SNSを通じて社会的発言を広める「アームチェア・アドボケイト」 気軽に“いいね”できることの責任とは

アームチェア・アドボケイトとはなにを意味するのか。用語の意味についての解説はもちろんのこと、SNSを取り巻く現状についても説明する。また、自分が関わるときには何を意識したらいいか、どのような点に気を付けるべきかも記述する。

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2020.11.30
SOCIETY
学び

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アームチェア・アボケイドの意味は?

armchair

Photo by Tobi Law on Unsplash

「アームチェア・アドボケイト」とは、肘かけ椅子の英単語「armchair」と、擁護者や支援者という意味の「advocate」をつなぎ合わせた熟語。

意味としては、SNSを用いて自分が共感、または支持したいと思う社会的な発言を“いいね”や“リツイート”“シェア”などで広めていく行為を指す。居心地のよい部屋で低コストに、自分がよいと思う発言や活動について気軽に支援できることが大きなメリットと言えるだろう。

これまで社会的な発言や活動の支援というと、志を共有する者同士が同じ日時に集まってデモ行進をして行動で示さなければならなかった。また、代表者を擁立して選挙に立候補するように促したり、その選挙活動を手伝うことも支援の形の一つだった。

そのため、デモの場所が遠いかったり、金銭面や時間的な余裕がないなどといった物理的な制約が生じる。そのほか、知らない人と一緒に行進するのは目立つし気恥ずかしい。選挙のサポートで出かけるのは面倒だし、時間がもったいない…。などといった、精神的なハードルも高かった。

しかしながら、「アームチェア・アドボケイト」は、TwitterやInstagram、Facebookなどのアプリを立ち上げて、たまたま目にした投稿に共感したら、すぐにでも「いいね」を押すしたり、シェアができる。

場所や時間、言葉の制限がないため、世界に溢れる多種多様な考え方や活動を手軽にサポートできるようになった。 

刹那的な快楽のために“いいね”を押していないか

自分が「いいね」やシェア、リツイートをすることが、社会的な発言を支援につながると思うと気持ちのいいものだ。

だからこそ、気を付けたいところでもある。というのも、シェアやいいねがつまるところ支援が目的というより、自分が気分よくなるためだけの自己満足的な行為にとどまってしまうというリスクもはらんでいるため。

そのような行為に走る者は、怠け者(slacker)と社会運動(activism)をかけ合わせた、「スラックティビズム(slacktivism)」と呼ばれ、軽蔑的に受け取られる傾向があることも覚えておきたい。

アームチェア・アボケイドでできることはなにか

BLM

Photo by Sven Brandsma on Unsplash

2020年は、ことさらに「アームチェア・アドボケイト」がフィーチャーされた1年になった。 

世界中を巻き込んだ「Black Lives Matter (BML)」のうねりもその一例だろう。

もともとは、2013年に米フロリダ州で起きた黒人少年の射殺事件(トレイボン・マーティン射殺事件)で生まれたハッシュタグだった。

だが、その後もアフリカ系アメリカ人が犠牲になる事件が繰り返し起き、そのたびに使われて全米へと広がったという経緯がある。 

そして、2020年5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官の不当な拘束方法によって死亡。この事件をきっかけに、全米を巻き込んだ反人種差別デモへと発展していったのだが、その際に「Black Lives Matter (BML)」は象徴的なスローガンとして掲げられた。

InstagramやTwitterなどでは、6月2日、火曜日に真っ黒な画像とBlackout Tuesdayのハッシュタグが同時多発的に大量ポストされた。SNSが黒一色に塗り固められたようだと騒ぎなったが、この現象は「アームチェア・アボケイド」の最たる例のひとつかもしれない。

このBlack Lives Matterの動きは、人権や差別の問題に対して敏感な欧州諸国へもハッシュタグとともに飛び火。各都市で人権問題に対するデモが行われるなど、バーチャルとリアルの両方が相互に絡み合いながら拡大していった。

これらの動きに多くの著名人も反応し、投稿を寄せている。アリアナ・グランデは、ハッシュタグを付けたポスト。「Black Lives Matter」のプラカードを掲げてデモ行進にも参加し、その様子をInstagramにアップした。

プロテニスプレイヤーの大阪なおみ選手も、自らの思いをTwitterに投稿。また、テニスの4大大会である「全米オープン」でテニスコートに入場するときの、マスク姿でも彼女は広く世界にインパクトを与えた。というのも、試合のたびに毎回別の犠牲になった黒人の名前を印刷したマスクを着用していたからだ。

そして、記者からマスクの意味を尋ねられた際は、「あなたが(マスクのメッセージを)どう思うかが、私には興味がある」と逆に問いかけるという場面も。

これらの懸命で勇気ある行動と、世界トップクラスのテニスの腕前によって、彼女はアメリカの有名雑誌「TIME」が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に、2年連続で選出された。

その毅然とした姿は日本のニュースでも取り上げられたが、賛否がわかれる結果となった。

政治を動かした日本のツイッター・デモ

では、日本はどうだろう。

2020年5月、Twitter上では「検察庁法改正案」成立を見送りにしようとする動きが高まっていた。

そこへ、広告関係の会社に勤めている、素顔は明かしていない笛美さんという女性が「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを投稿。これは瞬く間に、いいねやリツイートによって広まった(※)。

そして、ついにはツイッター・デモのような形となり、Twitterのタイムラインに500万を超えるハッシュタグが大量に投じられる事態に。

これはTwitterの世界トレンド入りを果たしたのは言うまでもなく、名もなき市井の人たちの声が国政を動かすパワーにつながったという点においても世界からも注目を集めた。 

これらの動きに共感し、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんや、女優の小泉今日子さんなどの著名人もハッシュタグをつけて投稿。すると、芸能人は政治的発言を控えるべきといった反対的な意見が起き、炎上する騒ぎとなった。

世界的に見れば、有名人が政治的な発言をすることは決して珍しくはない。国際的人気歌手のテイラー・スウィフトさんは、反トランプの強烈なメッセージを何度も発信し、多くの共感を集めている。 歌手のレディー・ガガさんや、俳優のロバート・デニーロ氏もしかり。枚挙にいとまがない。

気軽に「いいね」ができるよさと怖さを知ろう

政治的な発信と言えば、2020年7月の東京都知事選前にこんなことがあった。ワールドワイドに活躍するロックバンド、ONE OK ROCKのボーカル、taka氏がInstagramで以下のような発信したのだ。「東京のワンオクロッカーよ、選挙に行こう」「無関心は、いつか僕らに未来を奪ってしまう」「だから、調べて、考えて、向き合おう」

Taka氏のフォロワーは約268.3万人で、32万以上の「いいね」がついた。選挙に無関心と言われがちな世代に与えたインパクトは小さくないだろう。

ちなみに、前述の笛美さんのTwitterフォロワーは、2.2万人。大阪なおみ選手は、81.5万人。きゃりーぱみゅぱみゅさんは、520.6万人ものフォロワーを抱える。アリアナ・グランデさんのInstagramフォロワーは2億人と規格外の人気者で、世界屈指のスーパーインフルエンサーともいえる。

これまで無関心だったできごとを、大好きなセレブがつぶやくことで急に身近に感じられたことを経験したことがあるだろう。このように、影響力が大きな人たちが、社会をよくしようと思って発信したことに気軽にアクセスできるのがSNSの強み。

ただし、SNS上のコメントを鵜呑みにしてはいけない。たとえば、史上まれに見る接戦だった米大統領選では、現職のトランプ氏がつぎつぎと根拠のないつぶやきを投稿。米Twitter社からアカウントを凍結されるという事態に。

大国のトップすら、不正確な情報を発信する時代。いま目にしている発信は、事実に基づいているか、偏りすぎていないか、誰かを傷つけるものではないか。正確な情報かどうかを確かめる習慣をつけたいものだ。

いいねやシェアする前に、立ち止まる習慣を

直接的な言葉ではなく、気軽に「いいね」をするだけで、時には大いに誰かを傷つけてしまうこともある。

2020年6月、リアリティ番組「テラスハウス」に出演する女子プロレスラーの木村花さんは、思いなやみ傷ついた果てに自らの命を絶った。この痛ましい結果を引き起こした要因の一つは、無数の「いいね」やリツイートだったといわれている。

深く考えず、面白半分にいいねやリツイートをすることが、誰かの命を奪うこともある。
このいいねを押すことで、自分は加害者にはならないだろうか? 気軽にボタンを押す前に、一度立ち止まり、見えない先にいる誰かを思いやりたいものだ。

爆発的な影響力を秘めた「アームチェア・アボケイド」の可能性

距離や言葉など、さまざまな制限を飛び越えてつながり合えるSNS。

前述の笛美さんの例ように、一般的には知名度のない匿名の誰かであっても、発信したメッセージが共感をえれば、社会を動かすこともありうる。また、自分のなにげないつぶやきやシェアが有名人の目に留まり、世界に広まっていく可能性だってあるだろう。

それこそが、SNSの魅力であり、「アームチェア・アボケイド」の醍醐味。椅子に座りながら「いいね」やシェアをする前に、その真意を確かめることで、誰かを傷つけたり、自分が傷つくことも未然に防げるのではないだろうか。

自分が思う以上に、SNSでの発言は影響力が大きいものだ。それを意識し、見聞きした情報や情報の発信者との適切な距離を保つことで、世によい影響を広められる手法として「アームチェア・アボケイド」は大きな可能性を秘めている。

※掲載している情報は、2020年11月30日時点のものです。

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