エイジズムとは、年齢差別を意味する言葉であり、アメリカの老年医学者であるロバート・バトラーによって提唱された。本記事では、エイジズムの意味と差別がどのように起こるのかを看護の現場を例に解説。また肯定的エイジズム、否定的エイジズムの違いなどについてまとめた。
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「エイジズム」とは、年齢による偏見や差別を意味する言葉のこと。年をとることに対してのネガティブな感情とともに用いられるケースが多い。
この言葉は、アメリカ国立老化研究所の初代所長であった、ロバート・バトラーによって1969年に提唱されたもの。「エイジズムとは、年をとっているという理由で高齢者たちを組織的に1つの型にはめ、差別すること」と、バトラーは定義している。
例えば、高齢者が他人の名前を思い出せないときに即座に「もうろくした」と決めつけたり、「その年では難しいのではないか」と年齢によってジャッジしたりするなど、高齢者を否定的に扱うことがエイジズムに当たる。
エイジズムは、世界的に問題視されているレイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)と並ぶ主要な差別問題であり、高齢化が進む日本社会でもしばしば問題となっている。
看護、また介護などの社会福祉の現場においても、高齢者への偏見は一定程度存在するとされている。
例えば、デイサービス事業所のことを「託老所」と呼ぶことがある。これは幼児を預ける託児所になぞらえた言葉だ。利用者の家族や事業所のスタッフも、高齢の利用者に対して「預ける」「預かる」という意味合いの言葉を使うことから、自立した大人としてみなしていないことを連想させる。
また、高齢患者に対し、幼児語で話しかけたり、患者の名前が思い出せないときに「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼びかけたりすることが医療現場ではしばしば見受けられる。
これも高齢者を一人の大人として扱っていないことにより引き起こされる態度だが、医療従事者には、この対応がエイジズムに当たると認識されていないことが多いという。
これらの無意識的なエイジズムに対し、意識的な差別に当たるのが、高齢者に対する虐待だ。暴言や威圧的態度、侮蔑的発言などの心理的虐待のほか、暴力や介護放棄などの身体的虐待が日本でも起こっており、早急に解決しなければならない問題である。
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老年社会学者のアードマン・B・バルモアは、1999年、否定的エイジズムのほかに肯定的エイジズムという概念もあることを、著書『エイジズム(2版)』の中で説いた。
前項のような個人間における差別的な見方に加え、個々の能力で判断されずに一定年齢に達すると自動的に雇用関係が終了する定年制や、一定年齢を越えたら運転免許を返納すべきといった社会制度も「否定的エイジズム」に当てはまる。
一方で、お年寄りは経験が豊富だ、知恵をたくさん持っているなどのポジティブな見方もある。また医療費の無償化制度や、交通機関やテーマパーク、美術館などで導入されているシニアパスのように、年齢を理由に高齢者が優遇される社会制度も存在する。
これらは「肯定的エイジズム」に分類される。日本には敬老の日や、還暦、古希などのお祝いがあり、高齢者を敬う文化が継承されていることから、アメリカ社会に比べると肯定的エイジズムが強いと推測されている。
ただし、人々の抱く高齢者像と実際の高齢者像には乖離があることに加え、肯定的エイジズムであっても一定の問題は存在することを忘れてはならない。
アクティブ・エイジングとは、直訳すると、活発な高齢化という意味。
WHOは、人々が有意義に歳をとるためには、健康な体と、社会への継続的な参加、安全に生活する機会が大事だと定義し、これを実現するためのプロセスを「アクティブ・エイジング」と名付けている。
アクティブ・エイジングの目的は、健康寿命を延ばすだけにとどまらず、精神的な面でも老後の生活の質をあげ、高齢者に社会に参加し続けてもらうことだ。
日本やヨーロッパのように高齢化が進む社会では、労働人口が減少し、労働力が足りなくなることが予想されている。その一方で、高齢化による年金支給額や医療費負担は増えているという、厳しい現実がある。
アクティブ・エイジングの取り組みにより、高齢者に社会に参加してもらう機会をふやすことは、シニア層のもつ知恵や経験を若年層が知るチャンスとなり、シニア層は尊敬をもって扱われることが増える。さらには、社会参加は健康寿命を延ばすことにもなる。
介護や看護を必要としない高齢者が増えることは医療費の削減につながり、また高齢者自身にとっては自立した大人として、最後まで人生を楽しむことにもつながるのだ。
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今後ますます加速化する高齢化社会。
エイジズムとは、肯定的、否定的見方に関わらず、高齢者を枠に当てはめ、ステレオタイプ化しようとする差別的な行為である。
エイジズムという差別をなくしていくためには、固定観念にあてはめて考えるのではなく、関心を持ち、相手をよく知ることが肝要ではないだろうか。
※1
エイジズムと社会福祉実践 - 専門職の高齢者観と実践への影響 -
https://www.u-bunkyo.ac.jp/center/library/image/kyukiyo7_toba.pdf
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