ジェントリフィケーションの意味とは 日本と海外の事例から解決策を考える

道路の手すりに座る男性

ジェントリフィケーションとは、「都市の高級化」といわれる。この記事では、その意味をわかりやすく解説する。日本と海外の事例を参考に、ジェントリフィケーションに隠れた貧困という問題を考える。身近な問題として、私たちにできるジェントリフィケーションの解決策には何があるだろうか。

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2020.10.30
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「ジェントリフィケーション」とは その意味と両面性

ジェントリフィケーション(gentrification)とは、地域に住む人々の階層が上がると同時に地域全体の質が向上することを意味する。「都市の富裕化現象」や「都市の高級化」ともいう。イギリス・ロンドンを中心に確認された現象で、1964年、ルース・グラスという社会学者の『Aspects of change(変化の側面)』という書籍で初めて使われた用語だ。

もともとは、イギリスのインナーシティ(大都市の都心周辺に位置し、住宅・商店・工場などが混在する地域)で労働者階級が住んでいたエリアに中間階級者が住むようになり、家賃が高騰して労働者階級が立ち退きを迫られたできごとを指す言葉だった。その後、地理学や都市工学、社会学など多くの学問で使われるようになり、広く知られるようになった。

一般的には、居住者の階層という概念ではなく、所得の向上に比例して地域の建物が新しくなったり不動産価値が上がったりするケースを示す言葉として使われている。日本では東京都の都心部や湾岸地区などで、再開発により高級マンションや高層ビルに建て替えられた事例がある。

ジェントリフィケーションの影響としては、地域全体の質が上がることによって治安の向上が期待される。人口が減りつつある地方では、再開発によるジェントリフィケーションで再び居住者が増え、活性化につながるという意味もある。

一方、家賃や地代などの上昇により古くから住んでいた人が立ち退きを迫られ居住環境の劣る場所へ転居したり、最悪のケースではホームレスになったしまったり、さまざまな問題点もみられる。そのため、ジェントリフィケーションという言葉は、プラスとマイナスの両方の意味を持つ言葉として使われることが多い。

ジェントリフィケーションはイギリスで生まれたが、その後フランスやアメリカ、日本でも同様の事象が確認されている。最近では、先進国の都市に限らず先進国の郊外や農村エリア、発展途上国の都市でも見られるようになった。ジェントリフィケーションはいま、世界的で普遍的な問題ととらえられている。

ジェントリフィケーションの日本と海外の事例

欧米の一都市の路地

Photo by Micheile Henderson on Unsplash

日本では1980年代から顕著に

日本でもっとも早くジェントリフィケーションが確認されたのは、京都府西陣地区だろう。1980年代から90年代にかけて、マンションが多く建設され新しく住み始める人が増えた。

西陣地区には西陣織で知られる織物産業の工場が多くあり、インナーシティという性格を備えていた。老朽化した織物工場マンションに建て替えられたことが、ジェントリフィケーションの発生原因だとされている。

西陣地区はもともと織物の町としてよいイメージがあったため、若い世代の転居先として高いニーズがあった。そのため工場跡地だけでなく、古い住宅地もマンションを建てるための立ち退きの対象となってしまった。新しい建物が増える半面、歴史ある建造物が取り壊されてしまうことは、ジェントリフィケーションのデメリットといえる。

大阪府西成区のあいりん地区も、ジェントリフィケーションの顕著なエリアとして知られている。あいりん地区は、全国的にみても生活保護率や高齢化率が高かった。

しかし、大阪府が2011年度から「西成特区構想」に着手し、短期から中長期、そして将来にわたる多くの施策を実行している。公共施設の建て替えに加え、地域の清掃活動やイベントの開催、モダンアートの振興事業などにも取り組んでいる。

東京都中央区でも、かつてジェントリフィケーションがみられた。1980年代に投資対象として土地が売買されたことで家賃が上昇し、それまでの居住者が立ち退いてしまったのだ。そのため中央区は、それまで単身者用が多かった共同住宅の一部に、家族用の40平方メートル以上の居室を設けるよう義務付けるなどの対策をとった。

問題が複雑に絡みあう海外の事例

海外では、アメリカ・サンフランシスコのジェントリフィケーションが大きな問題として注目されている。

アメリカでは近年、社会的な格差が広がり、とくにアフリカ系アメリカ人がジェントリフィケーションの影響を強く受けている。大規模な世界的講演会TEDでもスピーチが行われたり映画の題材になったりと、ジェントリフィケーションに対する問題意識も高まっている。

また、ヨーロッパではスペイン・バルセロナやドイツ・ベルリンなどでもジェントリフィケーションがみられる。こうした都市は移民を受け入れてきた経緯があり、多文化共生とジェントリフィケーションの問題が複雑に絡み合っている。

地価の高騰による立ち退きを防ぐために家賃のコントロールをするといった対策を講じているが、根本的な解決にはいたっていない。

ジェントリフィケーションのいまと未来

都市にそびえ立つ摩天楼

Photo by ben o'bro on Unsplash

ジェントリフィケーションという言葉が誕生した当初は、住宅や工場などが混在するインナーシティへの高所得者の流入を意味する用語だった。

しかし、現在では当初とは異なるいろいろな条件でも発生することが報告されており、問題が多様化していることがわかる。都市と地方におけるジェントリフィケーションとでは原因が異なるため、同じ対策では解決できない。

海外では、移民による多文化共生とジェントリフィケーションの問題も顕著だ。それぞれの民族のイデオロギーにも派生する問題であるため、解決が急がれる。単純な家賃のコントロールという施策だけでなく、より効果的で根本的なソリューションが望まれている。

ジェントリフィケーションは、貧困問題とも強く結びついている。ジェントリフィケーションの発生原因を掘り下げていくと、その根底には貧困という根強い課題がある。この問題を解決するには、私たちがもつエシカルな意識も見直す必要があるかもしれない。

※掲載している情報は、2020年10月30日時点のものです。

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