二酸化炭素排出権を取り引きできる「キャップ・アンド・トレード」の仕組み 環境へのメリットと3つの問題点

二酸化炭素の排出取引ができるキャップ・アンド・トレード

キャップ・アンド・トレードとは、二酸化炭素の排出量(キャップ)を国や企業間で取引できる制度。この記事では、制度の仕組みやメリット、日本の現状などを解説していく。費用対効果を考えた二酸化炭素の削減活動ができる大変優れた制度だが、日本は世界各国に比べると遅れをとっているのが現状だ。

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2020.12.31

キャップ・アンド・トレードとは

二酸化炭素増加による地球温暖化対策の1つで、二酸化炭素の排出量(キャップ)を国や企業間で取引できる制度のこと。日本では排出権取引制度と呼ばれることが多い。

もともとはアメリカの発電所において発生する二酸化硫黄を削減する際に用いられた制度だったが、優秀な成果を上げたことで二酸化炭素の排出においても用いられるようになった。

2000年初頭に制度を導入した欧州諸国、米国をはじめ、カナダ、ニュージーランド、韓国、中国でも制度として導入されており、日本においては2010年より東京都が都内の大規模事業者を対象に同制度を導入している。

キャップ・アンド・トレードの仕組み

二酸化炭素の排出取引ができるキャップ・アンド・トレード

キャップ・アンド・トレードの仕組みをわかりやすく3つの段階で説明していく。まず第一段階では、排出してよい二酸化炭素の量を排出枠として決め、それらを各国に割り当てる。

第二段階では、各国がおのおのの企業に対して排出枠を分配。企業は定められた排出枠を超えないように、排出する二酸化炭素の量を抑える。

第三段階では、排出量を超えそうな場合は他国や他企業と排出枠の取引ができる。具体的な例を挙げると、第一段階で、国の二酸化炭素の削減量を決める。

たとえば、2021年の排出量を決める場合は、起点となる年からどの程度、二酸化炭素を削減するかを考える。2016年を起点として、二酸化炭素を30%削減するという目標を立てたら、国には2021年の二酸化炭素排出量の70%分が排出枠として割り当てられる。

第二段階では、国から、なんらかの事業を営んでいる企業へ排出枠が分配される。おのおのは排出枠を超えないよう、二酸化炭素の削減に努める。

第三段階では、二酸化炭素の削減が排出枠内に収まらない国や企業については、救済策として、排出枠に余裕がある国や企業から、排出枠を購入することができる。このような仕組みになっている。

ベースライン&クレジットとの違い

二酸化炭素の排出枠を企業間で取引

キャップ・アンド・トレードは、政府が二酸化炭素の総排枠を定め、それらを企業に配分し、排出枠の取引を認める制度。

対してベースラインクレジットは、企業に対しての排出枠が設定されていない。二酸化炭素の排出削減事業を実施された場合と、実施されなかった場合を比較し、削減された差分を取引できる制度である。

メリットと日本国内の現状

キャップ・アンド・トレードのメリットは、削減目標として設定した排出量に対し排出枠を設けるため、達成される目標が明確なこと。

また、費用対効果を考えた二酸化炭素の削減活動ができることも挙げられる。企業によっては削減活動に費やすコストよりも、排出枠を買い取った方が安くあがるケースも。

逆のケースであっても、各国や企業が、自社努力により削減するのか、排出枠を買い取るのかを選択できることは、二酸化炭素の削減費用最小化につながる。

日本においては、2010年に大規模事業者を中心に導入されたが、世界各国に比べるとまだまだ遅れをとっているのが現状。

すでに排出権取引制度を導入している欧州や米国をお手本に、炭素税に代表される排出権取引制度以外の政策を組み合わせたポリシーミックスによる推進が求められている。

3つの問題点

工場の遠景

Photo by Anton Eprev on Unsplash

キャップ・アンド・トレードの問題点は、カーボン・リーゲージ問題、原単価問題、排出枠設定問題の大きく3つに分けられる。順番にみていこう。

カーボン・リーケージ問題とは、競争が激しい産業の企業が、排出権取引制度が緩い国へ脱出してしまうこと。実際に行われてしまい、二酸化炭素の排出量をかえって増やすことになった事例も出ている。

原単価問題とは、二酸化炭素の削減目標を製品の総生産量で計算するのではなく、1つあたりの製品(原単価)に対して計算していく方法をとる企業が多いこと。

1つあたりの製品に対しての削減目標をクリアしても、大量に製造してしまった場合、総量としては二酸化炭素の排出量は増えてしまう。しかしながら、総生産量と原単価のどちらも選べるようになっているのが現状。

排出枠設定問題とは、各国に割り当てる排出枠の設定が難しいということ。具体的には、排出枠を厳しく設定した場合、国や企業にかなりの削減努力を強いることになり、製品の費用対効果が合わなくなる苦労が発生する。

また、排出枠内に収められる国や企業が少なくなるので、取引をする際の値段も高騰する。反対に排出枠を緩く設定した場合、簡単に削減目標に到達するため、二酸化炭素削減に必要以上の努力をしなかったり、取引する際の値段も暴落する。そうなれば、二酸化炭素の削減努力はせずに、排出枠だけ購入する事態が起こりうる。

キャップ・アンド・トレードの今後の展望

キャップ・アンド・トレードは、削減目標として設定した排出量に対し排出枠を設けるため、達成される目標が明確であり、費用対効果を考えた二酸化炭素の削減活動ができる大変優れた制度。

各国の環境政策を統一するなど、現段階で浮き彫りになっている問題点を一つひとつ解決していけさえすれば、地球温暖化対策への威力を最大限に発揮することになるはず。今後の展開に期待したい。

※掲載している情報は、2020年12月31日時点のものです。

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