先日都内でJPSA(一般社団法人 日本プロサーフィン連盟)主催の「ReWave Meet up 2024」が開催された。さまざまな分野からゲストを招いた3つのトークセッションや、海洋ごみ学習カードゲーム、ワークショップなど、イベントのレポートをお届けする。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
「藻」から化粧品づくりに挑むサキュレアクト ELEMINISTからアンバサダー10名が就任
都内でJPSA(一般社団法人 日本プロサーフィン連盟)主催の「ReWave Meet up 2024」が開催された。今回のテーマは「楽しむ気持ちが社会を変える。みんなで考えよう海洋ごみ問題」。さまざまな分野からゲストを招き、スポーツとサステナビリティ、海洋ごみ問題の現状と未来などをテーマに行われるトークセッションをはじめ、海洋ごみ学習カードゲーム「Recycle Master(リサイクルマスター)」、海洋環境保全について意見を交わすワークショップが行われた。イベントには、海洋ごみ問題に関心の高い企業や自治体、NPO、アスリート、生活者が参加した。
一般社団法人 日本プロサーフィン連盟理事長の細川哲夫氏、モデル・タレントのRIKACO氏、プロサーファーの善家尚史氏らによるトークセッションが行われた。ファシリテーターはELEMINIST編集部の後藤未央氏。「メディア視点で見るスポーツとサステナビリティ」をテーマに、それぞれの立場から意見が交わされた。
サーフィンは、自然と密接に関わるスポーツ。自然のパワーをダイレクトに感じ、地域ごとの自然豊かな風景を海から堪能できるのも大きな魅力だ。その一方で、日々海に入っていると、年々ビーチが狭くなってきている現状や海洋ごみ問題など、地球環境の変化を感じることが多いという。このように、スポーツを行う場所の環境問題は、世界中で話題となっている。
近年サーフィン人口が増加傾向にある中で、海洋ごみや環境問題の現状を伝えるべく、細川氏や善家氏はサーフィンを通じた海洋ごみ問題への取り組みやポジティブなメッセージを発信している。
細川哲夫氏。一般社団法人 日本プロサーフィン連盟理事長。40年以上のサーフィン経験があり、自身もロングボードプロ。「サーフィンから社会を変える」という想いから、2021年に海洋環境保全プロジェクト”ReWave”を設立。
細川氏「サーファーたちは、海から上がる際にごみを見つけたら拾う“ワンハンドクリーン”を日々実践しています。これらのアクションが多くの人に広がりつつあり、サーフポイントではごみがあまり落ちていないことが多いですね」
JPSAが開催する年間20以上の試合では、ビーチクリーンを実施。大会中時にはウォーターサーバーを設置し、選手全員にタンブラーを配布しているほか、ReWaveとして小学生向けの海洋教育学習プログラムの提供を行っている。
善家尚史氏。高校生より、地元の湘南・鵠沼を中心にアマチュアのサーファーとして活動を開始。2005年、社団法人日本プロサーフィン連盟主催のプロアマ最終戦にて準々決勝に進出したことを機に、プロサーファーに転向。現在は、コンテストや雑誌、モデルなど多岐に渡り活躍中。
善家氏「海に入った後は、ルーティンとして必ずワンハンドビーチクリーンを行っています。地元やよく訪れる場所でビーチクリーンをすることは、僕にとって海への恩返しなんです。この姿に一人でも多くの人が共感し、同じように行動に移す人が増える循環が生まれてほしいですね」
現在、海洋ごみ問題が改めて重要視されている。現在、世界では年間800万トンのプラスチックが海に流出しており、2050年には海中のプラスチック量が魚を超えると予想されている。また、自然や体内で分解されないプラスチックが海に流出することによって、海の生態系が崩れるリスクも指摘されている。そして驚くべきことに、海洋ごみの約8割は家庭から発生している。ビーチクリーンでは、卵のパッケージや入浴剤のパッケージなど、家庭から発生したごみが拾われているように、海洋ごみは私たちの生活に大きく関係しているのだ。
RIKACO氏。数々の人気雑誌でキャリアをスタートさせ、ファッションアイコンとして圧倒的支持を集め、その後タレントとして活躍。2020年には自身のライフスタイルブランド“LOVE GIVES LOVE”を立ち上げ、よりよい社会と自然環境を保ち続けることを目指し取り組んでいる。
これらの課題解決に向けた、環境を意識したライフスタイルの実践方法は多岐にわたる。RIKACO氏は、SNSや自身のライフスタイルブランド「LOVE GIVES LOVE」を通じて環境問題への啓蒙を行っている。
RIKACO氏「日常生活でできることはたくさんあると思います。例えば、家庭内でのごみをなるべく出さないこと、生ごみはコンポストにすること、家庭の水道から石油を流さないこと、使い捨てのプラスチックを減らすことなどです。小さなことでも工夫しながら継続することが大切。その積み重ねが、何かにつながっていくと思っています」
最後に、環境へのアクションを行う上で大切なこと、そして持続させることの重要性について、それぞれの視点から意見が述べられた。
後藤未央氏。出版社にて月刊誌・ムックに携わった後、広告制作会社でファッションブランドのシーズンカタログ、百貨店、リテール、オーガニック野菜などの食品宅配カタログの編集ディレクターを担当。現在は『ELEMINIST』で主に編集企画や広告企画を担当。
後藤氏「サステナブルなアクションを続けるためには、楽しむことが大切だと思います。無理に我慢するのではなく、自ら楽しんで続けられるようになることが重要ですね」
善家氏「日々の習慣として行えば、大きな成果につながります。だからこそ、僕はビーチクリーンを継続しています。小さな一歩でも、継続することが重要です」
細川氏「次の世代に環境問題や大切なことを伝え、考えてもらうことが重要だと考えています。次の世代がまた次の世代に伝えていくことで、自らアクションを起こすことが当たり前になる社会になっていくのではないでしょうか」
RIKACO氏「私はここ数年、セルフラブをテーマに生きています。自分を愛さなければ、人や地球への思いやりや恩返しという気持ちが生まれることは難しいと思うんです。だから、自分を愛すことを忘れないでください」
地球環境へのアクションを広げていくためには、その学びを次世代へと繋げ、楽しみながら学ぶことが大切だ。ReWaveでは、「Recycle Master(リサイクルマスター)」というカードゲームを通じて海の資源やリサイクルの仕組みを学ぶといった、“楽しい”から始まる学習体験を提供している。
今回は、「“楽しい”からはじまる海洋環境学習 -ReWave Case Study-」をテーマに、ReWaveの柴切五輝氏と茅ヶ崎市役所 環境部資源循環課 主事の八幡悠平氏によるトークセッションが設けられた。
柴切 五輝氏。2015年より株式会社博報堂DYスポーツマーケティングにて勤務。プロアスリートのマネジメントや世界レベルで活躍するアスリートのスポンサーセールスを長年経験。JPSA海洋環境保全プロジェクトReWaveの立ち上げに携わり、現在もプロジェクト推進を担当している。
柴切氏は、「各地で行われているビーチクリーンやマイボトルの活動は続けていくべきことである一方で、それらは海洋ごみ問題の根本的な解決にはならない」と述べた。ReWaveでは、海洋環境問題の根本的な解決のためには正しい知識をつけることが重要だという気づきから、教育に着目。
マイクロプラスチック問題について学ぶと、生態系の死などショッキングな情報を目の当たりにすることが多い。それらを知ることはもちろん大切だが、まずは学ぶ意欲を引き出す入り口として、正しい知識をつけながらも、「ごみって面白い」「地球によい暮らしをしたい」と思えるツールとして、海洋ごみ問題学習カードゲーム『Recycle Master』の開発に至った。
海洋ごみ問題学習カードゲーム『Recycle Master』。
ReWaveと茅ヶ崎市は海洋環境学習に関する連携協定を結んでおり、市内全域の小学校向けに「Recycle Master」を活用した教育プログラムを展開している。
茅ヶ崎市は、2020年に「世界ベストスモールシティ25」で日本で唯一ランクインした、自然豊かなまちだ。そんな茅ヶ崎市内の学校では、ごみ処理の流れを学ぶ機会を提供するなど、環境問題について学びを深める機会を設けている。また、市民の人々にごみ処理問題や課題について話す機会を設けたり、団体とともに市内でビーチクリーンのイベントを行うなど、地域保全・環境保全に対する取り組みを積極的に行っている。
これまで茅ヶ崎市が行ってきた環境教育や環境学習において、楽しみながら学習できる「Recycle Master」は新しい試みだったと八幡氏は語る。
八幡悠平氏。茅ヶ崎市役所 環境部資源循環課 主事。学生時代に始めたサーフィンをきっかけに、地元茅ヶ崎市に貢献したいという想いを抱き、新卒で茅ヶ崎市役所に入庁。ごみの減量化・資源化施策を推進する環境部資源循環課に配属後、ごみ有料化の導入や環境学習事業の拡大に携わる。
八幡氏「茅ヶ崎市内の小学校では、『Recycle Master』を行った後、近くのビーチでビーチクリーンを行いました。どういったプラスチックや海洋ごみが落ちているのかを、子どもたちと一つひとつ見ながら授業をさせていただきました。海洋ごみ問題は私たちの問題であることを、自分ごととして学べるこのような教育学習を市内全校で実施していきたいと考えています」
柴切氏「現状の課題を楽しく学んだ上で、実際にビーチでその実状を自分の目で見て体験することは、すごく大事ですね。イベントを通じて、子どもたちが楽しんで取り組めるゲームだからこそ、自然と子どもたちの意識が変わっていくことを感じましたね」
“楽しい”という感覚は、子どもだけでなく大人にも影響する。「Recycle Master」のワークショップに参加した親子からは、「プラスチックの種類の多さに驚いた」、「リサイクルの細かさに驚いた」という声が多く寄せられ、大人も楽しんで参加していたという。
気軽に楽しく学べる機会は、子どもだけでなく大人も環境問題について学ぶきっかけとなる。そして、先生や生徒、家族など、それぞれのコミュニティでの会話のきっかけとなる。ともに楽しく学ぶことが多くの人に気づきを与え、取り組みに参加するきっかけとなり、海洋ごみ問題の根本的な解決につながっていくだろう。
寺井正幸氏。ごみの学校運営代表。2013年に株式会社浜田に入社し、サーキュラーエコノミー共創推進室を立ち上げる。、自治体や企業と協力してサーキュラーエコノミーの実現に向けた実証を実施。その後、「株式会社ごみの学校」を立ち上げ、2年で合計4000名にごみに関する講座を実施。
トークセッションの最後には、ごみの学校 運営代表の寺井正幸氏による、「海洋ごみ問題の現状と未来について」考える機会が設けられた。
海洋ごみの発生原因は多岐にわたるが、国内の街からの流出や近隣諸国からの流入が主な原因だ。漂着したごみは海岸だけでなく、海底や海洋流にも存在している。とくにプラスチックは海洋ごみの主要な構成要素であるが、汚れが付いたものや混合素材などはリサイクルが難しく、自然や海洋中での分解が困難な素材であることが課題となっている。
また、海洋ごみの約7〜8割が焼却や埋め立てられており、品質が劣化したプラスチックはリサイクルが困難なため、海外への輸出が一つの選択肢となり、全体の12%を占めている。しかし、海外への輸出は、途上国において不適切な処理や管理が行われる可能性がある。
「途上国に限らず、国内でもプラスチックを循環させる仕組みが整っていないのが現状だ」と寺井氏は述べた。海洋ごみ問題では、不法投棄や大量廃棄、プラスチック問題が解決策なしに課題だけが大きくなる一方だ。
寺井氏は最後に、「課題に対する現在の取り組みを知ること、正しい理解をすることは、課題解決に向けて必要です。さまざまな技術や知識を持った人々とともに、課題に向けてアクションを起こしていきましょう!」としめくくった。
ReWaveが、ごみや資源循環の専門家と共同開発した海洋ごみ学習カードゲーム「Recycle Master」。イベントでは、各テーブルでカードゲームを楽しみながら海洋ごみや資源循環について学ぶ体験が行われた。
「Recycle Master」では、ペットボトルや魚網などのさまざまな海洋ごみをコミカルなキャラクターとして表現。これにより、「ごみは汚くて見たくないもの」というイメージを「かわいくて面白いもの」として、海洋ごみ問題について子どもも大人も楽しく学べるように設計されている。
ゲームでは、海エリアに出現する「ごみカード」と、それに対応する「リサイクルカード」と組み合わせ、「プロダクトカード」と交換する。手に入れたカードによってポイントが異なり、その合計ポイントを競う仕組みだ。この一連の流れを通じて、海洋ごみやリサイクルの仕組みを理解することができる。また、ゲーム中には講師による海洋プラスチック問題の現状や対策方法などの解説も聞くことができた。
各テーブルの優勝者には、ELEMINIST SHOPで取り扱うプロダクトが贈呈された。
カードゲームを通じて、日常生活で使用している身近なものが何でできているのか、使用後はどのような素材に分解され、再利用されるのかについて学ぶことができた。ごみの分別回収の重要性やリサイクルの仕組み、その可能性など、日常生活に即した知識を楽しく実践的に学ぶことができる「Recycle Master」は、テーブルごとに大きな盛り上がりを見せていた。
企業や自治体、NPO、アスリート、生活者が参加する中で、海洋環境保全についてそれぞれの視点から考え、可能性を話し合うワークショップが開催された。各テーブルではさまざまなディスカッションが行われ、最後に各テーブルのアイデアが発表された。
あるテーブルからは、観光者を対象に各企業が協力し、瀬戸内海で観光しながら海のアクティビティで環境について学ぶ『ラブウェイストツアー』が発表された。さらに、ごみ拾いでポイントを貯めて商品を購入できる仕組みも考えられていた。
別のグループでは、「ビーチクリーン日和」と称した、波情報とビーチクリーンのし甲斐がある日を示すサービスが発表された。波情報とともにビーチクリーン日和の情報を配信し、近隣の店舗やモデルルームにも掲示することで広く知らせることができるというものだ。
さらに、別のグループでは、「マイボトル利用者のための自動販売機」のアイデアが発表された。マイボトル利用者が自動販売機を使用できるよう、水だけでなくお茶やコーヒーなどの飲料を量り売りなどで販売することが提案された。自治体や企業との協力と上手く連携することで、実現を図れるのではないかと考えられていた。
さまざまな分野から環境への意識が高い人々が集まり、海洋ごみ問題や環境問題について学びが深められた今回のイベント。あらゆる視点で意見交換が行われることで、多くの気づきが得られる貴重な時間となった。
環境問題や社会問題について、まずは知ること。そして、できる範囲で楽しみながら行動することが重要だ。今回のトークセッションやワークショップのように、各々の気づきを共有すること、小さなアクションを積み重ねていくことが、将来的に大きなインパクトを生むことにつながる。すべての人や生き物、そして地球がよりよい未来を歩めるよう、身近なことから始めていこう。
ReWave
2021年、JPSA(一般社団法人 日本プロサーフィン連盟)の海洋環境保全のプロジェクトとして生まれた「ReWave」。ReWaveとは、Reduce, Reuse, Recycleなどのサステナブルな行動を象徴する Re(再び/元に)と、Wave(波)を組み合わせた言葉で、海を守るためのいろいろな想いが、波紋のように、多方面に波及してほしいという願いが込められている。海洋プラスチック問題を中心に、海を守るための具体的なアクションに取り組み、海の環境保全に関する賛同の輪を広げていくための活動を行なっている。
ELEMINIST Recommends