アンペイドワークとは、無報酬労働や無償労働を指す言葉。まだまだ一般的な認知度が低い言葉ではあるが、男女格差や女性差別にもつながる大きな問題であり、世界的にも注視されている。性別を問わずよりよい社会にするために、アンペイドワークが抱える問題点について理解を深めよう。
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アンペイドワークとは、無報酬労働や無償労働、不払い労働などを意味する言葉。いわゆる、「ただ働き」のことだ。
どんなことがアンペイドワークか具体例を出すと、育児や家事、介護などの家事労働や、自営業・農作業などと無償で手伝う家族労働、ボランティアなどがそれに当たる。これらは時間や労力を使い働いているにもかかわらず、対価が支払われることはない。
反対に、経済的な利益を生み出す賃金労働は、ペイドワークと言われる。
アンペイドワークと似た言葉で、シャドウワークという言葉もあるが、厳密に言えば少々意味は異なる。
シャドウワークは、オーストリアの社会学者であるイヴァン・イリイチが提唱した造語。生産活動を維持するために必要不可欠なものだが、金銭の支払いの対象にならない労働のことと定義されている。日本の社会学者である鶴見和子は、シャドウワークを「影法師の仕事」と訳した。
家事や育児に加えて、サラリーマンの通勤時間やサービス残業などもシャドーワークに当たる。また、仕事のために自己啓発に充てる時間や、職場の付き合いで参加しなければならない飲み会なども含まれるという。
アンペイドワークは、近年問題視されることが増えてきた。家事や育児、介護などは社会活動や人間の生活に必要不可欠な労働であるにもかかわらず、対価は支払われず、社会的に評価されることも少ないからだ。
アンペイドワークを担っているのは、主に女性である。専業主婦が多かったひと昔前と比べて、共働きの家庭が増えた現代でも家庭内で家事、育児、介護を主に行なっているのは女性の割合が多い。「男は外で働き、女は家を守る」というような、昔ながらの考えがいまだに根付いているからだと考えられる。
ただ、専業主婦は家事や育児、介護を毎日休みなく行なったとしても、誰からも対価は支払われない。
経済産業省の試算では、主に家事労働を担う専業主婦はおよそ304万円、育児を含めた家事は年間で410万円分の働きであるとしている。しかし、雇用主がいないため実際にその金額が支払われることはなく、日々無償で働いているのだ。
しかも、アンペイドワークは経済学の対象とはならず、GDP(国内総生産)にも含まれない。これでは、女性の働きに価値がないと言われているようなものだ。
「家事・育児は女性が無償で行うもの」とさも当たり前のように考えられてきたが、この考え方が変わらない限り、女性差別はいつまでもなくならないだろう。また、女性の社会進出も阻まれることになる。
実は、アンペイドワークの問題点については1975年に行われた「国際女性年世界会議」ですでに議題に上がっていたが、すぐに状況は変わらなかった。
1995年に北京で行われた第4回世界女性会議で、ようやく「アンペイドワークを貨幣価値に換算して数量化し、GDPのサテライト勘定を作成するように」と各国政府に求めらるまでになったのだ。
そして、この第4回世界女性会議で初めて「ジェンダー」という言葉が使われ、アンペイドワークが女性だけの問題ではなく、男女ともに解決すべき問題として取り上げられた。
日本では、1997年に経済企画庁が『無償労働の貨幣評価についての報告』を発表したところ、アンペイドワークの90%を女性が担っていることや、アンペイドワークのGDPに占める割合が21.6%と異常に低いことが明らかになった。
2010年には、第3次男女共同参画基本計画において、アンペイドワークの問題点や女性の社会進出などについて基本的な方針と具体的施策が取り決められたが、10年経ったいまでも大きな変化が見られないのが現状だ。
2018年に世界経済フォーラムが出したジェンダー格差指数では、148カ国中110位とおよそ先進国とは思えない順位だった。
女性の政界進出や女性管理職の少なさ、男女の賃金格差などにおいても世界的に遅れをとっている。
このジェンダー格差をなくすためにも、アンペイドワークについて理解を深め、社会が一丸となって問題解決に取り組む必要があるだろう。
参考資料
無償労働の貨幣評価について|内閣府
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/satellite/roudou/contents/unpaid_970515.html
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