2019年から施行されている働き方改革関連法。これに伴って、ワークライフバランスやワークライフハーモニーといった言葉が急速に広まった。ワークライフハーモニーはワークライフバランスとどう違うのか。ワークライフハーモニーという言葉が生まれた背景と日本人の仕事観を考察する。
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ワークライフハーモニーとは、Amazonのジェフ・ベゾス氏の言葉。2016年に「私は、社員たちにワークライフバランスよりもワークライフハーモニーを大切にするよう伝えている」とRecodeCodeカンファレンスで発言したとされる。
ベゾス氏によると、ワークライフバランスは人間を消耗されるフレーズであるという。仕事と私生活のバランスを取ろうとすることは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないトレードオフの関係にあることを意味する。
ベゾス氏と言えば、2020年も個人資産額を更新したことがニュースになるほどの人物であり、一説によると仕事に関してかなりシビアであると評されている。そうした事実からは、私生活を顧みない仕事人間なのではないかと思われるが、実際はまったく違うようだ。
同氏は、朝は目覚まし時計をセットせずに起き、毎朝、朝食を家族とともにとる。ミーティングの予定も少なく、毎日家では皿洗いの時間も確保しているという。ベゾス氏いわくキャリアと私生活は互いを補い合う関係にあるため、この2つを対立させることが現実的なものではないのだ。
世間にはベゾス氏のように仕事は生きがいであり、仕事と人生を分けてしまうことでやりがいをなくしてしまうとする声もある一方で「ワークとライフは極力分けたい」「そもそも、バランスもハーモニーも日本人には馴染みにくいのではないか」という声もある。
また、ワークライフハーモニーを提唱する人の立場に注目する見方もある。企業の経営者が従業員に対して広めると、ブラックな働き方を強要しているようにも聞こえるというものだ。企業経営者やビジネスオーナーの立場にある人と、雇用されている立場にある人とでは受け止め方が異なるのも事実かもしれない。
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ワークライフバランスもワークライフハーモニーのどちらも、元々欧米で普及した概念である。その背景には日本より早く女性の社会進出が進み、子育てとの両立が課題となったことがある。
日本もバブル崩壊後、経済は長期にわたって停滞している。高度経済成長時代のような収入アップと安定雇用を望めなくなった。少子高齢化に伴う労働人口の減少は避けられないため、女性の活用が期待されることとなった。
ところが、滅私奉公や我慢を美徳とする日本では、仕事と私生活を同等、あるいは私生活を仕事よりも優先させるという発想を持つ人には重要な仕事を任せることはできないという考え方も根強い。
近年少しずつ状況は変わっているとはいえ、昇給や昇進の条件に転勤があるなど、ワークかライフかの二者択一を求められるシーンは後を絶たない。
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ワークライフハーモニーの実現には、ダイバーシティーが必須となるだろう。日本のジェンダーギャップは世界でも顕著に低いことが知られているが、問題の本質は社会のリーダー的な層がある意味で同質的で、未知の世界や経験したことのない分野や領域に対して想像力を働かせられないことではないだろうか。
ダイバーシティに含まれるのは、女性に限らない。若い人やハンディキャップのある人、介護が必要な家族がいる人、地方や海外に住む人なども含まれる。人は自ら経験したことでなければ、真に理解することはできない。意思決定権を持つ人に多様な人材を登用することがワークライフハーモニーの第一歩となりうる。
現代は、いつでもどこでも仕事できる環境になった。しかし、あえてやらないことを決めることも大切だ。
先述のベゾス氏は、ミーティングを開くことで取られる時間やコストを最小限にするために、「2枚のピザルール」を徹底している。2枚のピザで参加者を満足させられないほどの人数のミーティングは設定しないし、参加もしないという。
2020年に世界最大級のメガバンクHSBCが行った調査によると、日本のワークライフバンスは調査対象国40ヵ国中、40位であることがわかった(※)。日本は外国人観光客に人気のある国だが、住むには魅力が乏しい国との評価をされているといえる。
ワークライフバランスにしろ、ワークライフハーモニーにしても目指すところは同じである。まずは社会の構成員である私たち一人ひとりが、仕事も私生活も生活の一部であることを十分に理解することからはじめてみたい。
※ 13th Annual Survery 2020
https://www.expatexplorer.hsbc.com/survey/country/japan
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