キルギスの誘拐結婚「アラカチュー」 その背景や実情とは

沈む夕日を眺めるカップル

アラカチューとは、女性を誘拐して結婚するというキルギス共和国でおこなわれている慣習のこと。合意のあるアラカチューもあるが、現在は合意のない暴力的なケースが増えており、女性への人権侵害として国際的にも問題視されている。

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2021.02.28
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キルギスの誘拐婚「アラカチュー」とは

手をつなぐカップル

Photo by freestocks on Unsplash

アラカチューとは、男性が友人とともに女性を家まで連れ去り、男性の親族が女性を説得して結婚するという、旧ソビエト連邦のキルギス共和国で、現在もおこなわれている慣習のこと。日本では「誘拐結婚」と訳されることが多い。

キルギス語で「アラ・カチュー(Ala Kachuu)」は「奪って去る」といった意味を持ち、元々は、敵の一掃と部族繁栄のために他の部族から結婚できる女性をさらうという、古代キルギスの慣習を意味していたと言われている。20世紀以降は、「駆け落ち」としての合意のあるアラカチューと、合意のない強引で暴力的なアラカチューが存在している。

2013年の時点で、アラカチューは過去半世紀以上にわたって増加傾向にある。国際連合児童基金によると、2019年の前期6ヶ月では、118件の誘拐結婚が国を問わず報告されている(※)。

なぜアラカチューが慣習となったのか

慣習となった原因の一つとして、キルギスでは法律や宗教よりも伝統を尊重する傾向があり、伝統的な英雄叙事詩「マナス」にアラカチューの記載があると誤解されていることが挙げられる。

またキルギスでは、親が決めた相手と結婚することが一般的だったが、旧ソビエト連邦の共和国になった20世紀以降、男女平等や自由恋愛の考え方が広がり、アラカチューは、その際おこなわれた「駆け落ち」を表す言葉として使われていた。

現在も両親からの結婚反対を理由とした、合意のあるアラカチュー(駆け落ち)は存在している。一方で、アラカチューの意味が「伝統」としてねじ曲げられて伝わり、合意のない暴力的な誘拐行為が年々増えているという。

合意のないアラカチューが続く背景として、
・キルギス文化に基づく正当な結婚には、金銭的負担を強いられる
・国民の75%がイスラム教徒であるキルギスでは、婚姻の際には処女性が重視され、女性にとって一度入った男性の家を出るのは恥ずかしいこと
・高齢の女性を敬うことはキルギスの伝統であり、男性の親族である高齢女性の説得を断ることは失礼に当たる
・アラカチューによる結婚を、男らしさの象徴と考えている一部の男性が存在する
・周囲の人間や警察官、裁判官が、この慣習を黙認している
といった、貧困問題や宗教性、伝統の誤った解釈などが挙げられる。

アラカチューによって結婚した女性のその後

誘拐された女性の8割が結婚を受け入れると言われており、結婚後に幸せな家庭生活を送る女性たちもいれば、離婚や家庭内暴力も後を絶たない。そのなかには、アラカチューを原因とする生活難によって、2人の女性が自殺してしまった例もある。

また、アラカチューによって若くして結婚することになり、進学を諦めて家庭に入る女性も少なくない。そのため女性の社会進出の妨げによる経済の停滞も懸念されている。

法律による規制と被害の実情

アラカチューは、ソ連時代の1928年に「慣習に基づく犯罪」として法律で禁止されている。また、1991年のキルギス独立後にも違法と制定され、現在は5〜10年の拘禁刑が定められている。

2018年5月にはアラカチューの被害女性が、誘拐犯によって警察署内で刺殺される事件が発生。誘拐犯には殺人および結婚目的の誘拐により禁固20年の有罪判決、犯人を援助した人物にも禁固7年の刑が下された。また、警察署内では20人以上が職務怠慢による処分対象となった。

しかしキルギスでは、いまだに年間約11,800人もの女性が誘拐され、そのうち約2000人がアラカチューの過程でレイプ被害にあっている。また、多くの警察や裁判官がアラカチューを黙認していることから、誘拐事件として裁判にかけられるのは700分の1程度だという。

批判と反対運動

キルギス国内では、合意のない暴力的なアラカチューはキルギス本来の伝統に反すると批判し、反対運動をおこなう女性組織も存在する。また、キルギス人の伝統を尊重する精神に訴えかけるような教育プログラムの実施も、試験的におこなわれている。

多くの西洋諸国や女性団体は、アラカチューを女性の人権侵害であると批判。2018年5月には、国際連合は「アラカチューはキルギスの文化ではなく、社会的弱者への権利の侵害だ」と声明を発表した。

※掲載している情報は、2021年2月28日時点のものです。

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