「サプライチェーンマネジメント」の仕組みを解説 再注目される理由から導入のメリットまで

接写した鉄製のチェーン

グローバル化が進むとともに、注目度が高まっているのがサプライチェーンマネジメントである。具体的にどのような経営管理手法なのか、基本的な知識を解説する。SCM導入の流れやメリット・デメリットを知り、自社の課題を解決しよう。

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2021.03.22

サプライチェーンマネジメントとは

ポストイットを使って説明する会議中の女性

Photo by Leon on Unsplash

サプライチェーンマネジメントとは、サプライチェーン全体で情報を共有し、モノの流れを効率化・最適化するための経営管理手法を指す。モノが製造され、エンドユーザーの手に渡るまでには、さまざまな事業者が関わる。原材料の調達・製造・流通・卸売り・小売りと、これら一連の流れをサプライチェーンと言う。

サプライチェーンマネジメントを直訳すると、「供給連鎖管理」である。Supply Chain Managementの頭文字を取って、SCMとも呼ばれている。1982年、ブーズ・アレン・ハミルトンのK.R.オリバーとM.D.ウェバーが、初めて提唱した手法である。

よく似た言葉にバリューチェーン(価値連鎖)、ビジネスチェーン(事業連鎖)などがあるが、それぞれ別の意味を持つ言葉である。バリューチェーンは一企業内の事業の流れを指しており、ビジネスチェーンは業界全体の事業プロセスを指す。

サプライチェーンと近い意味で使われるのはビジネスチェーンだが、サプライチェーンがモノに特化した考え方であるのに対して、ビジネスチェーンは業界全体のサービスや情報の流れまでを対象とする。

サプライチェーンマネジメントの仕組み

1982年に提唱されたサプライチェーンマネジメントは、2000年代に人気となった。その後いったん下火になったものの、デジタル技術の導入により、近年人気が再燃している。その仕組みは以下のとおりだ。

1. 販売・受注実績の共有(小売店でのPOS入力・営業担当者からの報告など)
2. 需要予測
3. サプライチェーン全体の計画を最適化(発注、生産、出荷・物流、販売など)
4. その内容をもとに生産・購買・物流をスタート

従来型の物流システムでは、モノは生産者→エンドユーザーという流れで供給される。それぞれの企業は自社の利益のために動き、積極的に情報共有できる仕組みはなかった。サプライチェーンマネジメントの登場によって、モノの流れの仕組みは一変した。

一企業だけではなくサプライチェーン全体で情報を共有するようになり、より効率のいい生産・販売が可能になったのである。

必要とされる背景と再注目される理由

地上から見上げた高層ビル

Photo by Chalo Garcia on Unsplash

従来型の物流システムでは、需要と供給のバランスを取るのが難しく、それぞれの企業が在庫を抱えがちであった。過剰在庫は、企業の経営状況を悪化させるもの。こうした背景の中、サプライチェーン全体で生き残るためのマネジメントが必要とされた。

1980年代から2000年代にかけて、世界のIT技術は大幅に進化してきた。「求めていたシステムがIT技術の進化によって実現可能になった」という点も、サプライチェーンマネジメントのニーズが高まった理由のひとつと言えるだろう。

いったん、人気が下火になったサプライチェーンマネジメントだが、近年、再注目されている理由は「ビジネスのグローバル化」「ユーザーニーズの多様化」の2つだ。

グローバル化が進むにつれ、企業の生産拠点・販売エリアはどんどん広がっている。これまでの流通システムではとうてい対応できず、新たな仕組みが求められている。

もうひとつ忘れてはいけないのが、ユーザーニーズの多様化である。大量生産・大量消費の時代は終わりを迎えた。インターネットで個人が手軽に情報収集できるようになったいま、モノを必要としている個人に対して、どれだけ無駄なく供給するのかが、非常に重要な課題となっている。

こうした課題に対応できる可能性を秘めているのが、サプライチェーンマネジメントというわけである。

サプライチェーンマネジメントを積極的に導入する業種としては、「医薬品」「化粧品・日用雑貨」「自動車」「精密機器」「繊維・アパレル」「電機機器」などがある。(※2)

導入までの5つの流れ

サプライチェーンマネジメントを導入する際の流れは以下のとおりだ。

1. 対象範囲の決定
2. メンバー企業の選定
3. SCMイニシアチブ企業の選出と決定
4. インターネットによるネットワーク構築(インフラ整備)
5. ルールの確立

全体で情報を共有するサプライチェーンマネジメントだが、どこまでを対象にするのかは、業種・業態・参加企業の考えによって変わってくるだろう。まずはそれを決定し、その上でメンバー企業・リーダー企業を選定する。

導入時には一からインフラ整備を行う必要があるため、初期コストは高くなりがちだ。また複数の企業が関わってひとつのシステムを運用するため、時間的コストも無視できない。(※3)

導入で得られるメリットとは? 3つのポイント

サプライチェーンマネジメントを導入するメリットとしては、以下のような点が挙げられる。

・余剰在庫によるリスクの低減
・生産や製造にかかる時間の短縮
・売上の最大化

サプライチェーン全体で情報をやり取りできれば、モノ・時間・コストの無駄を極力省けるだろう。需要と供給バランスが最適化され、商品の回転率が高まれば、売上アップの機会を逃さずに済む。

デメリットは以下のとおりだ。

・システム導入&運用コストの発生
・人的コスト、時間的コストの発生
・不足の事態への対応力低下

サプライチェーンマネジメントの最大のデメリットは各種コストの発生である。その負担は、決して少なくないのが現状だ。また「常に在庫が最適化された状態」というのは、突発的な事態に弱いという側面もある。何らかの事情で急激にニーズが上昇した場合の対応は、難しいだろう。

また当然、サプライチェーンマネジメントを活用しても、「完璧な予測は難しい」という現状もある。

日本企業の導入事例 目的から成果まで

パソコンの画面を指差しながら会話する二人

Photo by John Schnobrich on Unsplash

食品製造販売のグローバル企業への導入事例

味の素株式会社は、世界の約130か国で家庭用、加工用、外食用調味料・食品などを販売するグローバル企業である。2003年にさらなるグローバル化を見据え、家庭用製品約
1,800品目を対象にSCMパッケージを導入した。

過去の販売実績を用いた予測精度の検証や、加工用商品に対する適応性の評価が主な目的であった。SCMによって物流システムの効率が高まり、より幅広いニーズに対応できるようになった。(※4)

建材設備機器大手メーカーへの導入事例

幅広い住関連サービスを提供する株式会社LIXIL(リクシル)。もともと国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合してできた企業で、それぞれのシステムを利用してきた。

2014年にはグループ全体の基幹システムを刷新・統合する「L-ONE(LIXIL Overall New Engine)」プロジェクトをスタート。2017年には、情報の一元管理のために新システムを導入した。SCMで膨大な商品の情報管理ができる体制を構築したことで、生産リードタイムの大幅短縮を実現。

素早い商品供給が可能になったとともに、欠品による機会損失の削減につながった。(※5)

グローバル社会に向けて SCMの課題と今後

グローバル化やニーズの多様化は、今後もますます広がっていくと思われる。それに伴って、SCMの需要も高まっていくだろう。

とはいえ、SCMそのものに課題がないわけではない。SCMを導入したサプライチェーンのなかには、「うまく機能していない」というケースもある。重要なのは、必要な情報が素早く確実に伝達する仕組みをつくり、適正に運用していくことだ。

導入コストに関する課題もあるが、近年、コスト以上のメリットがあると判断する企業も増えてきている。今後もさらに、SCMは拡大していくだろう。

※1 日本におけるSCMの現状分析(5P)
https://core.ac.uk/download/pdf/59285615.pdf
※2 サプライチェーン・マネジメントを導入するには、どのようにすると良いですか?
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/productivity/Q0705.html
※3 業務志向の需要予測システム 販売状況の可視化から生産指示まで網羅 計画業務の大幅な効率化を実現
https://www.canon-its.co.jp/case/detail/foremast_03.html
味の素 グローバルロジスティックス対応基盤となる SCMパッケージを導入
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2003_08_01_1.html
グローバルSCMの改善を目指す
https://www.logi-square.com/interview/detail/150220

※4 事業の急激な変化やM&Aに迅速かつ低コストで対応するため、グループ横断の統合生産システムを構築
https://www.exa-corp.co.jp/cases/spbom_lixil.html
サプライチェーンマネジメント
https://www.lixil.com/jp/sustainability/supply_chain/supply_chain.html

※掲載している情報は、2021年3月22日時点のものです。

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