日本と世界の「健康格差」の現状 コロナ禍が浮き彫りにした問題点と対策

手を握る医師

いま日本をはじめ世界中で健康格差が広がっている。格差は経済的なものだけではないのだ。通常時は見えにくかった社会のいびつさが新型コロナウイルス感染症の世界的流行で明らかになりつつある。日本と世界における健康格差の現状と対策について見てみよう。

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2021.01.21

健康格差とは?

健康格差とは、人種や民族、社会的・経済的地位による健康と医療の質の格差のこと。健康格差は、2008年に世界保健機関(WHO)が加盟国に対して健康格差是正の推進を勧告したことに始まる。

これは開発途上国だけのものではない。先進国でも大きな問題となっている。健康は遺伝子や遺伝子や生活習慣だけでなく、所得や学歴などの社会・経済的な状態や雇用形態や業種などの労働環境によって異なる。

日本もWHOの勧告を受けて2012年に厚生労働省が策定した「国民健康づくり運動プラン」に「健康格差の縮小」を明記した。

COVID-19で浮き彫りになった健康格差の現状

人のいない手術室

Photo by Arseny Togulev on Unsplash

健康格差による死亡リスクは、生涯で受ける教育の年数が短い人は長い人と比べて約1.5倍、世帯年収300万円未満など「生活困難」の条件に該当する人はそうでない人より約2倍高いと言われる。(※1)

健康格差は経済状態や教育水準だけでなく、住んでいる地域も要因の一つ。日本に比べて国民の所得格差が大きな国として知られるイギリスやアメリカでは、健康状態の悪い人は、所得格差の大きな地域に住んでいることが多いことがわかっている。日本でも所得格差の大きな都道府県ほど個人が感じる主観的な健康感と幸福感が低い。

2020年に世界的に流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、このような健康格差を浮き彫りにするものとなった。日本では新型コロナの感染拡大に伴ってテレワークや在宅勤務に切り替える企業が増えた。

しかし、テレワークの利用率には大きな差があることがわかる。工場や飲食、運輸、建設など現場で働くことが求められる職種に、低所得の人や非正規社員などの雇用形態の人が比較的多く従事しているためと考えられている。

仕事を休むと生活に困窮してしまうため、感染リスクを避けられないのだ。経済格差や健康格差はこれまでも存在していたものであったが、新型コロナは社会のいびつな構造を浮き彫りにしたと言われている。(※2)

日本国内で広がる健康格差

注射器にセットされた注射針

Photo by Sam Moqadam on Unsplash

日本でも健康格差は広がっている。これまで糖尿病は患者の大半は中高年層とされ、若い世代には無縁の病気と思われてきた。

ところが、2012年に日本国内の糖尿病患者は950万人を突破。30代から40代の現役世代に患者が増え始めている。日本人の13人に1人がかかる国民病の一つとして社会問題化するようになった。(※3)

バブル崩壊後の長引く不況の影響で、国民生活の水準は低下傾向が続いている。健康格差は経済的な要因だけでなく、社会的、教育的な要因も関わっていることが少しずつ明らかになっている。

健康格差の3つの原因と対策

原因1:所得格差

健康格差の主要な原因と言われるのが経済状況だ。所得の低い人ほど健康によくない生活習慣を持つ傾向がある一方で、所得の高い人ほど日常的に運動習慣を持っていたり、早寝起きや野菜や果物を多く摂取するライフスタイルを送ったりしている。

所得の低い層はそうでない人よりも心理的なストレスを抱えているケースも多く、健康に悪い影響を与えていると考えられている。

原因2:社会格差

社会階層の低い人ほど平均寿命が短くなり、疾病リスクが上昇する傾向がある。低い社会階層に所属する人ほど、資産が少なく、住環境や教育に恵まれてない結果として不安定な仕事に就かざるを得ない状況にある。

原因3:仕事のストレス

人は慢性的なストレスにさらされると、さまざまな病気のリスクが高まる。一日の労働時間が11時間に延びると、一日7~8時間働く人と比べて心筋梗塞を起こす危険性は2.4倍に上昇すると言われている。(※4)

対策

海岸線の遊歩道を走る女性

Photo by Filip Mroz on Unsplash

日本政府は健康格差を是正するため、健康日本21(第二次)の中で次のような対策を掲げている(※5)。

・健康寿命の延伸と健康格差の縮小
・主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防
・社会生活を営むために必要な機能の維持および向上
・健康を支え、守るための社会環境の整備
・栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙および歯・口腔の健康に関する生活習慣および社会環境の改善

このような取り組みによって、個人の生活習慣や社会環境の改善を図り、生活習慣病の予防や重症化を予防する。また、ストレスと上手に付き合い、地域や職場のコミュニティーの絆を大切にすることも目指そうとしている。

健康格差は「自己責任」ではない

健康格差は先進国でも大きな問題だ。また、一人でだけではどうしようもない構造的、社会的な問題をはらんでいるため、政治的、社会的な取り組みが必要だ。

そのため、健康格差の問題を解決するには私達個人もこの問題を正しく認識する必要があるだろう。健康格差が生まれる原因と背景を理解し、できることを考えていこう。

※1 第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(1)|内閣府
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h28_kaihatsu/3_01.html
※2 新型コロナウイルスによる健康格差、経済格差の拡大を防げ
https://www.nira.or.jp/outgoing/highlight/entry/n200528_970.html
※3 糖尿病|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html
※4 [22] ストレスと循環器病|国立循環病研究センター 循環器病情報サービス
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph22.html
※5 厚生労働省告示第四百三十号
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf

※掲載している情報は、2021年1月21日時点のものです。

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