デマンド交通は利用者のニーズ見極め導入を

道路を走る車のライトの残像

Photo by Joey Kyber on Unsplash

住人のニーズに合った形で提供できれば、デマンド交通は過疎地域・高齢化地域の新たな足として活用できる。実際に、路線バスよりも維持費を安くし、これまで以上の利用客を獲得している自治体もある。

とはいえ、すべての地域にデマンド交通がマッチするわけではない。デマンド交通と路線定期型交通、それぞれの特徴を踏まえた上で、住人ニーズに合った方法を選択することが大切だ。(※4)

※掲載している情報は、2021年4月20日時点のものです。

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