一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花さんをナビゲーターに迎え、「エシカルへの第一歩」をテーマにインタビューを行うこの企画。前編後編に渡り、エシカルな生活を実践するためのヒントをお届けする。
Chihiro Oshida
エディター・ライター/エシカル・コンシェルジュ
文化服装学院卒業後、出版社やPR会社勤務を経て、オーストラリア・バイロンベイへ留学。帰国後、エシカルに出会う。エシカル・コンシェルジュとして、イベント企画やエシカル初心者向けのお話会を開…
エシカル協会代表理事を務める末吉里花さんへのインタビュー企画。
前編では末吉さんがエシカルに目覚めてからはじめに取りかかったことや、ふだんの生活のなかでいつも意識していること、家で心がけているエシカルなどをご紹介した。お話を通して、いままさに世界中でエシカルな考え方と行動が必要になっていることもわかった。
後編では、肉食との向き合い方や同じ志をもつ仲間の大切さ、エシカルと教育などをお届けする。日頃から参考にしている情報やおすすめレシピもうかがった。
末吉:完全菜食のカフェやレストランも少しずつ増えていると思います。
末吉:ヴィーガンではありませんが、ふだんの食事の中で、できるだけ肉食を減らすようにしています。いまは牛肉はほとんど食べません。
末吉:動物性食品は植物性食品に比べて、地球温暖化の要因でもある二酸化炭素の排出量がとても多いからです。肉食を減らすことが地球温暖化防止につながります。そのなかでもとくに牛肉は環境負荷が高いので、できるだけ控えています。
末吉:これはいまでも悩んでいますね。現時点では私は完全にヴィーガンになることはできないかもしれないと思っています。
地球温暖化という問題を抱えたいまの時代は、世界中の人が肉食をやめることが正しい選択肢なのかもしれません。でも「肉食=悪」ではないと思っています。歴史的に見ても、生きる環境に応じて多種多様な食文化がありました。生き物の命の重さは野菜も含めてすべて同じだと思います。
末吉:みんなそれぞれの思いや考え方があるので、議論する機会も多いですが、難しいテーマだと思います。それだけ人間は食べることに執着しているということですよね。畜産のあり方や飼育方法も考えていかなくてはいけない問題です。どちらにしても、まずは私たちが口にしている食べ物の背景について知り、考えることが大事だと思っています。
環境や土壌に配慮しながら有機野菜を育てる農家の方と同じように、最近では動物や環境のことにきちんと配慮した方法で、生き物を育てている畜産家の方が増えています。そういった方たちを応援することもひとつの選択肢です。
「足るを知る」という日本で昔から大切にされてきた言葉がありますが、これはいつも私がエシカルという考え方を伝えるときによく使う言葉でもあります。生産背景をしっかりと理解した上で、食べるときは感謝しながら必要な分だけをいただく。現時点ではこれが私にとって最善の考えだと思っています。
末吉:はい。ヴィーガン料理はよくつくりますし、先ほどお話ししたような動物や環境に配慮した動物性食品を使った料理もします。
Photo by 一般社団法人エシカル協会
左:カボチャとにんじん、玉ねぎ、にんにくのポタージュ 中:オーガニックパルメザンチーズのリゾット 右:新玉ねぎと大麦と昆布のスープ
末吉:ヴィーガンメニューでお気に入りのポタージュ(※)をご紹介しますね。オーガニックの野菜を使って、味付けは塩のみ、乳製品を使わずにつくりました。夏は冷製にしてもおいしいですし、カボチャをトウモロコシなど、他の旬の野菜に置き換えてつくるのもおすすめです。※ 記事末でレシピ紹介
末吉:エシカルは「こうしなくてはいけない」ということはありません。エシカルの一番の魅力は、選択肢がたくさんあることです。正解があるわけではなく「大事にしたい価値観と、どう重ね合わせて選択していくか」を自分自身で考えられます。
末吉:だからこそ限定するのではなく、続けていくためにも選択肢を増やしていくことが大切だと思っています。このことをエシカルをまだあまり知らない人にもぜひ知ってもらいたいです。
Photo by 一般社団法人エシカル協会
仲間との集合写真
末吉:どうしても時間がなくて、目の前にあるもの(エシカルではないもの)を選ばなくてはいけないときは、とても切ない気持ちになります。まだまだ選択肢が少ないと感じる瞬間です。
末吉:どこでもエシカルなものが手に入るように、エシカル協会としてコンビニ業界に提案しに行ったことが何度もあります。ストレスをストレスに思っているだけだと何も変わらないので、それを声に出したり、行動に移すことがとても大切だと思います。
末吉:そうですね。私も2005年にフェアトレードと出会って、それから5年くらいは一人で勉強したり、私一人に何ができるだろうと悩んでいたことがあります。そこで、同じ思いを共有する仲間がいたらいいなと思い、2010年にフェアトレードコンシェルジュ講座(現エシカル・コンシェルジュ講座)をはじめたんです。
末吉:私も仲間がいるからここまでやってこれました。同じ価値観を持っている人を見つけると、自分はマイノリティ(少数派)ではないと思えますよね。
末吉:仲間はものすごく大切です! もし周りに仲間がいないと感じたら、自ら講座やイベントに参加して見つけてほしいと思います。
末吉:いまはSNSもあるのでオンライン上でも仲間をつくりやすいですよね。イベントの情報も集めやすいです。数年前よりもエシカルの概念に賛同してくれる人が多くなっていますし、以前よりも仲間づくりの壁が低いと感じます。
末吉:もちろん同じような経験がたくさんあります。私の場合は、そのような人にはあえてわかってもらおうとはせず、まずは自分がやってみて楽しかったことを共有するようにしていました。押しつけるのではなく、そのときのワクワク感を伝えることで周りにも自然と伝わっていくと思います。人によってエシカルに興味を持つタイミングは違うと思うので。
それよりも、同じ思いを共感できる仲間を見つけて、いろいろなことをシェアしていく方が勇気が持てます! 私もいつも仲間の報告がとても嬉しいんです。
末吉:例えば、いま、日本に出回っている卵のほとんどが「ケージ飼いのたまご」です。ケージではなく、より自然に近い飼育方法で育てられた「平飼いのたまご」を置いてほしいという希望を、スーパーマーケットの「お客様の声」から問い合わせしたことが、次の月には反映されたという報告です。消費者の声が届いたということですよね。
私と同じように考える人が行動してポジティブな変化があると、それは私の救いになります。やっぱり「行動したら変わる」という共感が広がると、「私も行動してみよう」「みんなでやっていこう」という原動力に変わりますよね。そのような輪をもっともっと広げていきたいと思っています。
末吉:イギリスで創刊された雑誌「Ethical Consumer(エシカルコンシューマー)」のサイトやメルマガは、世界の情報が満載でよく見ています。
そのほかに、気候危機のニュースは「サステナブル・ブランド ジャパン」のサイトをときどきチェックしたり、『不都合な真実』(アル・ゴア著)の翻訳をはじめ、多数の書籍を出版されている枝廣淳子さんの本やメルマガもいつも参考にしています。
あとは基本的にはエシカル仲間がSNSで投稿する情報を参考にしています。仲間の情報はどれも勉強になるものばかりなんです。ピープルツリー創始者の「サフィア・ミニー」さんのSNSでも世界の最新情報をチェックしています。
Photo by 一般社団法人エシカル協会
参考にしている雑誌や本
末吉:はい。義務教育の教科書が改訂されるタイミングで、どの出版社も家庭科の教科書に載せる予定になっています。中学校は2021年、高校は2022年からですね。出版社によっては、国語や英語、社会公民の教科書にも入る予定です。
教科書に載ることになって、ようやくスタート地点に立ったと思っています。言葉としてはまだ知らない人がほとんどですが、これから子どもたち全員が学ぶことになります。ただ、知っているだけでは意味がありません。「どうやって暮らしのなかに活用できるか」が重要です。
先生たちが「生きた実践として、どうやって子どもたちに伝えることができるのか」「きちんとした知識で教えることができる先生がどれだけいるのか」、これが次の大きな課題です。
末吉:エシカル協会では、消費者庁と一緒にエシカル消費が学べる教材を開発中です。どんな人でも簡単に使うことができて、子どもたちにワークショップができるツールです。
先日まず第一弾としてエシカル消費を学べる動画が消費者庁のホームページに掲載されました。
「よりよい買物の仕方を考えよう~エシカル消費ってなあに?~」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/
今後、このように教え方を補足できる教材やツールがもっと必要になっていくと思うので、どうやって増やしていくかも考えています。
もうひとつは、先生たちがつながることができる機会をもっと設けたいと思っています。ですが、教員の方たちはものすごく忙しいんですよね。時間のないなかで、エシカル消費について学ぶ時間を生み出すことは非常に困難だと感じています。
ただ、先生たちへの夏期講習がそれぞれの地域の自治体であるので、そこへ出向いてワークショップをすることがエシカル協会としてひとつできることかなと思っています。
関東ではすでに実施済みなのですが、「答えを教えてほしい」と話す先生がとても多いことに驚きました。「影響をしっかり考えること」が「エシカル」なので先生にも子どもと一緒になってしっかり考えてほしいと話すのですが……なかなか難しいですね。
末吉:ただ、これは先生たちだけの問題ではなく「実行できる社会が子どもたちの周りにあるかどうか」ということも影響する話です。せっかく教科書に載ったとしても載っただけ終わらないように、本当にいろいろな立場の人たちが真剣に取り組んでいかないといけないと感じています。
末吉:もちろんです。子どもがいる方は、子どもの健康や未来のことなどいろいろな意味でエシカルという考え方が響くと思います。私が昨年出版した絵本は「親子で学ぶきっかけになる」という感想をたくさんいただいています。学校と家庭の両方で学ぶことができるといいですよね。
日本の消費者庁としては、「『エシカル消費』が誰もが知る言葉となり、誰もが実践できる社会をつくっていきたい、文化として根付かせたい」と言っています。家庭から親子で学ぶことは、そのような社会をつくるためのさらなる近道だと思います。
ーーエシカルはトレンドではないということですね。家庭から「Re think」はじめてみたいと思います。
Photo by 一般社団法人エシカル協会
著書『じゅんびはいいかい? 名もなきこざるとエシカルな冒険』と一緒に
末吉:「人生そのもの」です!
ーーかっこいいです! ありがとうございました。
Photo by 一般社団法人エシカル協会
人生を変えたアフリカの最高峰「キリマンジャロ」と一緒に
取材・文/大信田千尋、編集/深本南(ともにELEMINIST編集部)
編集後記
「家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令」のパブリックコメントが、5月13日から6月11日まで募集されている。末吉さんは、豚や牛、ヤギ、羊の放牧が大きく制限されるような基準があると危惧している。また将来的には、鶏にも派生する可能性があるという。
アニマルウェルフェアの体現のため、一般社団法人エシカル協会では広く署名を呼びかけている。改正案の詳細は以下の記事を参照されたい。
放牧制限しないで。家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案
認定NPO法人アニマルライツセンター
記事詳細はこちらから
https://www.hopeforanimals.org/pig/infectious-disease-pub/
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今回ご紹介いただいたレシピをご紹介
カボチャ:1/4個
にんじん:1/2本
玉ねぎ:1個(小さめ)
にんにく:1片
塩:小さじ1杯
水:500ml
オリーブオイル:大さじ2杯
コショウ:お好みで
1. カボチャはひと口大に切る。
にんじん、玉ねぎは繊維を断つように、ごく薄切りにする。
にんにくは皮をむいて、お尻に十字の切り込みを入れる。
2. 鍋にオリーブオイルとにんにくを入れ、弱火にかける。
にんにくから出る泡がなくなるまで、じっくり加熱する。
3. 1の野菜を加え、中火にして、玉ねぎが透き通るまでよく炒める。
水500mlを加えて、沸騰したらアクをとる。
4. 弱火にして蓋をしたら野菜が柔らかくなるまで20~25分煮込む。
5. 野菜が煮崩れてきたら、塩を加えて味をととのえる。
6. ミキサーでなめらかにする。お好みでコショウをかけて仕上げる。
(鍋はSTAUB(ストウブ)、ミキサーはバイタミックス(Vitamix)を使用)
一般社団法人エシカル協会代表理事・日本ユネスコ国内委員会広報大使
慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『祈る子どもたち』(太田出版)。『はじめてのエシカル』、新刊『じゅんびはいいかい? 名もなきこざるとエシカルな冒険』(山川出版社)。消費者庁「倫理的消費」調査研究会委員(2015.5~2017.3)、東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、NPO法人FTSN(Fair Trade Students Network)関東顧問、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン アドバイザー、SOMPO環境財団評議員、一般社団法人地域循環共生社会連携協会理事、花王株式会社ESGアドバイザリーボード、新渡戸文化学園NITOBE FUTURE ADVISOR、1% for the Planetアンバサダー、ピープルツリーアンバサダー。エシカル協会
エシカル協会サイト:https://ethicaljapan.org
インスタグラム:https://www.instagram.com/ethical_association/
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