Photo by Nandita Dhindsa
「花粉症が毎年ひどくなっている」「花粉症の人口が増えている?」そんな声は、間違いではないのかもしれない。花粉症と気候変動、地球温暖化の影響についてわかりやすく解説する。

ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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毎年春になるとつらい……。そんな人が増えているのは、実際の数値でも明確だ。日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学学会の調査によると、アレルギー性鼻炎やスギ花粉症の有病率は確実に増えている。アレルギー性鼻炎がある人は、日本人のおよそ2人に1人、花粉症についてはおよそ3人に1人という割合だ(※1)。
| 1998年 | 29.8% |
|---|---|
| 2008年 | 39.4% |
| 2019年 | 49.2% |
| 1998年 | 16.2% |
|---|---|
| 2008年 | 26.5% |
| 2019年 | 38.8% |
なぜ、私たちの鼻や目は年々悲鳴を上げているのか?
日本では、戦後の経済成長の過程で木材の需要が高まり、それに応えてスギやヒノキなどの造林が積極的に行われた。スギは樹齢25〜30年頃にもっとも花粉の生産量が多くなると言われており、日本では樹齢が20年以上のスギ林は全国で429万haにもおよぶと言われる。このように、日本ではスギ花粉の飛散量が多いという事実がある(※2)。
しかし、これだけが花粉症増加の理由ではない。地球環境そのものが花粉を「凶暴化」させているという科学的な事実がある。
そもそも春の花粉の飛散量が多くなる主な要因は、前年夏の次の気象条件3つ。
・日照時間が長い
・気温が高い
・雨が少ない
夏の間に光合成が盛んに行われて、花粉のもととなる雄花の生長が促進される。近年の気候変動による夏の記録的な猛暑は、必然的に翌年の春の飛散量を増加させていることになる。
スギやヒノキの雄花は、冬の一定期間の寒さを経験した後、春に暖かくなることで開花する。年々、冬の寒さが和らぎ、春の訪れが早くなっていることで、花粉の飛散開始時期も早まっている。また、春の気温が安定しないことで、一気に飛びきるはずの花粉がダラダラと放出され続け、飛散終了時期が後ろ倒しになる傾向も指摘されている。
意外に知られていないのが、大気中のCO2濃度と植物の関係だ。CO2は植物の生長に欠かせない存在であるため、大気中のCO2の濃度が上昇すれば、スギは光合成がますます促進されて花粉のもととなる雄花もたくさんつくられる。CO2の濃度が高まる温暖化は、作物にとっては収量の増加が期待できるいい面もあるのだが、花粉の飛散量が増加する一因にもなっている。
気候変動は都市部の気温をさらに押し上げるヒートアイランド現象を加速させている。 上昇気流が発生しやすくなることで、山間部から運ばれてきた花粉が上空に舞い上がり、都市部のアスファルトの上に長時間滞留する。土の地面があれば吸収される花粉も、コンクリートジャングルでは風が吹くたびに「再飛散」を繰り返し、逃げ場のない汚染状態をつくり出している。
気候変動がもたらすのは、花粉量の単なる増加だけではない。他の環境因子と結びつくことで、私たちの体へのダメージが、足し算ではなく「かけ算」で襲いかかってくるリスクがある。
花粉症で鼻がふさがれると、人間は口呼吸を余儀なくされる。口呼吸は鼻呼吸に比べて呼気から失われる水分量が多く、体内の水分バランスを崩しやすくなる。ここに春先の急な気温上昇が加わると、自覚がないまま「隠れ脱水」から夏の熱中症へ至るリスクが高まる可能性がある。
PM2.5とは、大気中にある2.5μm以下の粒子。髪の毛の太さの30分の1ほどと、とても微小であるため、肺の奥深くまで入りこみ呼吸器系へ影響を与えるリスクがある。花粉の飛散が多い日に加え、PM2.5が多い日は、両方のアレルゲンにさらされるリスクがある。
花粉症は個人の体質に関係する部分もあるかもしれない。しかし、それだけではなく、環境問題の結果とも言えるのではないだろうか。いま私たちがとる行動が、数年後や数十年後の春の空気を変えるかもしれない。
環境負荷の低い製品を選ぶ「エシカル消費」は、私たちにできる気候変動対策のひとつ。例えば、製品の廃棄・焼却時に発生する温室効果ガスを抑えるため、修理して長く使える高品質なものや、リサイクル素材の製品を選ぶ。海外や離れた地域から運ばれてくる食材や製品は、輸送時に大量のCO2を排出するため、できるだけ地元の食材や製品を選ぶ。
単に「価格が安い」「便利だから」という基準だけでなく、「環境を壊していないか」「未来の自分を苦しめていないか」を基準に買い物しよう。
花粉そのものよりも、花粉にディーゼル排気微粒子などの大気汚染物質が付着した「汚染花粉」の方が、アレルギー反応を劇的に悪化させることがわかっている。自家用車の利用を控え、公共交通機関や自転車、徒歩にシフトすることは、気候変動対策と花粉症対策につながっている。
また、自転車や徒歩による活動は適度な有酸素運動となり、自律神経を整える効果がある。花粉症の症状は自律神経の乱れによって増幅されるため、日々の移動を運動に変えることは、気候変動対策と体質改善の両立につながると期待できる。
現在、日本政府は「花粉症対策初期急増対策(2023年決定)」に基づき、国家プロジェクトとしてスギ林の削減に乗り出している。2033年度までにスギ人工林を2割減らすべく、計画が進んでいる(※3)。
高機能な防御グッズは生まれているが、花粉症対策はもはやその場しのぎの対症療法では通用しないことがわかるだろう。地球規模の気温上昇やCO2増加という環境変化に対し、私たちはどうするべきか。ここで紹介したような気候変動対策のアクションを地道に続けていき、それを行う人が一人でも増えていくことが必要なのだろう。
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