感染症や自然災害などの現実世界に存在するさまざまな社会課題に対して、ゲームを通じて親しむシリアスゲームが注目されはじめている。日本ではまだまだ知名度の低いが、世界ではすでに多くのゲームがリリースされている。シリアスゲームと教育現場での実例を紹介する。
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シリアスゲームとは、感染症や自然災害、教育など、現実の世界で起こりうるシリアス(深刻)な問題を、シミュレーションゲームを通じて考えるもの。
日本でシリアスゲームを制作する会社は少なく知名度も低いが、海外では政府が教育現場にシリアスゲームの採用を奨励している。シリアスゲームがもっとも進んでいる国のひとつがオランダだ。
この国は国策としてこの分野のゲームの育成・普及に取り組んでおり、着実にノウハウを蓄積してきた。ゲーム産業成長の黎明期からこのシリアスゲームに注力し、現在もゲーム関連会社の半数がシリアスゲームの開発を専業にしている。
人口1600万人のオランダではゲーム関連教育を行っている大学は30以上、ゲームメーカーは300社ある(※1)。同国ではシリアスゲームのおもしろさや楽しさが、従来の学習に比べて学習意欲や理解の向上につながっているととらえられているのだ。
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ここでは、シリアスゲームの例を5つ紹介する。
国連世界食糧計画(WFP)が制作した食糧援助体験ゲーム。干ばつと内戦に見舞われた「シェイラン」という架空の孤島で数万人の避難民への食糧援助をスムーズに行うというミッションが課せられる。
プレーヤーはWFPの一員となり、食料を調達しながら物流ネットワークを築き、飢餓に苦しんでいる地域に食料を届けていく。ゲームを通してプレーヤーにWFPの活動への理解を深め、飢餓問題への意識も高めてもらうのが目的。
貧困の発生する仕組みをシミュレーションするゲーム。プレイヤーは一家の主として農場経営の意思決定を行う。ゲームは50ドルの資産からスタートし、穀物や家畜を購入して育て、資産運用と家族を養う。
ゲームの中では家族を奪うさまざまな困難も発生する。主がいなくなるとゲームオーバー。貧困連鎖のメカニズムをよく理解できる。
マスク着用のタイミングやソーシャルディスタンスの測り方など、職場でのCOVID-19対策のあり方を学べるゲーム。実際のオフィスでの感染対策を知りたい人におすすめ。
オランダの研究所が2009年にリリースした、パンデミックやインフォデミックのシミュレーションゲーム。アニメーションや音楽がつくり込まれていて、エンターテインメント性もある。
タンパク質の立体構造を予測するゲーム。専門知識のない人でも気軽に楽しめる。研究者が解き明かせなかった立体構造をプレイした一般人が短期間で発見した実績もあり、難病や感染症の治療薬の発見につながる可能性があると考えられている。
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日本ではIBMが開発した「PowerUp」を使って環境教育の分野で研究がされた(※2)。
PowerUpでは、主人公であるプレーヤーが荒廃した架空の惑星を環境破壊から救うために風力発電所や太陽熱発電所などを設計、建設してクリーンエネルギーを創出していく。ゲームのクリア条件は,クリーンエネルギーによる一定の発電量の確保。
シリアスゲームは授業内容に沿って開発されたものではないため、教育現場でゲームを取り入れるには多くの課題がある。しかし、時間や形態を工夫することでゲームを授業に位置づけることは可能である。
ふりかえりの時間を設け、ゲームで学んだことをふりかえった後、知識を定着させるために実際に風力発電のブレード部分を製作させるなどの取り組みを行った。
結果として、児童・生徒の興味や理解を深める効果があったとの報告もされている。児童や生徒の年齢に応じて、風力発電のブレードの大きさや傾き、シャフトの長さなどを試行錯誤させるといったプログラムを組むことも可能だ。ゲームを通じて社会課題への関心を高め、数学、科学、エンジニアリングへの関心を高めることにつながった。
※1https://www.slideshare.net/kishimotoyoshi/ss-62955392
※2https://www.jstage.jst.go.jp/article/konpyutariyoukyouiku/27/0/27_65/_pdf
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