人類の未来を予測した書籍『成長の限界』 シミュレーションからわかった崩壊のシナリオ

植物の苗木を両手に持つ女性

『成長の限界』とは、人類と地球の未来について記した研究レポート。コンピュータによるシミュレーション分析の結果、人類による幾何級数的な人口増加や経済成長がこのまま続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達すると警告し、世界中で話題となった。本の概要や、現状との比較を考察する。

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2021.03.17
SOCIETY
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『成長の限界』とは

宇宙から撮影した地球

Photo by The New York Public Library on Unsplash

成長の限界』とは、1972年に出版された人類や地球の危機を記したレポート。スイスの研究機関・ローマクラブが、マサチューセッツ工科大学のデニス・メドゥズを主査とする国際チームに委託し、人類の経済活動と地球環境の未来についてのシミュレーション結果をまとめたものだ。

本書では、1960年代のような人口増加率と経済成長率が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達すると警告。当時、そのセンセーショナルなトピックは世界中で反響を呼び、その後の地球環境問題への取り組みを啓発する役割を担った。

コンピュータによる未来シミュレーション

『成長の限界』は、システムダイナミクスというシミュレーション手法を用いて分析された未来が記されている。人口、食糧生産、資本、再生不能資源、環境汚染の5つの変数と、それらが相互作用する様を解析。その結果、人類は工業化が進み急速に人口が増加する一方、地球の天然資源は有限であり、幾何級数的な成長とは矛盾することを証明した。

同書には、1970年から2100年までに起こりうる12のシナリオが提示されている。それによると、人類が経活動をこのまま続けていけば、食糧不足や資源の枯渇、環境汚染などよって、2030年頃から経済破綻や人口減少が起こり、人類と地球は崩壊の一途をたどるという。

しかし、早期に社会システムを変えることで、回避する道筋もあると提示。「人口抑制」「資本の投下率と消耗率を対等にする」など、ゼロ成長を保つ「均衡状態の世界」という概念を提案した。

1992年に発表された続編『限界を超えて』

空撮された海外の高層ビル群

Photo by sebastiaan stam on Unsplash

『成長の限界』の出版から20年経った1992年。同書の研究に携わったデニス・メドゥズやドネラ・H・メドウズ、ヨルゲン・ランダースは、続編『限界を超えて』というタイトルの書籍を発表した。20年後、世界は実際にどうなったのか。現状分析に加え、本書では、1970年から1990年までのデータを加えつつ、前作と同様のシミュレーション分析が行われた。

結果は変わらず、地球の成長は限界に達すると再警告を発した。また、人間による経済活動は1990年時点ですでに行き過ぎており、資源消費と汚染物質の産出速度は、物理的に持続可能な速度を超えていると指摘。

しかし、技術革新などによって新たな未来の選択肢も生じた。持続可能な社会を創造するために、資源の消費ペースと再生ペースの見直しが説かれている。

50年後の世界の現状

現在、『成長の限界』が示した限界へと私たちは進んでいるのだろうか。これまで、人口や食糧生産量など、多くの指標は1970年の参照シナリオの通りに推移してきた。

国連が発表した「世界人口白書2020」によると、2020年の世界人口は77億9500万人。2019年に比べて約8000万人増加した。世界人口の増加傾向は続き、2030年には85億人、2050年には97億人になると予測。

しかし本のなかでは、抑制のないまま成長を続ければ世界の資源供給は行き詰まり、2030年頃に経済破綻、続いて人口減少が起こり、人類衰退が始まると分析している。目の前に迫った2030年以降の世界は、果たしてどう変化するのだろうか。

100年後の世界の予測

砂漠に生える一本の枯れ木

Photo by Ivars Krutainis on Unsplash

100年以上の年月が経過した2100年の未来はどうなるだろう。国連によると、2100年頃に世界人口は110億人に達し、ついにピークを迎えると予測している。日本だけで見ると、100年後には人口が4000万人まで減る予想。

また、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014年)は、2100年に最大4.8℃の世界平均気温上昇を予測した。このままでは、環境破壊や人口減少など『成長の限界』に示されたシナリオを迎えてしまうかもしれない。

いつか訪れる、成長の限界のために行動を

「持続可能性」という概念を最初に用いたことで知られる『成長の限界』。経済成長ばかりを追い求めることへの問題定義を投げかけ、大きな影響をもたらした。発売されたのは1970年代だが、いまなお問題は解決されておらず、むしろ状況は悪化する一方だ。持続可能な社会を創造するため、いま一度システムの見直しが必要。その転換期に私たちは生きているのだ。

※ 参考サイト
システム原型「成長の限界」(5)
https://www.change-agent.jp/news/archives/000312.html
成長の限界 人類の選択
https://www.es-inc.jp/books/2005/bks_id002847.html
世界人口白書2020
https://tokyo.unfpa.org/ja/publications/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E7%99%BD%E6%9B%B82020-0%23h1
世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、 2100年頃に110億人で頭打ちか:国連報告書(プレスリリース日本語訳)
https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/
第2節 経済社会の変革への動き
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h25/html/hj13010202.html
地球温暖化についてのIPCCの予想シナリオ
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/1035.html

※掲載している情報は、2021年3月17日時点のものです。

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