「ファンドレイジング(fund-raising)」とは、世界をよくするための資金を集めることだ。この記事では、NPOなどが資金調達の手段として活用するファンドレイジングのさまざまな手法と国内外の成功事例について紹介する。
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ファンドレイジング(Fundraising)とは、直訳で「資金調達」を意味する言葉だ。資金調達といっても、企業が事業に必要な資金を集めるのとは異なる。一般的には、NPOが活動するうえで必要となる資金を集めることをファンドレイジングと呼んでいる。
ここでいうNPOとは、民間の非営利団体のことだ。ファンドレイジングは、特定非営利活動法人だけでなく、学校法人や美術館、劇場、オーケストラなどのアート系の団体やスポーツ団体なども含めた広義のNPOが資金を集めるために行われている。
ファンドレイジングの手法としては、会費の徴収やクラウドファンディング、補助金、助成金の受給などが存在するが、なかでも代表的なのは募金を集めたり寄付を募ったりする方法だ。
コンビニのレジ横にある募金箱にお釣りの小銭を入れてもらうことや、地域の高齢者や障がい者の福祉に使われる赤い羽根共同募金も、ファンドレイジングの一種である。
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単にお金を集めるわけではなく、社会的な課題を提示して共感を得たうえで、善意のお金で課題の解決に向けて協力してもらう。そして、社会をよりよいものにしていくことがファンドレイジングの目的なのだ。
ファンドレイジングは、投資のように金銭的リターンが期待できるものではない。しかし、寄付という行為を通じての社会参加と、自らの善意が社会に役立つ喜びは、利他の精神を満たして幸福感を与えてくれる。いわばファンドレイジングは、精神的なリターンをもたらす投資だといえるだろう。
寄付の文化が定着している欧米に比べ、日本は未だ寄付という文化が根付いていない。
日本ファンドレイジング協会が発行した『寄付白書2011』によると、日本の個人寄付の年間推計総額は4,874億円。個人が日本円に換算して約30兆円の寄付を行っている米国の40分の1に過ぎなかった。
しかし、あるでき事をきっかけに日本人の意識が変わった。
2011年3月の東日本大震災。『寄付白書2012』によると、あの未曾有の大惨事を目の当たりにして、日本人の約8割が震災関連の寄付を行い、2011年の個人寄付推計総額は1兆182億円にものぼった。(※)
それ以降も毎年、さまざまな自然災害に見舞われている日本では「共助」の精神が見直され、寄付文化が少しずつ定着しつつある。
NPOにおける資金調達を専門に行う職業、ファンドレイザーにも注目が集まるようになった。日本ファンドレイジング協会が2011年に認定ファンドレイザーという資格制度を設けたことがきっかけだ。
ファンドレイザーは、資格がないとできない職業ではない。しかし、未経験者が取り組む際に、体系的に学べるような体制がととのったことも、ファンドレイジングの認知拡大に寄与している。
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ファンドレイジングは、主に以下の4つをはじめとした手法で行う。
1.街頭募金や募金箱で寄付を集める都道府県を単位に組織された社会福祉法人、共同募金会が運営する「赤い羽根募金」や、キリスト教系慈善団体「救世軍」の「社会鍋」のように通行人に直接、募金を呼びかけるもの。
2.毎月、寄付(マンスリーサポーター)を集める発展途上国のこどもを救う「ユニセフ(国際連合児童基金)」や「プラン・インターナショナル」のように、クレジットカード決済や銀行の自動引き落としを利用して毎月、募金を集めるもの。
3.オンライン・サイトを通じて寄付を募る「Give One(ギブワン)」や、個人でも参加できる「READYFOR(レディーフォー)」のように、寄付サイトを通じて募金を集めるもの。クラウドファンディングの一種だが、物質的なリターンを行わないケースが多い。
4.FacebookやTwitterなどのSNSで寄付を募るFacebook、Twitter、Instagram、YouTube、LINEなど、さまざまなSNSで団体のアカウントをつくり、それをプラットフォームとして、活動報告しながら寄付のお願いを発信するもの。
ほかにも、遺贈(遺言による寄付)や、書き損じ葉書などの物品寄付がある。またクレジットカードなどのポイントを寄付する、商品の売り上げの一部を寄付するなどのほか、チャリティ・イベントを通じた寄付や私募債を発行する、自治体に補助金や助成金の申請を行うなど、さまざまな資金調達方法が存在する。
どの方法を選ぶとしても、大切なのはターゲットに合わせて、自らの団体にマッチする手法を選ぶことだ。
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ファンドレイジングの先進国である、欧米ではNPOやファンドレイザーによって、ユニークなアイデアあふれるファンドレイジングが行われている。
たとえば米国では、スマホで簡単に寄付ができるアプリが人気を呼んでいる。「uBack(ユーバック)」と呼ばれるアプリは、ユーザーは関心のある社会課題を探し、そこに表示される団体のロゴ一覧から支援したい団体をタップするだけで寄付ができる。
ユーザーが行うのは、金額と支払い方法の入力だけで、SNSでの拡散や税務書類の管理もできる。これなら支援者側のハードルも高くないだろう。
ブロックチェーンのシステムを利用しているファンドレイジングもある。イタリアの「Helperbit(ヘルパービット)」は、お金ではなくビットコインによるリアルタイムでの送金が可能だ。
くわえて寄付が100%支援を必要とする人に届くまで追跡できる画期的なサービスを行っている。寄付がきちんと使われているかわからない、といった問題をクリアして透明性を高めることで、ユーザーの信頼を獲得している。
日本国内で話題となったファンドレイジングとしては、熊本城の修復プロジェクトがある。平成28年熊本地震で大きく傷ついた熊本城再建のためのファンドレイジングで、寄付してくれた人を「一口城主」として認定し、その名前を天守閣に掲げて称える仕かけで20億円を超える寄付を集めた。
ファンドレイジングというと、敷居が高いように感じるかもしれない。しかし、ちょっとしたアイデアひとつで寄付は集まるものだ。
NPOの活動の本質は、それぞれの団体が単独で社会の問題解決に取り組むことではなく、その活動を通じて社会的な課題を人々に知らせて共感してもらい、みんなで社会をより良くしていくことだ。
ファンドレイジングは、そんなNPOの継続的な活動を行うために欠かせない重要な活動といえる。共感の輪をいかに広げていくことができるか、それがファンドレイジングの成否を分けるのかもしれない。
※ News|日本ファンドレイジング協会
https://jfra.jp/news/15862
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