私たちの環境意識の根底に流れるガイア理論とは。いまでは生態学のひとつとされるガイア理論(仮説)だが、発表された当時は批判の的だった。提唱者であるラヴロック博士のメッセージから、気候変動対策へのヒントを読み解く。
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ガイア理論(仮説)とは、地球を自己調節機能をもつひとつの生命体とする説だ。イギリスの科学者ジェームス・ラヴロック博士が、NASAに勤務していた1960年代に唱えた。当時は理解されず批判が多かったが、しだいに賛同者が増え科学誌「Nature」でも評価されるようになった。現在では、生態学のひとつして位置づけられている。
ガイア理論では、地球全体を包みこむ大きな生命の流れがあると考える。これは、現在の私たちの環境意識の根底にも流れる考え方だ。環境問題への向き合い方を大きく変化させたという重要な意味をもつ。ガイア理論の登場によって、部分的な環境対策ではなく、地球のもつ大きな流れに逆らわないことが大切だと考えられるようになった。
提唱者のジェームズ・ラヴロック博士は、1919年生まれのイギリスの科学者だ。ガイア理論で有名だが、ECDとよばれる電子捕獲型検出器の発明者としても知られている。ECDは大気中のガスを測定し、オゾン層の状態などを調べるのに役立っている。
ラヴロック博士は多くの論文を発表し、王立アカデミーやエリザベス女王から表彰されている。2020年、100歳にして新刊『ノヴァセン:〈超知能〉が地球を更新する』を発表した。
Photo by Qingbao Meng on Unsplash
ガイア理論では、地球の構成要素は自己調節機能として進化していくとされている。構成要素には、気温や大気の容積、海水の塩分濃度などが含まれる。
こうした複数の構成要素を地球がバランスさせる様子は、あたかも人体の調整機能のようであり、地球は生命に似ていると主張している。ガイア理論という名称は、ギリシア神話の女神「ガイア」にちなんで名付けられた。
ガイア理論が提唱された当時、地球が生きているという主張は大きな反発を生んだ。多くの生物学者から「合目的論的だ」といった批判を受けた。しかし、ラヴロック博士はこの批判さえもガイア論のブラッシュアップに活用したという。
ガイア理論の意味を理解するには、ラヴロック博士が12人の科学者とつくった美しい絵本『The Earth and I』が最適だろう。
2016年に発行され「地球の解説書」と評される名著だ。たくさんのデータと挿絵でわかりやすく解説され、目でも楽しめる。共同著者には、ピュリッツァー賞を受賞した著名な科学者も名を連ねている。その美しさとわかりやすさを、読者もぜひ一度味わってほしい。
『The Earth and I』では、私たち人間とは何者であるかやどこに向かっているのか、細胞という最小単位から膨張し続ける宇宙にいたるまでの幅広い説明が網羅されている。この本に込められたラヴロック博士の「私たちは日々、膨大なデータに埋もれています。この本の目的は本当の理解を提供することです」というメッセージもかみしめたい。
ラヴロック博士の主張は、環境保護には個人の自覚が重要であるとする「ディープエコロジー」の考え方につながり、環境分野の発展に大きく貢献している。
かつての環境対策は、公害問題といった産業面の対策が主流だった。しかし、ガイア理論の登場で地球環境に対する意識が徐々に変わり、現在のような地球規模での環境活動に発展していったといわれている。
また博士は、地球温暖化は人間の文明にとって大きな影響を及ぼすとも主張している。人間がこれまで築いてきた文明が地球温暖化を生み出し、人間の生活範囲に悪影響を与えているという。
「私たちは人間のニーズと権利だけを考えるのをやめなければなりません。勇気を出して、本当の脅威は、人間によって傷つけられ、いまも私たちと戦争をしている生命体・地球からやってくることに目を向けましょう」これは、熱心な環境主義者であるラヴロック博士が2005年、パリで開かれた国際会議において行ったスピーチだ。
このスピーチには、ガイア理論と環境問題の関係がはっきりとあらわれている。温暖化を引き起こす気候変動は、生きている地球にとって大きな「傷」であり、地球温暖化は私たちにとっての「本当の脅威」であるとされている。
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ガイア理論は、地球が生き物のように自己調整機能をもつとする考え方で、現在の環境意識の高まりに大きな意味をもつ。地球が自浄機能をもつならば、人類の文明による活動の影響は小さいのではないかとする反論も聞こえてきそうだが、地球温暖化は大きな「傷」であることを忘れずにいたい。
私たちがガイア理論から学ぶべきことは、人間も自然の一部であるということではないだろうか。大きな生命体である地球のなかで、ほかの動物たちと異なる特別な存在ではないのだ。こうした意識をもち、環境問題に対して何ができるかをもう一度考えなければならない。
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