社会のあらゆるレベルで根本的な変化を起こす手法のひとつがトランジションデザインだ。「持続可能」というと環境へ意識が向きがちだが、サステナブルな未来には社会、経済、文化など解決すべき問題が数多くある。この世界を読み解く手法のひとつであるトランジションデザインを解説する。
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トランジションデザインとは、持続可能な未来に向かうための新しいデザイン研究と実践の分野で、デザインを主導とした社会移行を提案する考え方のこと。
2012年にデザイン研究を行う米国・カーネギーメロン大学(CMU)のテリーアーウィン教授を中心としたグループが提唱した。トランジションデザインが取り扱うのは、気候変動や生物多様性の喪失、格差の広がりなど、さまざまな要因が複雑に絡み合った厄介な問題。
直線的、単一的な手法で解決できないこうした問題には、社会のあらゆるレベルで根本的な変化を起こす新しい手法が求められている。トランジションデザインには次のような特徴がある。
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人々の価値観や遷移に着目する
技術ではなく人々の価値観の変化や遷移を捉え、未来の価値観を夢想する。解決策そのものを探求するのではなく、その課題の本質に何があるのかをデザインする。
過去・人間が持つ本来の力や精神に着目する
現在や未来だけでなく、過去も見る。取り組む問題の複雑さから、活用する情報の分野もさまざまだ。科学や哲学、心理学、社会科学、人類学などデザイン以外の情報を駆使して、課題とアプローチの方法をより深く追求する。
すぐには役立たないが複雑な問題を解決するために、人間が持つ本来の力や精神・知恵を信じる考え方も重視する。
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現段階では、トランジションデザインの実例はきわめて少ない。しかし、COVID-19の流行以降、これまでの生活様式を見直す動きが世界中で広がっている。
世界で広がる大気汚染対策と都市型生活からのトランジション
COVID-19はさまざまな問題を浮き彫りにした深刻な事態だが、ポジティブな側面がなかったわけではない。経済活動と人の移動が世界的規模で停滞したことで、一時的にとはいえ大気汚染と水質汚染が緩和し、温室効果ガスの排出量が減少したと言われている。
その結果、イタリアではヴェネチア運河に魚や白鳥が戻ってきたり、ミラノの公園でうさぎが飛び回ったりする様子が確認された。
欧州では毎年40万人以上が大気汚染が原因の病気で死亡しているが、ロックダウンによって約1万人以上の死者が回避されたとの報告もある(※1)。中国では5歳未満の子ども4,000人以上の命が救われたと推定された(※2)。
世界各地でこのような事例が報告されたこともあり、いくつかの国では大気汚染対策がCOVID-19の症状悪化を防ぐための有効手段であるという認識が共有されるようになっている。米国、カナダ、ドイツ、などのいくつかの都市ではロックダウンの間に都市型社会からのトランジションを目指す社会実験をした(※3)。
私たちはいま「移行期(transition)」にある。この感染症の流行後に私たちが構築すべき新しい日常は、物理的な距離を保つといった消極的なものにとどまってはならない。
持続可能な社会に向けて、都市型のこれまでの生活からのトランジションであると認識するべきだろう。
※1 https://www.lemonde.fr/planete/article/2020/04/29/en-reduisant-la-pollution-de-l-air-le-confinement-aurait-evite-11-000-deces-en-europe-en-un-mois_6038187_3244.html
※2 https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-8121515/Global-air-pollution-levels-plummet-amid-coronavirus-pandemic.html
※3 https://www.theguardian.com/world/2020/apr/11/world-cities-turn-their-streets-over-to-walkers-and-cyclists
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