アフリカを襲った「蝗害」 被害内容や生態を解説、そして日本への影響は

穂を垂らす小麦

蝗害とは、バッタ類の大量発生によって起こる災害のこと。増殖したバッタは草木を食い荒らし、さらなる食料を求めて移動しながら、農産物まで食べ尽くしてしまう。2020年には、東アフリカで異常発生したサバクトビバッタによって、数万ヘクタールの耕地・牧草地が壊滅したと言う。

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2021.02.23

蝗害(こうがい)とは、バッタの大量発生によって起こる天災

まばらに木が生える荒野

Photo by Jacki Drexler on Unsplash

蝗害(こうがい)とは、バッタ類の大量発生によって起こる災害のこと。「蝗」という漢字は、バッタやイナゴと読む。増殖したバッタは草木を食い荒らし、さらなる食料を求めて移動しながら、農産物などを食べ尽くしてしまう。

2020年2月頃には東アフリカを中心にサバクトビバッタが大量発生し、ソマリア政府は国家非常事態を宣言。被害はアフリカだけに収まらず、その後中東やアジア20カ国以上にまで広がっている。

蝗害の特徴

バッタの種類・生態

蝗害を起こすバッタは、主にトビバッタやワタリバッタと呼ばれる種類で、英語では「Locust」と記される。日本にも生息するトノサマバッタや、東アフリカを中心に被害を及ぼしたサバクトビバッタもこの一種である。

サバクトビバッタは通常、「孤独相」といって単独行動を好み、特別害を及ぼすような種類のバッタではない。しかし、繁殖によって個体数が増加すると、群れを形成する「群生相」という生態に変異する。この変化は「相変異」と呼ばれる。

集団で行動するようになったバッタは、過密による接触から、体の色は黒や黄色を帯び、翅(はね)が長くなるなど外観が変化。また、雑食性が増して食力旺盛になり、体重(2g程度)と同じ量の植物を食べるようになる。

さらに恐ろしいことに、相変異によって繁殖力も強まる。群れは個体数を増やしながら、食料を求めて1日130〜150km飛行することもあると言う。

大量発生の原因

蝗害を起こすサバクトビバッタは、アフリカ大陸から西アジアにかけて広く分布しており、通常は砂漠などの乾燥地域で単独で行動する。

しかし、まれに大雨が降ると、エサとなる植物が増えることで、栄養分を摂取してサバクトビバッタは成長。さらに高温多湿な環境条件が重なると、発育・繁殖を繰り返し、大量発生へとつながる。

降水量の少ない乾季が訪れると、群れはエサが残るエリアや繁殖に適した環境を求めて、発生地域から別の地域へと侵入。こうして被害が拡大していくのだ。

蝗害による被害の内容

世界的に見ると、蝗害は深刻な自然災害として扱われている。群れとなったサバクトビバッタは、穀物やワタ、果物といった農作物だけでなく、紙製品などすべての草木類全般を食い荒らしてしまうためだ。

被害にあった国は、農作物の損失による経済的被害に加え、食糧難や家畜の飼料不足が加速し、飢餓や貧困問題へと発展する場合も少なくない。

日本と世界の蝗害の歴史

頭を垂らす稲穂

Photo by Sandy Manoa on Unsplash

サバクトビバッタは「世界最古の害虫」と呼ばれている。その由縁は、蝗害は旧約聖書やコーランなど、人類史において幾度となく登場しているためだ。21世紀においても、アフリカを中心に中東・南アジアなどでバッタの大軍が確認されている。

隣国・中国でもトノサマバッタによる蝗害の記録が紀元前から残されている。最近では、2005年に海南省の農地をバッタの群れが襲った。

中国では、蝗害は水害・旱魃と並んで三大災害とされており、皇帝の存亡に関わるほど被害が大きくなるため、虫偏に皇という文字が生まれたという説もある。

日本にはサバクトビバッタは生息しないが、イナゴ(生物分類上は同じバッタ目に属している)による蝗害が度々起こってきた。また、1880年には、北海道・十勝でトノサマバッタが大発生。その蝗害は6年間も継続し、当時の北海道の開拓事業を難航させたと言う。

対策法

バッタの大群を制御する方法は、農薬や殺虫剤が主に使用されている。薬は、小型飛行機やドローン、車から噴霧器を用いて農薬を散布。

即効性もあり有効な手段だが、研究者の間では農薬が人体や環境に及ぼす影響を懸念する声もある。そこで、周囲の環境への影響を少なくする手法として、糸状菌を用いた生物農薬が注目されている。

しかし、生物農薬は大量に用意することができず、即効性も薄い。現在も拡大する被害をいち早く抑えるために、大量の化学合成農薬が散布され続けている。

2021年最新の蝗害の現状

アフリカの草原に生えた一本の木

Photo by Damian Patkowski on Unsplash

2020年にアフリカで猛威を奮ったサバクトビバッタによる蝗害問題。10カ国で計130万haでの殺虫作業が行われてきたが、喪失した穀物は推定270万tにのぼり、約1800万人分の食料が失われた形になると言う。

しかし、事態はいまだに収束していない。国連食糧農業機関(FAO)は、バッタの大量発生を防ぐために動向を監視しており、2021年2月9日にアップデートされた情報によると、ケニアやエチピオピアでバッタの群衆が確認されている。

ちなみに、サバクトビバッタは低温で生息できないため、ヒマラヤなどの山脈を越えることはできず、東アジア、そして日本まで進入する可能性は低いと考えられている。

蝗害は決して無関係ではない

2020年にアフリカを襲った蝗害。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など諸問題が重なったことで対応が遅れ、被害が拡大してしまったと考えられる。

日本では近年、バッタの大量発生は起きていないが、世界におけるフードシステムや課題は複雑に絡み合っている。日本への直接的な影響はなくとも、問題に目を背けずに選択・行動することが求められる。

※ 参照サイト
インドにバッタの大群侵入、蝗害がコロナに続く新たなリスクに|ニッセイ基礎研究所
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64935?site=nli
サバクトビバッタについて|国際農研
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/desert-locust
Desert Locust situation update 16 February 2021|FAO
http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/index.html

※掲載している情報は、2021年2月23日時点のものです。

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