「捨てるも捨てないもお客さんの選択」 家具修理職人が語る、長い付き合いを生む"修理"の境地

Kibi Craftの扉

「KibiCraft(キビクラフト)」は、長野県上田市にある家具修理と生活雑貨の店。オーナーの三浦朋秋(みうら・ともあき)さんは、木工家具の修理職人だ。依頼主の好みを聞き、時代に流されない修理を行うことで、家具と依頼主との長い付き合いをサポートしている。

Ayaka Toba

Editor/Writer

記者、雑誌編集者を経てフリーランス。旅先のネパールで環境問題に興味を持ち、以降、世界中のサステナブルなモノコトに注目しています。いまはサーキュラーエコノミーを勉強中。

2020.12.26
EARTH
編集部オリジナル

地球を救うかもしれない… サキュレアクトが出合った「未来を変える原料」と新たな挑戦

Promotion

家具が壊れたら修理する?それとも捨てる?

先祖から受け継いだタンスや、家族の温もりが残るテーブルには、お金には代えられない価値が詰まっている。ある日、お気に入りの家具が壊れてしまったら、まず“修理”を思い浮かべる人は多いだろう。

でも、修理するよりも、新しい家具を買った方が安ければ、あなたは修理か買い替えのどちらを選ぶだろうか。もし修理を選んだなら、それは思い出をつなぎつつ、環境にもやさしくできる選択だ。

最近よく見聞きするようになったSDGs(持続可能な開発目標)。目標12「つくる責任 つかう責任」では、持続可能な消費を実現させるとともに、生産や消費のあり方を見直すことを掲げている。

わかりやすく言うと、環境にできるだけ負荷をかけないために、自分の消費と生産に責任を持とうということ。少し難しそうに聞こえるが、一人ひとりにできることは、日々の生活のなかにたくさんある。「修理して使う」もその一つだ。

作業をする男性

KibiCraftの名前は「木」と「美」を合わせている。いつの時代にも馴染む名前を選んだそうだ

今回紹介するKibiCraftは、古い家具の持つ良さを見極め、より長く使い続けるための修理、補修、塗装を行う修理店だ。ほかに、修理した古家具や日用雑貨の販売もしている。

長野県・上田菅平インターチェンジから、車で2分ほど走った静かな通り沿いにKibiCraftはある。太陽の柔らかな光が差し込む店内には、三浦さんが丁寧に修理した家具と妻の紗代さんが選んだセンスのいい日用雑貨が並ぶ。

「実用修理」を手がける家具の修理職人

家具が並ぶkibi craftの店内

家具や生活雑貨が並ぶ店内。定期的に季節に合わせたイベントも開催している

「修理にも方向性があります。おおまかに、実用修理なのか、修復や保存なのかで、アプローチが異なります。僕が主に行うのは実用的な修理です」

三浦さんは、現代家具から100年以上のアンティークまで、幅広い年代に生産された家具修理を手がける職人だ。木製品なら全般を扱う。これまでに手がけた修理の件数は、椅子だけでもゆうに2,000脚を超えているそうだ。

美術品には対応できないこともあるが、修理依頼はひどく傷んでいるものではない限り引き受けているという。

「『長く愛用していた家具の修理をしてほしい』という依頼や、『捨てようか迷っているので、とりあえず見積もりを知りたい』という問い合わせもよくいただきます。迷っている人は、買ったときの値段より高くなると修理しないことが多いですね」

廃材でも使えるものはできるだけ使う 

三浦さんが家具修理の世界に飛び込んだのは、高校卒業後、18歳のとき。東京都世田谷区のとある家具店に入社したことがきっかけだ。そこは家具を修理しながら販売するお店で、いまの仕事の基礎となる技術を学んだ。その後、家具の塗装や補修を行う会社を転々としながら、さらにその技術を磨いてきた。

「家具修理を仕事にしたのは、一番惹かれたから」と三浦さん。2009年に長野市で独立してKibiCraftを開業した後、2015年に三浦さんの故郷である上田市に移り、修理と古家具・生活雑貨を販売するいまのスタイルに落ち着いた。

開業当時、個人からの修理依頼は少なかったというが、インターネットを活用する家具修理店が少ない頃からホームページを開設。その効果もあってか認知度も徐々に上がり、修理の依頼は県内外、個人業者を問わず舞い込むようになった。

修理を受け付けるときは、まずお客さんが何を気にしていて、どう修理したいか希望を細かく聞き取る。やりすぎることのないように、要望をもとに必要最低限の作業を考え、希望に応じて施行の内容を提案するためだ。そのうえで、修理する家具の年代や状態に馴染むよう、修理に使う部品にも気を配る。

釘やネジを取る手

長さ別に分けられた釘。使う金具は修理する家具に合わせて年代やダメージを合わせて選ぶ

三浦さんの工房には、小さな釘が綺麗に選別された棚がある。その近くには、太さや長さがばらばらの木材が並べられている。この多くはいままでの修理で発生した廃材で、大きさや種類ごとに分けて保管しているという。

「普通なら捨ててしまうことが多い小さな木材ですが、なかにはいまは入手しづらくなっているものもあるし、一つひとつ持っている表情も違います。修理で出た廃材は部品としてストックしています」

取っておいた廃材から家具と同じ年代のものを選び出し、欠けている部分を補うことはよくあるそうだ。手元に素材がなかった場合にも、修理する家具に馴染むように工夫を凝らしている。

家具修理は寿命を穏やかに延ばす仕事

並んだ家具修理の道具

カンナやノミなど修理に使われる道具たち。見たことのない形や大きさの道具もそろう

三浦さんは家具修理のどこにやりがいを感じているのだろうか。

「ものには必ず寿命があります。物理的に壊れることもそうですが、飽きられるのも結果として捨てられる要因になります。僕の仕事は、その寿命の曲線を穏やかなカーブを描くようにすることだと思います。

再修理できるような作業を心がけたり、飽きのこない見た目に仕上げることであったり、大変ではありますが、修理した家具がまた使えるようになってお客さんに喜んでもらえるのがこの仕事のやりがいです」

修理をする時には慎重になるところも当然ある。

「一度手を加えてしまうと、まず戻せないんです。持ち込まれる家具は、いままでの汚れや傷も含めて、味になっている。思い入れのあるものは慎重に扱わないと、取り返しがつかないことになっちゃうという恐怖感は常に持っています」

三浦さんが選ぶのは何十年先でも馴染む家具

古いものを直すということは、これまで積み重ねてきた時間を含めて、寿命を穏やかに延ばす作業だ。だからこそ、ピカピカの新品に戻すのではなく、経年ならではの味を守る。

生産された時代の特徴や、愛用されてきたからこそ現れる良さを損なわないように、三浦さんは修理を進める。

家具と修理する男性

店舗の横にある工場で作業する三浦さん

店先で売る古家具を選ぶときは、時代感に左右されないこと、流行を追わないことを大切にしているという。

「流行で家具が白く塗られたり、黒く塗られたり……。ここ最近は、塗装を完全に剥いでしまうのがブームになっています。ただ僕は、過乾燥になってしまったり、汚れが付きやすくなったりすることもあり、元の状態がそうでなければ取り入れていません。

もちろん、塗装を剥いだ雰囲気が好みの方もいらっしゃいますので、そのニュアンスを残しながら仕上げ塗装を行い、使いやすいように修理することはあります」

KibiCraftで行っているのは、家具の持つ良さを出す修理・売り方だ。形でいえば、10年でも20年でも先に馴染む普遍的な家具。“もの”としての安定感を、修理でも古物を選ぶときでも大切にしているのだ。

たくさん並んだイス

市場で仕入れてきた修理前の家具たち。三浦さんの手から次の持ち主へつながれていく

手入れしながら長く使うという選択を

私たちが使っている家具を手放すタイミングは、三浦さんが言うように大きく分けて2パターンあるだろう。壊れてしまったときと、デザインに飽きてしまうときだ。

「古いものに冷たい社会」と三浦さんは表現するが、たしかに私たちの暮らしは「飽きたら捨てる」「壊れたから新しいものを買う」という価値観の上に成り立っていることがよくある。

これからの社会は、廃棄を出さず、資源を循環させる経済「サーキュラーエコノミー」にシフトチェンジしていくと言われている。現に欧州諸国では、国の経済政策の柱に循環型経済が盛り込まれ始めている。

私たちの暮らしでは、まだまだ未来のことのようにも聞こえる。それでも、プラスチックバックが有料になったり、紙ストローをカフェで見かけるようになったりして、「地球にできるだけ負担をかけない暮らし」へのシフトチェンジが始まっている。

だが、三浦さんが一番見ているのは、お客さんの顔だ。

「捨てるも捨てないもお客さんの選択です。正直、地球を守るために修理しているとまでは考えていなくて。まずは、困っているお客さんが目の前にいて、僕の得意なことで力になれるならという思いが一番。

せっかく修理はしたものの、思ったように仕上がらなくて、結局は捨ててしまうこともあると思う。そういう意味では、なるべく長い付き合いができるよう修理するのが僕の役目です。

この仕事を通して、『長く大切に使う』という価値観が広がり、ひいてはどこかで地球環境にもつながればいいのかなと思っています」

家具が並んでいる写真

三浦さんがセレクトする家具はシンプルだが愛着が湧く品ばかり。もし壊れてしまっても、三浦さんにまた見てもらえるのは心強い

寿命を迎えた家具やものは捨てることは、決して悪いことではない。ただ、現在の量産品は、そもそも「長く使う」には適していないことが多い。素材が粗悪だったり、メンテナンスしないことが前提だったりして、せっかく依頼してもらっても思うように直せないこともあるそうだ。

私たちがこれから目指すべきは、手入れをしながらものと長く付き合う暮らし。長い時間をともに過ごすからこそ、長持ちするデザインとつくりを選ぶ。お金には変えられない価値を刻みながら、何十年も大切にする。そして、三浦さんの仕事のように、暮らしに「寿命を穏やかに延ばす」視点を取り入れてみる。

まずは買い物のときに、長く付き合える品かを考えることから始めてみよう。私たちにもできる小さな積み重ねが、地球への負担を減らすことにつながっていくはずだ。

三浦さんのまっすぐで揺るぎない、職人の仕事を通して見つけたヒントを、今日からの暮らしにぜひ加えてほしい。

KibiCraft
http://kibicraft.com/
〒386-0002
長野県上田市住吉48-9
TEL/FAX 0268-55-9537

※掲載している情報は、2020年12月26日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends