我々の移動をより便利かつ効率的に変化させるMaaS。耳にする機会も増えてきたが、具体的にはどのような概念を指すのだろうか?社会を変化させる可能性を秘めたMaaS。基本の概念と導入によって変わること、世界と日本の現状などを解説する。
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MaaS(マース)とは、「マイカー以外のさまざまな交通機関を1つのサービスとして捉え、スマートフォンのアプリを通じてシームレスにつなぐ」という、移動に関する新しい概念を意味する。
交通機関の種類には、マイカー以外のすべてが当てはまる。公共交通機関はもちろん、それ以外の移動手段もふくめ、その運営主体にかかわらず、アプリ上での一括利用が可能になるのだ。
MaaSはもともと「Mobility as a Service(モビリティアズアサービス)」を略したもの。発祥は北欧・フィンランドだ。「MaaSの父」と呼ばれるサンポ・ヒエタネン氏のアイデアをもとに、2014年に発表された。2016年にはスマートフォンアプリ「Whim(ウィム)」がサービスをスタート。MaaSの先駆けと言われている。(※1)
MaaSは、世界的に見ても発展途上のアイデアである。このためMaaSの定義や範囲には、まだまだ曖昧な点も多い。とはいえ、今後さらに普及したら、我々の「移動」を大きく変える概念と言えるだろう。
MaaSの説明から、「これまでの乗換案内とは何が違うのだろう?」と感じる人も多いのではないだろうか。たしかに我々はすでに、さまざまな交通ルートや手段を、手軽に検索できる方法を知っている。
MaaSの基本概念は、「マイカーを保有していない人でも、これまで以上に自由にさまざまな場所に出かけられるようになるサービス」である。具体的には、以下の4つの段階が想定されている。
・レベル1:情報の統合(さまざまな手段・ルートの情報が統合された状態)
・レベル2:予約・決済の統合(予約・決済が1ストップで可能な状態)
・レベル3:サービス提供の統合(公共交通手段だけではなくレンタカー・レンタサイクルなども組み込まれた状態)
・レベル4:政策の統合(MaaSをもとにした都市計画・インフラ整備が進んでいる状態)
レベル分けはスウェーデンのチャルマース大学の研究者によって行われたもので、各国のMaaS達成レベルをわかりやすく示している。レベルが上がれば上がるほど、利便性の向上につながるだろう。(※2)
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MaaSによって生み出される変化は、以下のとおりだ。
・交通渋滞の緩和
・環境問題の改善
・より効率のいい移動のための都市計画の実現
・地方の公共交通料金の低下
MaaSの普及でマイカー移動が減れば、渋滞の予防・排ガス対策につながるだろう。またMaaSを通じて膨大なデータが蓄積されていけば、それを未来に活かしていける。交通サービスを効率よく提供できるようになれば、利用料金の低下にもつなげていける。
またMaaSにおいては、将来的に自動運転の乗り合いバスやタクシーの導入も視野に入れている。この段階まで来れば、「MaaSによって我々の生活全体が変わる」と言っても過言ではない。
MaaSのメリットは、「移動に関する手間を最小限にできる」という点だ。ルート検索から移動手段の決定、さらには決済までひとつのプラットフォームで完了できれば、我々の手間は大幅に軽減される。
マイカー以外の交通手段の選択肢を、より幅広く提示してもらえるようになれば、「車がないと生活できない」という地方ならではの問題解決にもつながるだろう。
万が一、事故やトラブルに巻き込まれた場合も、手元ですぐに代替輸送サービスを検索可能だ。移動時間を短縮させる効果も期待できる。
MaaSのデメリット・課題は以下の4つである。
・自動車業界への影響
・システムの安定的な運用と個人情報保護
・法改正
・地方部における脆弱な公共交通網
マイカー需要が減ることにより自動車業界への影響と、MaaSシステム運用に関する問題は、世界的な課題として掲げられている。
自動車メーカーのなかには、すでにMaaS普及後の社会に向けて、新たな取り組みをスタートしている企業も少なくない。システムを統一すれば利便性は向上するだろう。一方で、何らかのトラブルが発生した場合の影響も広範囲におよぶ。
下2つは、日本独自で抱える課題である。欧米各国では一般的な有償ライドシェアサービス(※一般ドライバーがマイカーで客を運ぶサービス)だが、日本の法律では許可されていない。使い勝手のいいMaaSシステムの構築を目指す場合、法改正の必要があるだろう。
地方部ではMaaSシステムに登録する交通サービスの数・種類が絶対的に不足している点が、課題のひとつである。一方大都市圏においては、すでにある程度の利便性が確保されている。このような状況の中、MaaSの需要をどう高めていくのかが問題視されている。
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MaaS導入への取り組みは、世界各地で行われている。欧米各国の状況は日本よりも進んでおり、中国や台湾での導入事例も話題となっている。各地の事例を3つ紹介しよう。
MaaS先進国と言われるフィンランドでは、ウィムというアプリでMaaSを実現している。2017年に、首都ヘルシンキにて実用化された。利用者はさまざまな料金プランから、好みのものを事前に選択。月額性プランであれば、対象月内は対象モビリティを乗り放題で利用可能だ。
台湾の大都市・高雄では、交通通信省と大手通信会社が共同でMaaS導入に向けて取り組んでいる。メンゴーというMaaSアプリで、モビリティサービス情報や決済を一括管理。月額プランには、バス、タクシー、地下鉄はもちろん、LRTやシェアサイクルも対象に含まれている。
イギリスでは、2018年からウィムがサービスをスタート。それ以前から、MaaSの基盤となる複数のサービスが提供されてきた。利便性の向上を目指し、今後はさらに技術革新が進むと予測される。
日本政府もまた、MaaSに向けて積極的な取り組みを行っている。2018年に内閣官房に設置されている日本経済再生本部が発表した「未来投資戦略2018」では、次世代モビリティシステムの構築をフラッグシッププロジェクトとして提案。まちづくりと公共交通の連携を掲げている。
なかでも重視されているのが、自動運転の発展と交通手段全体の統合である。サービス実現に向けた、官民双方の取り組みが進行中であり、今後の流れが注目されている。(※3)
日本国内においても、民間業者はすでに独自のMaaSシステム構築のために動いている。導入事例を4つ紹介しよう。
東急グループとJR東日本、伊豆急行が連携して実証実験を進めているのが「Izuko」という観光型MaaSである。観光地伊豆をシームレスに楽しめるよう、各種移動手段とともに、観光施設、観光体験もワンストップで決済可能なシステムを構築。観光客の利便性の向上とともに、受け入れ側にとっても、観光地の情報提供・データ収集と、さまざまなメリットが生まれた。
JR東日本では、移動のための情報・購入・決済のすべてが可能な「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の構築を目指す。2019年にはMaaS事業推進部門を設立。さらによりシームレスな移動の実現を目指し、ANAとの連携も発表した。(※4)
2020年9月にスタートした公式MaaSアプリ。鉄道情報や混雑度情報を配信するとともに、クーポンやお出かけ情報も配信する。2021年3月からは高速バスとの連携をスタート。アプリ内から高速バスの検索・予約が可能になった。(※5)
トヨタ自動車が行うMaaSに向けた取り組みのひとつが、イーパレットの実用化だ。自動運転の機能を備えた車両で、ジャスト・イン・タイムなモビィリティサービスの実現を目指す。2021年夏に開催予定の東京オリンピック・パラリンピック大会では、選手村内で巡回するバスとして活用される予定だ。(※6)
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MaaSの普及が進めば、我々の「移動」に関する概念のすべてが変わると言っても過言ではない。地方の過疎化や高齢者の移動手段問題など、社会全体が抱える重大な問題の解決につながる可能性もある。
社会のさまざまな場所で、すでに具体的な取り組みが進行中だ。社会全体がどう変化していくのか、自身の目で見届けていこう。
※1 MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について(P6)
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf
※2 MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について(P5)
https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf
※3 未来投資戦略 2018(P7)
https://www.chubu.meti.go.jp/a31tokai-kyougikai/kyougikai6/result/10.pdf
※4 JR 東日本とANAは連携してMaaSに取り組みます https://www.jreast.co.jp/press/2019/20190828_ho02.pdfhttps://www.jreast.co.jp/press/2018/20190314.pdf
※5 新常態をサポートする MaaSアプリ「WESTER」を本日リリースしました
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/200924_00_wester.pdf
※6 実用化に向け進化したe-Paletteを公開https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/34527255.html
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