緑の建築ともいわれるグリーンビルディングとは、どんな意味を指す言葉なのか。そして、なぜいま求められているのかを正しく知ろう。グリーンビルディングについて触れるうえで避けて通れない認証制度や、国内外でのグリーンビルディングの事例も含め解説する。
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グリーンビルディングとは何を指すのか。直訳すると「緑の建築」であるこのワードを、近年よく見聞きするようになったと感じる人もいるだろう。
グリーンビルディングは、簡単に言えば環境への負荷を削減した建築物のこと。国内では「持続可能な建築」や「環境建築物」のほか、海外では「サステナブルビルディング」という名称で呼ばれることもある。
建築の行程や建てた後の運営において、エネルギーや水の使用を削減したり、敷地内の緑化を勧めるなどして、総合的に環境に配慮する建物のことだ。
環境にやさしいばかりか、デザイン性に富んだスタイリッシュな建築物が多いのも特徴。
都市部のモダンな建物の、側面や屋上、パティオなどで緑が有効的に配されているのを見たことがあるだろう。
いまや環境への配慮は、企業の倫理観やイメージアップに欠かせない要素となっている。
また、エネルギーや水資源の使用が減ればランニングコストを抑えられるのは想像に難くない。グリーンビルディングが盛んになればなるほど、建物の機能性やデザイン美もより磨かれていくだろう。
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近年、世界中でグリーンビルディングへの取り組みが加速している背景には、2015年の「気候変動枠組条約パリ会議(COP21)」で締結された「パリ協定」の存在が大きい。
これまでも、環境問題のなかで主要因として議論されてきた地球温暖化。それに対し「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を2℃以下に抑えることを主目標に掲げ、史上初めて「気候変動枠組条約」に加盟する全加盟196か国が参加を表明した。
この「COP21」では、水資源の確保も大きな課題として共有され、フランスと国連環境計画(UNEP)は共同で、GABC(The Global Alliance for Buildings and Construction) を開催。23カ国のNGO64団体が参加し、グリーンビルディングの推進を確認した。
これらの動きに呼応し、世界各国で「グリーンビルディング認証」制度が活発化。
中国のGBAS、フランスのHQE、イギリスのBREEAM、オーストラリアのNabers、シンガポールのGreen Markなど、認証制度は多種多様だ。
なかでも、アメリカで生まれたLEEDは世界的な認証制度。NPOの米国グリーンビルディング協会が1998年に設立したものだ。認証レベルには、プラチナ、ゴールド、シルバー、サティスファイドの4段階あり、カテゴリーも細かく分けられている。
認証を得るには、多くの専門家の審査を要し、どの国においても一律の条件を適用することから国際的な信用度も高い。
日本では、国土交通省の支援のもと産官学共同プロジェクトとしてCASBEE(建築環境総合性能評価システム)がグリーンビルディングの認証を担っている。
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世界各国で推し進められる、グリーンビルディング。その事例をいくつか見てみよう。まずは、米国ニューヨーク、マンハッタン南端にあるバッテリーパーク地区の住居ビル「ソレイア」。
この建物は、前述のLEEDがニューヨークで最初に認証したビルとして知られる。
雨水を利用した省水設計や、ソーラーシステムによる自家発電機能、ルーフトップガーデンを備えるなどした建物は画期的で、周囲の同クラスの家賃よりも多少割高にもかかわらず、入居希望者が絶えないという。
ニューヨーカーの環境への意識の高さが、「グリーンビルディング」を支える一助にもなっているようだ。
ちなみに、LEEDはアメリカ全土におけるプロジェクト認証数などを集計し、年に1度州別のトップ10を発表している。
2020年1月に公表された、2019年の認証トップはコロラド州で、102のプロジェクトが認証された(※1)。
全米では、1年間で2200以上ものプロジェクトが「グリーンビルディング」認証を受けた。
各国で、グリーンビルディングに対する助成金などの制度も導入されており、さらに「グリーンビルディング」の流れは加速していくだろう。
では、日本のグリーンビルディング事情はどうか。
2015年に、イオンモール幕張新都心や、京都大学・国際科学イノベーション棟、二子玉ライズ・タワーオフィスなどが、LEEDのゴールド認証を受けている。
2019年に、前田建設工業株式会社「ICIラボエクスチェンジ棟」が、日本国内で初のプラチナ認定を受けた。
この数年で、グリーンビルディングへの意識が急速に高まっているのは間違いないようだ。 海外に展開する日本企業の動きを見てみよう。
NTTコミュニケーションズは、香港やマレーシアなどのアジア、カリフォルニアなど北米、イギリスなど、世界各国のデータセンターでLEED認証を受けた。
欧米に比べるとまだまだ数は少ないと言わざるを得ないが、企業の意識も世界情勢とともに確実に変化しているようだ。
よいことづくめに見えるグリーンビルディング。課題はなんだろう。まずは、いくつもの認証制度があり混乱を招きかねないということがあるだろう。日本政策投資銀行の「グリーンビルディング認証」は、GRESBの不動産評価で「評価ダウン」となってしまったという。
理由は、評価と融資のセットで「第三者性が乏しい」ため。背景にESG分野の国際基準化の流れ(RIEF) に逆行する動きも見られるのは、なんとも残念。
これを教訓に認証が形がい化しないよう、制度への注視を怠らずにいたいものだ。
環境配慮型の選択肢は、コストがかかるというイメージはいまなお根強い。
事実、クリーンエネルギー専門のコンサルタント会社CAPITAL Eは、2005年の段階で建築前にかかる費用は、一般的な方法よりも約2%割高だとした。
当然ながら、多くの企業の最高財務責任者(CFO)は、グリーンビルディングをファーストチョイスにしたがならかった。
だが、Green Building Councilの社長兼CEOである、S. Richard Fedrizziによれば、グリーンビルディングは、社員の生産性が平均で2〜16%上昇するという。
また、認証を受けた学校で学んだ児童は、一般的な学校に通う生徒よりテストの点数が2割高いという結果や、病院の入院患者の退院が2.5日短縮されるという報告も。小売店の店主の多くは、グリーンビルディング内の店舗の方が客の滞在時間が長く購入額も多くなるといった実例を挙げた(※2)。
そのため、多くのCFOがグリーンビルディングはコストパフォーマンスもよいと認識を改めた。
環境にやさしい建築は、そこに集う人たちにも快適で、生産性や能率が向上するというのは至極当然のこと。
こうした側面がもっと広く認識されれば、国内でもグリーンビルディングがより積極的に導入されていくのではないだろうか。
※1
Infographic: Top 10 States for LEED in 2019
https://www.usgbc.org/articles/infographic-top-10-states-leed-2019
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