世界で蔓延する違法薬物フェンタニル 日本への影響は?現状や世界の動向を解説

さまざまな種類のカラフルな薬

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コロナ禍の陰で、薬物の過剰摂取が急増している。なかでも、違法薬物「フェンタニル」による被害が深刻。アメリカを中心に蔓延し、社会問題となっている。日本は危機にこそ陥っていないものの、決して他人事ではない状況だ。本記事では、フェンタニルに関する日本の現状や世界の動きについて解説する。

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2024.04.19
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フェンタニルとは?

医療用の貼付剤

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違法薬物としてよく知られているものに大麻や覚醒剤があるが、近年は、脳のオピオイド受容体に作用するオピオイド系の化合物が増加傾向だ。その一種が「フェンタニル」。日本では医療用麻薬として指定されている。

合成麻薬であるフェンタニルは、1960年にベルギーの化学者であるポール・ヤンセン博士によって、麻酔用鎮痛剤として合成された。(※1)日本では貼付剤などに用いられており、がん患者の緩和医療に必要不可欠な医薬品である。有名な麻薬性鎮痛薬に「モルヒネ」があるが、フェンタニルの鎮痛作用はモルヒネの80〜100倍ともいわれ、その分毒性も強い。(※2)依存性や危険性が高いことから適切な使用が求められており、違法薬物として市場に出回ると非常に危険だ。

フェンタニルの代表的な作用には、鎮痛や多幸感がある。鎮静状態に陥り、無気力になる側面から、別名「ゾンビ麻薬」とも呼ばれている。過剰摂取で呼吸抑制や昏睡を引き起こし、極少量で死に至る。

世界で蔓延するフェンタニルの現状

白い粉末でつくられたスカル

Photo by Colin Davis on Unsplash

いま、フェンタニルの不正使用が急増し、世界的な問題となっている。「史上最悪」の状態をどう打破していくか、一刻を争う課題として対応が急がれる。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「世界薬物報告」によると、2021年の薬物使用は2億9600万人にのぼった。この10年で23%増加し、近年、薬物使用は増加傾向にある。なかでもフェンタニルをはじめとした合成化合物が爆発的に普及。深刻な状況を招いている。(※3)

フェンタニルの乱用は、アメリカやヨーロッパを中心に広がっている。中国から供給される化学物質を原料に、メキシコの麻薬組織が加工し、アメリカへ密輸するのが主なルート。アメリカでは多数の死者が出ており、社会問題化するほど最悪の状況に陥っている。鎮痛薬として偽造されるケースが多く、さまざまな薬物に混入されるため、検問所を通過する場合も多々あると考えられている。

2016年4月には、アメリカの歌手であるプリンスさんがフェンタニルの過剰摂取によって亡くなっている。2017年10月にはロック歌手のトム・ペティさん、2023年7月には俳優のロバート・デ・ニーロさんの孫であるレアンドロ・デ・ニーロ・ロドリゲスさんが、フェンタニルを含む薬物の事故で命を落とした。

アメリカでは大統領選の争点にも

アメリカの国旗を掲げて歩く人々

Photo by Jason Leung on Unsplash

米国疾病管理予防センター(CDC)によると、2021年に薬物の過剰摂取で死亡した人は、10万7000人以上であり、前年比約15%増。(※4)この内、7割以上がフェンタニルを含むオピオイドによる死亡とされている。(※5)また、2019年11月から2023年10月に、フェンタニルを含む合成オピオイドの過剰摂取で死亡した人は約27万人。(※6)若年層から現役世代まで、幅広い世代で、フェンタニルなどの過剰摂取が死因の1位になっていることからも、死亡者が爆発的に増えていることがわかるだろう。(※7)

2017年には、トランプ前大統領が「公衆衛生上の非常事態」を宣言。違法薬物の流入を防ぐためとしてメキシコとの国境に壁を建設した。2021年に就任したバイデン大統領は、フェンタニルの密輸を阻止すべく、検出技術の向上に取り組んでいるが、収束の兆しは見えていない。

深刻なフェンタニル危機に直面しているアメリカでは、多くの国民がフェンタニルへの対応に関心を寄せている。2024年11月には大統領選本選が行われるが、ブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルトが行った調査では、選挙での争点としてフェンタニル誤用問題が「非常に重要」もしくは「ある程度重要」と答えた人の割合は、激戦州7州では80%に上った。(※6)

バイデン、トランプ両者がフェンタニル関連の政策を打ち出しており、争点のひとつになっている。バイデン大統領は、引き続き、密売の取り締まりや各国との連携を強化する方針。一方で、トランプ前大統領は、軍隊の活用を公約に掲げており、現政権とは異なるアプローチでフェンタニル危機に立ち向かう姿勢だ。

日本におけるフェンタニル被害

日本では、2013年頃から「脱法ドラッグ」問題が顕在化した。厚生労働省の取り締まりの甲斐もあり、2015年7月には、販売店舗がゼロになったと発表されていた。しかし、2023年には危険ドラッグの販売店が約300店確認され、再び監視が強化されている。(※8)

2023年2月には、日本でフェンタニルに関する逮捕者が出た。フェンタニルの薬剤シールを交際相手の男性に複数枚貼り付け、死亡させたとして、無職の女性が傷害致死と麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたのだ。司法解剖の結果、死亡男性からは過剰摂取が疑われる量のフェンタニルが検出されている。(※9)

現状、日本はフェンタニル危機にこそ陥っていないものの、現に、不正使用による問題が発生している。世界でこれだけ蔓延するなか、いつ危機が訪れてもおかしくない状況だ。

フェンタニル規制に向けた各国の動き

国境に掲げられた注意書き

Photo by Greg Bulla on Unsplash

なかなか改善に向かわないフェンタニル危機に終止符を打つべく、各国が対策を強化している。以下で具体的に紹介する。

アメリカと中国が作業部会を設置

アメリカ政府は、2023年9月に、フェンタニルをはじめとする薬物の過剰摂取対策として、過去最大規模の4億5000万ドル(約656億円)の資金を投じると発表し、これまでも取り締まりの強化や予防に当たってきた。(※10)

11月には、米中首脳会談を開き、アメリカと中国が協力して対策に当たることで合意。2024年1月には、フェンタニル対策の作業部会の初会合が開催された。密売組織への制裁や化学企業への取り締まりの強化などを行い、両国間で対話を続けていく方針だ。

アメリカによるメキシコの密輸関係者への制裁

2023年12月、アメリカのイエレン財務長官は、フェンタニルの密売に関わったとして、メキシコに拠点を置く複数の企業や個人に制裁を科したと発表した。メキシコに拠点を置く密売組織「ベルトラン・レイバ」は、世界でもっとも強力といわれる麻薬密売組織で、アメリカへ大量のフェンタニルやコカインを供給しているとされる。今回の制裁対象者は、同組織とつながりがあるとされた。米国内における資産の凍結が行われ、米企業との取引が禁止された。(※11)

さまざまな予防の対策も

アメリカは、規制と同時に予防にも力を入れている。2022年11月には、米食品医薬品局(FDA)が、フェンタニルを含むオピオイドの作用を一時的に停止させる効果が期待される「ナロキソン」を処方薬から市販薬に変更する方針を発表した。フェンタニルの蔓延を背景とした決定だ。(※12)

また、オピオイドの過剰摂取による死亡を防ぐために、ナロキソン配布プログラム(OEND)が実施されている。刑務所や公共施設にナロキソンの自動販売機を設置する取り組みも行われており、予防薬へアクセスしやすい環境を整えている。(※13)

さらに、フェンタニルの過剰摂取を防ぐためのワクチンの開発も進行中。(※14)フェンタニル危機に立ち向かうべく、さまざまな角度から対策が進められている。

深刻なフェンタニル危機 日本も決して他人事ではない

アメリカで社会問題となっているフェンタニルの乱用だが、日本ではまださほど知名度は高くない。しかし、違法薬物の販売店が増加傾向にあり、インターネットやSNSでやり取りがされる時代、知らず知らずのうちに摂取してしまう可能性はゼロではない。

フェンタニルを含め、薬物乱用の現状を改めて把握し、危険性を認識することが重要だ。知らない薬に安易に手を出さない、薬は適切に使用するなど、個人の意識も大切。危機に陥る前に、身の回りの危険を未然に防ぐことが求められる。

※掲載している情報は、2024年4月19日時点のものです。

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