地域支援型農業(CSA)とは? そのメリットと生産事例

野菜を手に持つ女性

地域支援型農業(CSA)は、コミュニティが農業を支援する地域連携システムの一種である。近年は欧米で取り組みが行われ、日本でも注目が集まっている。CSAを取り入れるメリットや導入事例について考えていく。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2020.11.30
SOCIETY
学び

イベントや商品の魅力を広げる エシカルインフルエンサーマーケティング

地域支援型農業(CSA)とは?

地域支援型農業(CSA)とは、消費者が生産者に対して購入費用を前払いするシステムである。生産者が消費者と契約を結び、定期的に農作物を提供することになる。農業は利益が不安定になりがちだが、CSAは前払いだ。生産者が運転資金を確保し、農業を継続しやすい一面がある。

前払いによって確実に購入されるため、生産量をコントロールしやすいこともメリットだ。売れ残りや極端な値下げのような危険性が減少する。また、多品目を少量つくることも可能になる。CSAは農業従事者の可能性を広げる意味も持っているのだ。

消費者にとってのメリットは、地域で生産されたばかりの新鮮な野菜を入手できること、農作物生産者との交流が密になることだ。CSAには農業体験プログラムも用意されている。農業体験や子どもの食育に役立つ経験を得ることができるだろう。

また、生産者の顔が見えやすいこともメリットの一つだ。つくり手の顔が見えれば安心感が生まれる。安心感は互いの信用を深める効果がある。農業を通じて地域のつながりが強くなっていくことも期待できるのだ。同時に地域経済活動の活発化へつながる可能性も高い。

地域支援型農業(CSA)の発祥と現在までの歩みとは

農作業をする男性

Photo by Jed Owen on Unsplash

CSAは1986年、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州、ニューハンプシャー州で始められた。発祥のアメリカをはじめ、欧州でもCSAの普及が見られる。欧米ではCSAの啓蒙活はじめ盛んであり、かつ、契約の仲介や認証をサポートする体制も整っている。生産者と消費者がCSAに取り組みやすい環境が、普及を推し進めているのである。

CSAが注目を浴びた理由の一つに、環境問題がある。物流で排出されるCo2を少しでも減らすため、輸送時間が短くて済む地元でつくられた農作物を購入しようという意識が広まったのだ。いわば地産地消である。地産地消の考えはCSAと相性が良く、CSA普及の一助となっている。

現在はNPOや企業などが生産者団体と提携し、耕作放棄地を活用する試みも行われている。人手不足で放棄せざるを得なかった中山間地を再度有効活用できることは、地域経済の活性化にとって大きなプラス効果だ。また、企業のCSR活動、社員教育にもつながり、多方面にメリットをもたらしている。

日本国内における地域支援型農業(CSA)の事例

日本でもCSAを取り入れている地域がある。ここでは2つの事例を取り上げていく。

メノビレッジ長沼のCSA活動

1996年、CSAの第一号として誕生したのは、北海道夕張郡長沼町の「メノビレッジ長沼」だ。約80軒の消費者が会員となり、地域の農業を支えている。生産者たちは数十種類の作物を提供する。

また、田植えや草取り、稲刈りやハロウィンの装飾品づくりなど、農業に関心を持つ消費者が年間を通じて農作業の体験ができる。このような交流によって地域の結びつきが深まり、活性化に貢献している。

農業とともに地域づくりの勉強会も開催し、環境問題や地産地消システムの推進について啓蒙活動を行っている。

鳴子の米プロジェクト(宮城県大崎市)

宮城県大崎市では、地元産の米を住民が買い支えることによって地域活性化に結びつけている。きっかけは山間寒冷地に向く良質米「ゆきむすび」の開発だった。地域ぐるみでCSAに乗り出したのだ。

消費者である地域住民がNPOに代金を前払いし、NPO法人が稲作農家に定額を支給する。稲作農家はゆきむすびを栽培、収穫し、地域住民へ届けるという典型的なCSAのシステムを踏襲している。

このプロジェクトの特徴は、敢えて高い値段での購入が行われていることだ。もちろん消費者である地域住民も納得の上で参加している。そして高く買い支えることによって稲作農家の安定した経営を実現させているのである。

結果として地元でつくられる米が支えられ、安定した生産と地域経済の回転に役立っている。

日本全国へのCSA普及に向けた課題

日本の畑

Photo by Amandine P. on Unsplash

日本においてCSAが普及・定着しているとは言いがたい。定着しない原因として考えられることは、まず消費者もリスクを共有する可能性がある点だ。前払いによって生産者を支えるシステムは、不作の時に手元へ届く農作物が少なくなるリスクも含んでいる。

日本人はリスクの共有に慣れていない。リスク共有の概念が一般化しない限り、もともとCSAの知識を持つ関係者以外が参加することは難しい。

また、欧米ではCSAを支える組織が数多く存在し、活動している。しかし、日本ではまだ数が少なく、国内CSAは充分なサポートを受けられない状態である。CSAの普及・定着のためには、サポート不足が積極的に解決されるべき課題だろう。

農林水産省ではCSAの認知度の向上、生産者と消費者の連携も課題とし、解決に向けた情報発信を行っている。成功事例のPRや国の職員の積極的な派遣などが実施されており、今後の課題解決に向けて期待されるところである。

CSAが実現する地域活性化と人々の結びつき

CSAは農業関係者だけではなく、地域住民の力があって初めて成立する活動だ。リスク共有やサポート不足の課題はあるが、定着すれば地域の活性化につながる可能性が高い。

定着のためには、生産者と消費者が信頼関係を築いて結びつきを強くすることが必要だ。結びつきが強くなり、CSAへの理解が深まれば、「地域の農業を支えよう」という意識が生まれてCSAの定着が期待できるだろう。

※掲載している情報は、2020年11月30日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends