明治グループは、カカオや乳製品など自然由来の原材料を活かした製品づくりとともに、サステナビリティ活動にも積極的に取り組んでいる。「メイジ・カカオ・サポート」の活動を通じた生産者支援や環境保全の取り組みは、持続可能なチョコレート産業の実現に向けた先進的な事例として注目されている。
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エレミニスト編集部
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産地の農家とともに持続可能なカカオ栽培に関する勉強会を実施している。
明治グループは、明治グループサステナビリティ2026ビジョンにおいて、「こころとからだの健康に貢献」「環境との調和」「豊かな社会づくり」と、これらに共通するテーマとして「持続可能な調達活動」を重要課題として掲げ、取り組んでいる。これらのテーマは、「明治グループの事業は地球環境と深く関わっている」という考えをもとに定められた。
「明治グループは、自然の恵みを受けながら事業を営んでいる企業グループです。そのため、その恩恵を自然に還していくことも重要であると考え、持続可能な地球の未来を目指したサステナビリティ活動を展開しています(山下舞子氏 / コーポレートコミュニケーション部、以下「山下氏」)」。
人だけでなく、社会や地球のすべてが健康なよりよい未来に貢献する明治グループとして、「明治ならではの健康価値」を届けることを目指している。
明治グループの代表的なサステナビリティ活動の一つが、「メイジ・カカオ・サポート(MCS)」だ。2006年に開始したこのプログラムは、カカオ産地への支援を通じて、生産者の生活向上と持続可能なカカオ生産の実現を目指している。2026年度末までに明治サステナブルカカオ豆調達比率100%を目標に掲げていたが、2024年度、すでに前倒しで達成。具体的なプログラムとして、次の3つの取り組みを展開している。
ガーナでは、カカオ農家の生活基盤の向上を目指し、さまざまな支援活動を行っている。たとえば、井戸の寄贈や生産性の高いカカオ苗木の無償配布、森林保全につながる農業推進のための苗木提供などを実施している。また、カカオ栽培に関する技術指導を行い、農家がより安定した収穫を得られるようサポートしている。
エクアドルでは、剪定機や除草機、防護服、日よけ帽子といった農作業に必要な機材を提供し、農業の効率化と安全性向上を支援。メキシコでは、提携農園周辺のコミュニティ支援として、公園整備や学校および周辺住民の通信環境の向上に取り組むなど、各国のニーズに応じたサポートを実施している。
「明治では、こういったカカオ産地支援を実施したエリアからカカオを調達し、チョコレート製品を展開しています。カカオに関わるバリューチェーン自体を持続可能な状態にしていくサステナブルな循環の創出はとても重要なことだと考えています(山下氏)」。
カカオ産業における深刻な問題の一つが児童労働だ。カカオ生産国として第1位、第2位であるコートジボワールとガーナでは、18歳未満の児童労働者が156万人に上るとされ、一部の子どもたちは学校に行けず、長時間労働を強いられたり、危険な環境で働かされているという現状がある。
この問題に対し、明治グループは「児童労働監視改善システム(CLMRS)」を導入し、ガーナのカカオ産地で児童労働の特定と監視、是正、防止に取り組んでいる。
「CLMRSシステムの取り組み開始に際しては、サステナビリティ推進部が中心となり社外パートナーとの協業など、さまざまな検討を経て実施に至っています(山下氏)」。
具体的には、「コミュニティ内での啓発活動」「個別世帯への訪問による状況調査」「特定された危険な児童労働の是正措置の実施」「フォローアップとモニタリング」を実施し、調査員が農家を訪問しながら支援を継続している。
「さまざまな支援活動を実施しているものの、カカオ生産現場における社会課題は一企業単体の活動だけでそう簡単に解決できるものではなく、地道な取り組みの継続が必要です(山下氏)」。
また、農家の貧困や森林減少、児童労働といったカカオ産業の課題解決に向け、JICA(独立行政法人国際協力機構)のSDGsパートナー認定を受けながら、持続可能な開発目標に取り組んでいる。さらに2020年9月にはJICAが2020年1月に設立した「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」に登録。業界団体やNGOなどと連携し、児童労働の撤廃に向けた取り組みを加速・拡大している。
カカオ農園の拡大に伴い、森林伐採による自然環境破壊や生物多様性の損失が深刻化している。こうした課題に対応するため、明治グループは2009年からブラジル・トメアスーのカカオ農家とともに「アグロフォレストリー」の推進に取り組んでいる。
また、ガーナでは2020年よりガーナ政府認定NGO「おはようガーナ基金」と協力し、試験農園の支援を通じて持続可能な栽培方法の研究を進めている。
アグロフォレストリーは、単一作物ではなく複数の農林産物を共生させながら栽培する農法で、以下のようなメリットがある。
・農家の収入源の多様化と安定化
・生物多様性の保全
・土壌流出の防止と水質保全
アグロフォレストリーでつくられたブラジル・トメアスー産カカオ豆を使用したチョコレート。
さらに、明治グループはGPSマッピングによる農園のモニタリングや、森林教育プログラム「クライメートスマート・カカオ・トレーニング」を実施し、農家に森林保全の重要性を伝えている。また、こういった取り組みの他にも、環境負荷の低減に向けた新たなアプローチとして、カカオを活用したアップサイクルにも注力している。
「カカオの最終出口をチョコレートに限らず、服や日用品など多様な形で展開することで、資源の有効活用と今後のカカオ産業の発展につなげることができると考えています(山下氏)」。
明治グループが目指すのは、消費者だけでなく、生産者やその地域の環境まで健やかな状態を目指すこと。その想いを込めたコーポレートCMでは、「人と、社会と、地球を見つめて。明治グループは、チョコレートをつくっていく。そして、すべての健康をつくっていく。」というメッセージを発信している。
CM制作にあたり、「人だけでなく、社会や地球のすべてが健康であるよりよい未来づくりに貢献する」という明治グループの姿勢を表現することに注力。明治グループとして初のコーポレートCMであり、メッセージを言語化するという試みからのスタートとなった。
「今回のCM制作は2022年度から準備を始め、実質約2年の期間をかけて進めてきました。初のコーポレートCMであるため、グループ全体の強みや目指す姿を言語化し、切り口を精査。生活者調査やブランド調査を基に組み立てた上で、各事業会社の経営層や関連部署との意思統一に多くの時間を費やしました。しかし、グループ全体の方向性と各事業の訴求ポイントが必ずしも一致せず、何度も軌道修正を行う必要がありました。それでも、リアルな映像の持つ力は大きく、過酷な現実とその改善に向けたアクションを伝えるためには欠かせない決断だったと感じています。生活者のみなさんに社会課題をより深く理解してもらうためには、現場のリアルな姿を届けることが重要だと考えています(山下氏)」。
CM制作も含め、社内ではカカオ事業本部とサステナビリティ部門の連携が強化され、事業とサステナビリティの融合が進んでいる。
「とくにカカオ事業本部との連携が深まり、サステナビリティと事業の融合を進める明治グループにとって、大きな一歩となりました。しかし、社内全体への理解浸透はまだ道半ばです。次期CMの制作を進めると同時に、社内向けの理解促進をより強化していきたいと考えています(山下氏)」。
今後も、明治グループはカカオをはじめとする原材料のサステナビリティ活動を推進し続ける。私たち消費者も、チョコレートを選ぶ際に、その背景にある生産者や環境への配慮について意識することが、持続可能な未来への第一歩となるだろう。
人も、社会も、地球も健康であるために。
明治グループのサステナビリティへの挑戦は、これからも続いていく。
執筆/藤井由香里 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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