古代から伝わる「メメント・モリ」とは 意味や芸術との関わりを解説

お墓に花が備えられているイメージ

Photo by Caroline Attwood

「メメント・モリ」とは、「死を忘れるな」という意味を表すラテン語。古くからさまざまな解釈をされながらも、現代まで伝わってきた言葉だ。本記事では、メメント・モリの起源や芸術との関わり、さらに現在注目されているウェルビーイング領域での解釈について紹介していく。

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2024.04.26
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メメント・モリとは

辞書のイメージ

Photo by Aaron Burden on Unsplash

メメント・モリ(Memento Mori)とは、「死を忘れるな」という意味を表すラテン語。「メメント(Memento)」は「記憶する」の命令形、「モリ(Mori)」は英語でいう「モータル(mortal)」のことで、「死ぬべき運命」を意味している。

現代では、「自分がいつか必ず死ぬことを忘れてはいけない」という意味で用いられることが多く、古代ローマに始まり現在にいたるまで、さまざまな解釈をされながら、思想や宗教、芸術分野などに影響を与えてきた。

メメント・モリの起源

メメント・モリの起源は、古代ローマ時代にまで遡る。当時、戦いに勝利した将軍が、凱旋式のパレードを行う際「メメント・モリ」と使用人にいわせていたとされる。

これは「今日は戦いに勝利しても、明日はどうなるかわからない」という戒めとして用いられており、絶頂に酔いしれそうになる将軍に、「死」を思い起こさせる目的があったといわれている。

メメント・モリと芸術との関わり

骸骨などのイメージ

Photo by Jen Theodore on Unsplash

古代ローマ時代には警句として使われていたメメント・モリだが、実は芸術との関わりも深い。古代ローマ時代から現代までの、芸術との関わりを見ていこう。

キリスト教の広まりとともに西洋美術の主題へ

古代ローマ時代を起源とするメメント・モリは、その後、キリスト教でも道徳的意味合いで利用されるようになった。キリスト教の影響力が強まるにつれてヨーロッパ中に伝わり、キリスト教美術の主題としても多く用いられてきた。

14世紀中頃ペストをきっかけに流行

メメント・モリが大々的に扱われるようになったのは、14世紀〜15世紀頃といわれている。14世紀中頃のヨーロッパでは、ペスト(黒死病)が爆発的に流行。推計5,000万人もの命が奪われた(※1)。さらに百年戦争もあり、数え切れないほどな人がこの時代に亡くなっている。

そのような時代背景もあり、メメント・モリを題材とした芸術作品のなかでも大流行したのが、「死の舞踏」というテーマの絵画や彫刻であった。

「死の舞踏」では、人々が恐怖に怯えながら骸骨と踊っている様子が描かれている。生きている間は、王様や農民など身分の差や貧富の差があるが、最後にはみんな必ず死んでしまうという、死の普遍性を表現しているのだ。

変化しながら伝わり続けるメメント・モリ

「死の舞踏」は、その後「死の勝利」というコンセプトに変わっていく。「死の舞踏」では骸骨と踊っていたのに対して、「死の勝利」では骸骨が襲ってきて勝利する様子が描かれている。『農民の踊り』でも知られる16世紀のフランドル画家・ブリューゲルも「死の勝利」をテーマに作品を描いている(※2)。

メメント・モリは、17世紀初頭のバロック芸術でも主題として多く用いられた。これまでは、“死”を表すモチーフとして骸骨が主に使われてきたが、この時代から散りゆく花や砂時計などの抽象的なイメージも用いられるようになった。

メメント・モリとウェルビーイング

幸せそうな女性の後ろ姿のイメージ

Photo by Morgan Sessions on Unsplash

芸術や思想において何世紀にも渡り影響を与えてきたメメント・モリだが、現代ではウェルビーイングの領域において注目が集まっている。

ウェルビーイングとは、「個人や社会のよい状態」のことを指す(※3)。「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」の2種類があるが、メメント・モリは、一人ひとりが自分自身で感じる認識や感覚によって見えてくる「主観的ウェルビーイング」に通ずるところがあるとされ、「必ずやってくる死を意識することで、いまこの瞬間を大切に生きることができる」という意味で捉えられている。

また、故スティーブ・ジョブズ氏が2005年の米スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチも、ウェルビーイング領域でのメメント・モリの解釈において重要とされている(※4)。

ジョブズ氏の生い立ちや闘病生活に触れながら、人生観について話しているこのスピーチは、大きく分けて3つのテーマで構成されている。1つ目が「点と点をつなげることについて」、2つ目が「愛と敗北について」、そして3つ目が「死について」だ。

3つ目のテーマ「死について」の中で、ジョブズ氏は次のように述べている。

自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。

「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて - 日本経済新聞

さらにその後、自身が癌と診断され余命宣告された経験について触れながら、次のようにも述べている。

あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。

「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 米スタンフォード大卒業式(2005年6月)にて - 日本経済新聞

このジョブズ氏のスピーチからもわかるように、「死は必ず訪れる避けることのできないものであり、だからこそいまこの瞬間を大切に生きることが重要」という、メメント・モリの解釈は、「人生への幸福感や満足感」「生活への自己評価」「うれしい、楽しいなどの感情」といった主観的ウェルビーイングを測る指標にもつながっているのだ。

いまを大切に生きるきっかけとなるメメント・モリ

「死を忘れるな」という意味だけを聞くと、少し恐怖を感じるかもしれない。しかし、本記事で紹介したように、実際には「死」を意識することで「生」について改めて考えるきっかけとなる、ポジティブな言葉でもあるのだ。

その昔、メメント・モリをテーマにした芸術作品が流行したのには、多くの人が亡くなったペストが背景のひとつにあった。時代は違うが、我々も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経験し、死や人生について改めて考えた人も多いだろう。度重なる自然災害や世界各地で起きている紛争のニュースは、私たちに人の死を身近に感じさせる。いま一度メメント・モリを意識して生活することで、よりいまを大切にできると同時に、悔いのない人生を送ることにもつながっていくはずだ。

※掲載している情報は、2024年4月26日時点のものです。

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