グリーンニューディールとは、リーマンショック時代に注目された経済刺激策であり、環境関連事業に投資をすることで経済の回復と環境問題を同時に解決することを目指した政策だ。現在、アフターコロナの景気回復策として再び注目を集めている。
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「グリーンニューディール」とは、再生可能エネルギーや地球温暖化対策といった「グリーン経済」に投資することで、環境問題の解決を目指すとともに、新たな雇用や経済成長を生み出そうという経済刺激策である。
1930年代、世界恐慌の最中にフランクリン・ルーズベルト米大統領が提唱した経済再生計画「ニューディール」は、新たな公共事業や雇用創出によって経済危機からの脱却を図ろうとしたものだった。これにならい、2008年のリーマンショック(金融危機)の最中に、米国のオバマ元大統領が選挙公約として打ち出した環境関連政策が、「グリーンニューディール」として取り上げられるようになり、世界各国で知られるようになった。
リーマンショック以降の景気回復後、グリーンニューディールについての話題はあまり上がらなくなった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって経済が大打撃を受けるいま、環境問題と経済危機を同時に解決する政策として、世界で再び検討が進められている。
2009年に国連環境計画(UNEP)は、グリーンニューディールは新たな雇用を創出し、持続可能な経済を実現させると提唱。地球規模のグリーンニューディール政策を成功させるには、世界GDPの1%にあたる7500億ドル(約73兆円)をグリーン経済に投資することが鍵になると発表した。
2008年にアメリカのオバマ元大統領は、10年間で1,500億ドル(約13.7兆円)を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの開発に投資し、500万人の新たな雇用を創出することを発表。
具体的には、2015年までに100万台のハイブリッド車を普及する。再生可能エネルギー電力の割合を2012年までに10%、2025年までに25%に引き上げる。2050年までに温室効果ガス排出量を1990年比で80%削減する、といった内容だ。
また、2009年には「米国再生・再投資法(ARRA)」を成立させ、2009年から2019年の間に総額7,872億ドルの景気刺激策の実施を決定。2年間で350万人の雇用を創出するという目標を掲げた。
また、そのうち803億ドル(7.3兆円)を再生可能エネルギーなどの開発や環境汚染対策に、225億ドル(2兆円)を省エネ・環境関連インフラ整備などに投資する計画を発表した。
2009年に、EUはグリーン経済に1050億ユーロ(12.4兆円)を投資し、欧州が環境分野の技術で世界的なリーダーとなることを目指すほか、気候変動問題や低炭素経済への対策として480億ユーロ(6.7兆円)を割り当てることを発表した。
2008年に、ブラウン元首相は風力発電などの再生可能エネルギーを中心とする低炭素社会への移行を提唱。2020年までに風力発電に約1,000億ポンドを投資し、16万人の新規雇用を目指すことを発表した。
2009年に、韓国政府はグリーンニューディール政策として、2012年までの4年間で約50兆ウォン(約3.3兆円)を投資し、約96万人の新規雇用を目指すと発表。内容としては、4大河川周辺の再生による地域経済の活性化や、建物のエネルギー効率化、環境にやさしい交通網やインフラの整備、エコカーや再生可能エネルギーの開発・普及などが挙げられる。
2008年に中国では、景気回復や雇用創出を図り、2010年末までに総額4兆元(約57兆円)という大規模投資を実施することを発表した。そのうちの2100億元(約3兆200万円)が、省エネルギー普及、汚染物質の削減、生態環境の整備などの環境分野を占める。
環境省は2009年に、日本版グリーンニューディールとして「緑の経済と社会の変革」を発表した。これは、環境分野への戦略的な投資をおこなうことによって、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現と、経済成長、雇用創出を目指すというものである。
例えば、学校などの公共施設での太陽光発電の導入、省エネ家電やエコカーの普及促進、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの技術開発に力を入れ、電気自動車や省エネ建築物といった環境産業などに投資する。
環境省は、この政策によって2020年までにグリーン経済市場は120兆円まで拡大し、雇用規模は280万人にのぼると試算した。
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リーマンショック以降、環境と経済の問題を同時に解決する手法として、世界的に話題となったグリーンニューディール。しかしシェールガス革命によって世界のエネルギー事情は大きく変わり、米国では再び化石燃料に依存し、太陽光や風力発電の新設案は遠のく結果となった。
また化石燃料に依存しない未来への投資と言えど、風力発電所や太陽光発電所の設置など、グリーンニューディールには膨大なコストと時間がかかる。さらには脱炭素社会に向けた政策によって多くの失業者が増加する恐れもあり、結果の見えない政策に「非現実的だ」という声も少なくない。
そのため、2019年にもアメリカ史上最年少の女性下院議員としても知られる民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスがエド・マーキー民主党上院議員とともに、グリーンニューディール決議案を発表したが、上院によって否決されている。
世界各国に拡大した新型コロナウイルスの感染によって、経済的被害は2008年の金融危機と比べて7倍以上になると予測されており、政府による経済刺激策に注目が集まる中、グリーンニューディール政策が世界で再び検討されている。その一方、コスト面のリスクや効果に懐疑的な人々も少なくない。
しかし、目先の利益やリスクにとらわれてグリーンニューディールを「非現実的だ」と否定することは、地球温暖化や環境汚染の現状を見て見ぬふりをして、問題を先送りしているにすぎない。
日本ではとくに、化石燃料や原子力への依存から早期に脱却し、震災が起こった際にも被害のリスクが少なく、安定的に電力供給が可能となる自然エネルギーへと主力電源をシフトしていく必要があるだろう。
現在は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) によって増加した失業者に対する補助や、医療や感染防止策における投資が最優先だが、並行してグリーン経済を促進する政策を打ち出すことが望まれる。
実際に、EUでは持続可能なエネルギーと経済の実現に向けて、2021から2030年の10年間に1兆ユーロ以上の投資が計画されており、そのなかには環境産業の構造シフトに伴う雇用対策も含まれている。また、韓国政府も再びグリーンニューディール政策を掲げ、自然エネルギー電力の普及を進め、2050年までに脱炭素を目指すことを発表している。
※参照サイト
・自然エネルギー財団「災禍のたびに高まる自然エネルギーの必要性」
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20200520.php
・環境省「緑の経済と社会の変革(概要)」
http://www.env.go.jp/guide/info/gnd/pdf/igecs_outline.pdf
・環境省「諸外国の動向」
http://www.env.go.jp/guide/info/gnd/pdf/fc_trend.pdf
・農林環境課 諸橋 邦彦「調査と情報 第641号 諸外国の『グリーン・ニューディール』」
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000551_po_0641.pdf?contentNo=1
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