ジュガードとは、ヒンディー語で「革新的な問題解決の方法」という意味。インド特有の創意工夫の精神を示す言葉で、限られたリソースで即席の解決方法を見つけることを指す。近年ビジネスにおいてイノベーションを生む手法として注目されている。ジュガードを定義する原則や事例について紹介する。
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ジュガード(Jugaad)とは、ヒンディー語で「革新的な問題解決の方法」という意味。つまり、限られた資源のなかでもアイデアを働かせて新しいモノを想像し、即席の解決方法を見つけることである。ジュガードはインドに古くから根付く考え方で、英語に訳すとハック(Hack)が近いと言われている。創意工夫の精神を表す言葉として、インドの人々の日常に溶け込んでいる。
昨今、この精神がインドや周辺国における社会問題を解決に導くイノベーションを生み出しているとされている。Appleなどの有名企業もジュガードの考え方を採り入れていたことから話題を呼び、世界中のビジネスパーソンから注目を集めているのだ。社会的に意義ある事業やイノベーションを創造しようと、ジュガードを学ぶイノベーターが増えている。
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ジュガードには、イノベーションを起こすための6つの基本原則が存在する。ジュガードについて記されたビジネス書「JUGAAD INNOVATION」には、次のように記されている。
1. 逆境を利用する(Seek opportunity in adversity)
困難な状況や社会問題をイノベーションのきっかけとして捉え、新たな価値を想像していく。
2. 少ないものでより多くを実現する(Do more with less)資金や資源が限られているなかでも、機転を働かせて解決策を見いだしていく。
3. 柔軟に考え、迅速に行動する(Think and act flexibly)
柔軟なマインドセット行動に移し、既存の枠組みを壊していく。
4. シンプルにする(Keep it simple)
過剰な機能を持たせることなく、シンプルに目的を果たす。
5. 末端層を取り込む(Include the margin)
主流でないターゲット層を考慮し、サービスが行き届いていない末端層の人々をあえて主な顧客とする。
6. 自分の直観に従う(Follow your heart)
型通りのマーケティングリサーチに頼らず、自分の直観を大切にする。
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ジュガードの実践によって成功した事業、サービス、アクションなどを紹介する。
2001年にインドで起こった大地震をきっかけに発明された、電力を必要としない簡易冷蔵庫「ミッティクール」。扉内上段に水を入れると粘土に浸透し、蒸発する気化熱によって中の食材を冷やす仕組み。シンプルに、あるもので生み出すというジュガードの思想が込められた発明である。
インドの風力発電会社スズロン。設立者であるタルシ・タンティ氏は、もとはインドで織物工場を営んでいた。しかし、高価で不安定な電力に悩まされ、工場のために自ら風力タービンを開発。その後、国民の約半数が電気を利用できていなかった社会状況をチャンスと捉え、同社を立ち上げたのだ。
インドの一般の人でも手が届く安価な車「タタ・ナノ」。アルミニウム製エンジンの開発や原材料・構造の見直しによって無駄を減らし、約25万円という低価格を実現させた。製造工程、流通、マーケティング戦略を柔軟に見直しながら、インド市場だけでなくアジアの一部の国でも販売され、上級モデルに至っては欧米市場にも進出している。
アメリカの総合電機メーカーGE(ゼネラル・エレクトリック)のヘルスケア部門は、これまでビジネスの対象とは言えなかったインド農村部向けに、彼らも手に入れられる低価格の携帯型心電計を開発。
インドでは心臓発作による死者が多い一方、広大な農村地帯には病院が少ない。加えて装置を起動させる電気が不足している場合があるため、バッテリーが長時間持続する携帯型の心電図デバイスを開発した。GEはトップダウン型の組織構造にジュガードの精神を組み込み、世界各地に存在する機会にいち早く気づき、対応しているのだ。
「末端層を取り込む」というジュガードの原則は、こtrまで対象から排除されてきたユーザーを巻き込む「インクルーシブデザイン」に通じるものがある。シチズン時計は、インクルーシブデザインの考え方を取り入れた視覚障害者に対応するデザインの腕時計を企画。タイのロッブリー複合視覚障害者学校の在校生や教職員の声を聞き、実用性やデザインの向上が図られた。
持続可能な社会に向けて、世界各国ではさまざまななイノベーションが必要とされている。しかし昨今の先進国では、市場調査や分析が重視され柔軟性に欠けたことや、リソース不足や問題の多様化によって、イノベーションが生み出されにくくなっているという指摘がある。
インドの人々にはジュガードの精神が根付いており、個々人が不自由の中からソリューションを生み出し、社会問題を解決に導くようなイノベーションへと波及している。こうした背景から、いまジュガードが評価されているのだ。
ソリューションは、発想の転換から生まれるとされている。「逆境を利用する」「柔軟に考え、迅速に行動する」というジュガードの精神は、イノベーション手法の選択肢の一つとして、大きな可能性を秘めているのではないだろうか。
組織だけでなく個人レベルにおいても、日々の問題を諦めたり軽視したりせずに、創意工夫しながら取り組んで行きたい。
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